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第3話 合コン会場へ

「そりゃ、えらい目にあったな」


 講義が終わり、講義室内に残って、僕は賢の隣に座りながらさっきの出来事を話していた。ただ事じゃなかったというのに、賢は面白がるように笑っている。


「しかし、あの鞠井先輩に誘われるっていうのは、結構すごいことだったりするぞ」

「どういうこと?」

「ビッチだなんて噂されてる鞠井先輩だがな。でも誰彼構わないわけでもなくてな、聞いたところによると、あの人は異性として良いなと思った人としかしないらしいぞ」


 僕のことも気になったということか。あんな素敵な人に気になってもらえたのは素直に嬉しいが、やはり遊んでいるような人は苦手だな。


「というか、あのお嬢様のようなルックスに反して、意外とそういうことをするんだ」

「いや、サークルの連れに聞いたところによると、高校生のころまでは絵にかいたような優等生だったらしい。その連れが高校一年のころ、当時鞠井先輩は三年生で、当時は超清楚な生徒会長として、まさに学校のマドンナ的存在とされていたんだとよ」

「それが大学生になって、なんであんな感じに」

「大学デビューしたら男を知って、性に溺れたらしい」

「ああ……」


 何というか、哀れな。


「そんなことより、あいつらから連絡来たか?」

「うん、まあ」


 今日の合コンのメンバーとなる、賢の友人からのメッセージ。


「七時から駅前の居酒屋で、予定どおり三対三で行うって」

「そうか。無理やり行かせるようで悪かったな」

「謝るなら強制するなよ。でも、覚悟は決めたよ」

「お?」

「いつまでも過去の恋愛を引きずっていたらいけないよな。いい機会かもしれない」


 というのは建前。本当は一度くらい経験してみたいという興味がある。僕の中で栗村さん以上の人間が見つからない限り、僕は誰かに恋はできないだろう。まあ、こんな僕にそんな選択ができる立場はないのだけれど。


 それでも、少しは良い出会いがあれば良いなとは考えている。ちょっとは期待している部分もある。


「ああ、その心意気良いぞ。ただな、お前も何度も会ったことがあるからわかると思うが、あいつらお前とはノリが違うからな。気の合わない部分も結構あるだろう」

「そもそも友達の友達だもの。お前がいないと気まずいよ」

「まあ、なんとかうまくやってくれ」


 本当、強引なやつだ。



◇◇◇



 集合時間までレポートを書いて過ごし。時刻は午後五時半。

 雨はやんでいた。しかし空は曇ったままで、湿気はムンムンとしている。

 紺色の傘と白色のトートバッグを持って、羽虫をかいくぐりながら、僕はキャンパスの正門前まで向かう。


「お、来たな木野」


 校門付近まで来ると、その手前に賢の友人である男二人が待っていた。


 セントラルパーマの髪型に、縁の細い丸眼鏡をかけた丸山と。ツーブロックで身長が高く、いかつい印象を持つ秋田だ。


「二人とも、今日はよろしくお願いします」

「おう、よろしくな」


 秋田は背中にギターケースを背負っている。たしか、軽音サークルに所属していたが。


「それ、今日持って行くの?」


 これからこぞって合コンに行くのに、そんな大荷物があると邪魔にならないだろうか。


「そりゃ、俺のアピールポイントなんだから、こんなかっこいいもん、持って行かなきゃ損だろ」


 なんて言いながら、サクッとケースから取り出したベースギターをベベンと弾いた。


「ベースギターなんて、地味だよね」


 丸山は指を指して笑う。


「は? お前今全国のベーシストを敵に回したぞ。ベースかっこいいだろ!」


 地味ではないが、そこまで派手な印象は僕にもないかもしれない。


「そういうお前は、なんかアピールあるのかよ」

「僕には文学系の知識があるからね」 


 たしか丸山は文芸サークルに所属していた。だから、様々な知識を文学から得ているのだろうか。


「いやお前、自己啓発本しか読まねえだろ。そんなところから得る知識が、ギャル相手に役立つか?」

「いやいやいや、意識の高い男として、かっこよく思われるかもじゃん」


 なんて言い合う二人を、僕はハハハと笑いながら見ていた。


「お前は、なんかあるの?」

「え?」


 話を振られる。


「アピールポイントだよ」

「えーと……」


 特に……ないな。


「僕には、特技もなければ、特出して何かの知識があるわけでもないからなぁ」

「えー、お前つまらなっ」


 そんな真正面から言うか? 

 悪かったね、つまらない人間で。


「いいかい木野。合コンはね、どれだけ女性に注目してもらえるか、面白いと思ってもらえるかが命なんだよ」


 丸山は諭すように言う。


「アピールできる技能が無ければ、面白い話でもして乗り切るしかねーな」

「いや、お世辞にも木野は会話が得意でない節がある。そんな君が合コンの場で面白いことが言えるとは思えないんだ。だからこそ、僕らのようにアピールする技能が特に必要となってくるのだけれど。何かないのかい? 合コンの場で君がアピールできる点は」

「えーと、まあ、アニメの話くらいはできるけれど……あと小説も少しはいける」 


 アニメも文学もオタクな趣味であるが、そういう答えを求めていないのだと、二人は冷めた目で僕を見ている。


「ギャル相手にアニメの話が通用するとでも? オタクにやさしいギャルは実在しないんだからな」

「小説は、まあクールな印象をだせるかもしれないけれど、確か君は古い小説とライトノベルしか読まないだろ? 僕の自己啓発本には劣るかな」

「そ、そうかな」


 劣るって、何が?


 そんなやり取りをした後、僕らはバスに乗って、ここから離れた駅まで向かう。

 その道中、秋田ら二人は唯一空いていた席に座り、鏡を見ながら髪をいじったり、自身の匂いを確認したりしていた。自分をよく見せるための意識が高い。


 それを見ながら吊革にぶら下がる僕は、これから経験する会合に緊張して、ただ身体を震わせていた。


 寒くないのに体がブルブルと震える。ガクガクと合わさる歯の音は周りに聞こえてしまっていないだろうか。


「まあそんな緊張するな新人」


 秋田が僕を新人と呼ぶ。


「君らは、合コンの経験があるんだよね」

「おうよ、何回も行ったぜ」

「何回もっていうか三回ほどだけれど」


 三回でも僕からしたら結構な数だ。


「それでも、経験は得られたから、今回こそはうまくいくはずだと思う」

「今回こそ?」


 もしかして、これまで全敗なのか?


「いやいや、連絡先は一度交換したぞ」

「すぐブロックされてたけれどね」

「余計なこと言うな」


 秋田は丸山を小突いた。


「そういうお前だって、連絡先を交換してやり取りをしたはいいものの、進展せずに今は未読スルーされてるじゃないか」

「言わないでよ」


 なんて言っているが、僕からしたら二人とも連絡先を交換しているのだ。それがもう高レベルだと思う。


「ま、そんな感じで俺らは経験者なわけだ。正直、今回こそ成功させたい気持ちがあってな、とてもお前をサポートしてやる余裕はない」

「まあ、とりあえず一緒に居てくれたら、次からに活かせるとは思うから」


 それはつまり、今回はもう僕に勝ち目はないということか? 良い出会いはないと言いたいのか?


 いや正直、分かってはいるのだ。今回の合コンの相手と良い感じになれるとは思っていない。だって、向こうはギャル三人組だと聞いている。無理だろ、普通に。僕と住んでいる世界が違いすぎる。


 賢だってそれはわかって送り出したとは思う。いつまでも過去の恋愛にとらわれている僕を何とかしようとしてくれたのだ。だから僕も、それを踏まえて今回は体験のつもりで行くことにした。


 ただ、二人に対して地味な僕は、今回は引き立て役として存在することになる。それが意味するのは、僕は今回気まずい空間に居なくてはいけないことになる、ということ。


 絶対、途中で来たことを後悔するんだろうな。大井先輩のように。


「しかし、今回の相手は強者だぞ」

「そうだね。猫俣さんとその友人たちだ。みんな男性経験のありそうな女性の方々だよ」


 ギャル集団。陽キャ女性三人衆。そんな人達とご一緒しようとしていること。それを再認識するとまたブルブルと身体が震える。


「ああ、だからこそ油断はできない。俺たちが男らしいところを見せないと、面白いところやかっこいいところを知ってもらわないと、絶対振り向いてくれないぞ」


 男らしいところか。


「ま、お前にはないもんな、男らしいところ」


 なんて秋田に言われる。


 そんな真っ向から煽らなくてもいいじゃないか、と言いたいが。しかし、秋田のような、ワイルド気質で男らしい男に言われてしまえば、僕は何とも言えない。


「いや、意外と寡黙にしていればクールに見られるかもしれないよ」


 間接的にしゃべらない方が良いと言っているのか。だが、丸山のように落ち着きのある男に言われたら、素直にそうした方が良いかもしれないと思った。


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