第45話 彼女と幼馴染と幼馴染の母親と夜ご飯を頂く
結局、阿奈さんを呼んで四人で夜ご飯を食べることになった。まあ、戌子が僕の自慢のラタトゥイユを食べたいと主張するのだ、悪い気はしない。
それに、普段から阿奈さんには食事を作ってもらっていたし、一回きりじゃお返しにはならないかもしれないが、今回くらいいいだろう。
「本当ごめんなさいね。お邪魔しちゃって」
リビングの座卓を、四方向から僕ら四人は囲むように座っている。
「大丈夫ですよ。こんな豪華なご飯も用意してもらっちゃって」
すでに食事は進んでおり、僕は阿奈さんが持ってきた鶏肉の甘露煮と春雨スープを楽しんでいた。
「ただの手抜き料理よ。というか、おばさんの料理よりも星也くんのラタトゥイユだよ。味付けのバランスも良くて。前から戌子に聞かされてたけれど、本当に美味しいわ」
こだわりの料理を普段から料理をしている人に褒められると、かなりうれしい。
「本当、お兄のラタトゥイユは美味しいよ」
戌子はバゲットにラタトゥイユを乗せてかぶりついた。
僕もお米に乗せてラタトゥイユを楽しむ。我ながら本当においしくて、最高の出来だ。お米が進みまくる。
「これが星也くんの料理……」
日和さんはよく僕のラタトゥイユを観察しながら、口に運んでいた。
「ど、どうかしたの?」
「いや、幸せだなって思って」
と、満足そうな表情を浮かべた。
「そ、そう……」
照れる。
僕だって昨日は日和さんの作ったご飯が食べられて幸せだったな。
「なんか、二人とも気持ちが通じ合ってるみたいで、微笑ましいわね」
と、阿奈さんはニコニコでこちらを見つめてきて。
「そ、そうですかね」
なんて日和さんはまんざらでもなさそうに微笑んだ。
「いーや、お兄とはあたしの方がずっと付き合いが長いんだから。あたしの方が心通じあってるはず」
なんて意地を張っている戌子は、バゲットに乗せたラタトゥイユに、今度はタバスコと粉チーズを振りかけてかぶりつく。
「お前、張り合うなら食べる手を止めろよ」
「お兄のラタトゥイユが美味しいのがいけないんだもん」
「それ私もやってみたいわ」
戌子につられ、日和さんもお皿にとったラタトゥイユにタバスコと粉チーズを振りかけていた。
「なんか、僕の料理をこんなに楽しんでもらえて、良かった」
「お兄の料理はラタトゥイユだけなら、心から楽しめるもんね」
そう、ラタトゥイユだけなら。
僕はブロッコリーのペペロンチーノをゆっくり味わう。
うん、味が薄いな……
◇◇◇
夜ご飯を終えて、四人で後片付けを済ましたら、日和さんと瀬根親子を見送る。
「お兄、あたし明日も来るから」
「こら。明日は戌子を邪魔させないから。今日は本当、ごめんなさいね」
「ちょっとお母さん!」
「あははは……」
と、二人の掛け合いを玄関先で微笑ましく眺めた。そして「おやすみなさい」と僕らは別れの挨拶を済ますと、阿奈さんはドアを閉める間際に。
「あまり深夜は、大きな声を出さないようにね」
なんていたずらに、小声で余計なお世話を忠告してきた。。
「い、いや何を言ってんの!?」
僕はすでに閉まった扉に向かって大きな声を出したが。
「ちょっと、何を言ってんのお母さん!!」
扉の向こうからも戌子の大声が聞こえた。
さて、二人を見送ったところで。
「日和さん、何かする?」
これから始まる二人きりの夜の時間だ。さて何をしようかと、僕は日和さんの方を向くと。
「せーいやくんっ」
「うおっ!?」
いきなり、ぎゅっと抱き着かれてしまった。女の子の柔らかい身体がくっつき、顔が熱くなる。
「ど、どうしたの?」
「理由がないと抱き着いちゃダメ?」
なんて、耳元で可愛らしくささやかれ。気分は高まり、僕もゆっくりと抱き返した。
日和さんのフローラルな良い匂いに癒される。
「大丈夫だった? 今日一日。あの猫俣さんには、何もされなかった?」
「うん。猫俣さんにそういうことはされなかったけれど……」
「けれど?」
「いろいろあったよ」
「いろいろ?」
ソファに二人並び、紅茶とチョコレートを用意して、僕はメシアさんにいろいろ教えてもらったこと、そして鳩島先輩に告白をされてしまったこと、先輩の取り巻きの恨みを買ってしまったことを話した。
「大変な一日だったわね……」
僕が今日の出来事を説明している間、日和さんは紅茶にもチョコレートにも手を付けず、ずっと不安な表情を浮かべていた。
「君に告白した学園の王子様。多分、ラバーズよね」
「やっぱりそう思う?」
「そうでしょ、だって君のことが好きなんだもの」
だったら注意しなくてはいけない。今日もかなり責め寄ってきたのだし、また近づいてきたときに変なことをされるかもしれない。
「私、やっぱり怖いわ。猫俣さんに続いて、そんな人まで出てきて」
「大丈夫だよ、前に決めたように、人の多いところにいるようにするから」
「それもそうだけれど、その鳩島さんとかいう人の取り巻き。私はそれも心配なの。女の子は嫉妬すると怖いから」
女は嫉妬すると怖い。それは身をもって体験しているから、十分知っている。木原さんたち以前にも、嫉妬の怒りに飲まれた人を何人か見ているし。目の前にいるこの人もそうだ。猫俣さんと対峙したときのあの迫力を忘れない。
「賢くんともできれば一緒にいてね。君は押しに弱いところがあるから、賢君と一緒にいれば、彼が助けてくれるでしょう」
「でもあいつ猫俣さんの手下だぞ」
「私と付き合ってるって、わかってもらえたんでしょ? だったらまあ、多分……大丈夫よ」
やっと紅茶に手を付けた日和さんは、浮かない表情を浮かべている。
「……気晴らしにゲームでもします?」
僕は彼女に落ち着いてもらいたく、テレビゲームをしないか提案した。
「……いいわね。何を持ってるの?」
と尋ねてきながらも、日和さんは僕の膝に頭を乗せてくる。
「なっ どうしました?」
「どうしたって、膝枕ですけど?」
さも膝枕をしてくることが当たり前のような表情で、こちらを見上げた。
か、可愛いな……
だが、下からことらを覗いてくるのだ。僕の鼻の中を見られてしまわないだろうか。最近は鼻毛の処理を怠っていたから、心配だ。
「それで、何を持ってるの?」
「だ、大〇闘とか……」
「いいわね、それをしましょう!」
この晩はそれから、二人ゲームで大いに盛り上がった。だが日和さんはずっと膝枕を続けていて。膝の上の幸福感もさることながら、しかし鼻毛の件、そして股間の近くに彼女の頭がある、ということを意識してしまい、ゲームにあまり集中ができなかった。




