表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

第25話 想いを告げる妹のような幼馴染

 服を着て、髪を乾かして、リビングに戻る。

 手当は適当に済ませてしまったが、しかし外傷は案外ひどくなさそうなので、まあすぐに治るだろう。

 戌子はソファに座って、僕のマグカップで何かを飲みながら、こちらのことを見つめてきた。


「戌子、聞きたいことがあるんだけど」


 聞かなくてはいけない。

 なぜラバーズのことを知っているのか。

 けれど、そこには不安がある。


 もし、戌子が僕のことを好きだったら、兄妹のような間柄を通り越した、特別な感情を抱いていたら。


 僕はどんな顔をしたらいいのだろうか。


「聞きたいことはわかってる。ラバーズだよ、あたし」

「え、そ、そうなのか……」


 あっさりと答えてしまう。

 ということは、僕のことを好きなのか。


 そうなんだ……



 戌子とは、昔からずっと仲が良かった。

 僕らは幼なじみの間柄で、僕はこいつのことをずっと妹のように思って接していた。戌子も僕のことをお兄と呼んでいるように、まるで実の兄のように慕ってくれていた。

 だから僕は、僕らが兄妹のような関係だと思っていた。


 けれどこいつは、僕のことを異性としても見ていたのだ。


 戌子は誰よりも、彼女である日和さんよりも、僕とは距離の近い関係である。

 だからこそ、僕は不安だ。戌子にラバーズの能力で迫られたら、僕は抵抗ができない。


「安心して、あたしはお兄を襲ったりはしないから」


 僕の考えていることを察してか、戌子は口を開いた。


「だって、それだとお兄の身体に傷をつけたやつと同じだよ。あたしはお兄が嫌がるようなことはしたくない」

「そうか……ありがとう」

「……でも、それでも譲れない気持ちはある」


 そう言いながらソファから立ち上がると、戌子は僕に飛び込むように抱きつく。


「い、戌子?」



「あたし、お兄の彼女になりたい。お兄の恋人になりたい!」



 それは戌子が今までに僕に抱いていた想い。


「あたし、ずっとお兄が好きだった。昔から、ずっと好きだった。けれど、もし気持ちを伝えて、お兄との関係が崩れちゃったら。そう考えたら怖くて、言えなくて。でもそのうちに、お兄が他の女に取られちゃって。それが……それがっ!!」


 また胸の中で泣き出してしまった。


「戌子……」


 今の戌子に言うには残酷なのだけれど、でも、言わなくてはいけない。ちゃんと、諦めてもらわなくてはいけない。


「ごめんね。僕は日和さんと付き合ってるんだ。日和さんのことが好きなんだ。ごめんね……」

「うわあああ!」


 泣きじゃくる戌子。それは小さな頃に見た癇癪とも違う、心の底から悲しむ姿。僕は、ただ抱きしめて、頭を撫でることしかできなかった。なにも言葉をかけてあげられなかった。

 

 十分ほどこの状態が続くと、泣きつかれたのか、戌子は僕から離れて、ふらついたように僕の自室の方へ向かった。


「お兄、一緒に寝よ」


 涙ぐみながら言う。


「いや、寝るって」

「変な意味じゃない。ただ、一緒に眠りたいの。何もしない、ただの添い寝だから。ただ、お兄を今だけでも独り占めしたいの……だめ?」


 今までも戌子とは一緒に寝ていた、というか目を覚ますと勝手に戌子が隣で寝ていた、なんてことはよくあったが、あれは戌子の独占欲だったのか。


 戌子が、それで満足してくれるなら。


「……いいよ。寝るだけなら」




 そんなわけで、僕らは二人でベッドに入った。


 日和さんには、二人の問題はとりあえずお落ち着いたよ、と連絡を入れた。実際解決はしてないのだが、戌子は僕に彼女がいることに対し、別れてほしいなんてわがままを言うことはなかった。日和さんを認めていなくても、僕の意思は尊重してくれているようだ。だって戌子は、僕の嫌がることはしないと言ったのだから。


 いつの間にか隣で寝ていることはあっても、最初から二人で同じベッドに入るのはいつぶりだろうか。小学校の低学年以来ではないだろうか。

 

 戌子は、窓はしっかり閉めてほしいというので、鍵までかけておいた。六月の夜はまだ肌寒いが、部屋を閉め切ってしまうと、そして広くはないベッドで二人で寝るとなると、熱くなると思うので扇風機をかける。


 ベッドは壁際に面して設置されており、僕はベッドの端、壁際に当たるまで身体を持ってくる。広くないベッドだ、少しでも距離を取りたい。


 戌子は躊躇なく、もう片側に寝転がった。


 僕は戌子とは反対の方に身体を向ける。枕は今日は使わない。戌子に貸してやる。


 一枚しかない薄めの毛布を戌子に「お腹冷やすなよ」なんて言って渡したが、「独り占めしたくない」なんて僕に近づき、半分をかけてきた。


 匂いがする。ミルクのような、柔らかい戌子の匂い。女の子の匂いだ。戌子も女のことなんだ。


 僕のベッドで、戌子と二人横になっている。それを再認識すると、なんだか落ち着かない。

 だって、意識してしまうだろ。僕のことが好きなんだぞ。


 ……なんで、僕は戌子と一緒に、一つのベッドで寝てるんだ。よく考えたら僕はなんでそれを了承したんだ、おかしくはないか?

 でも、これは僕の甘さによる結果だ。戌子に申し訳ないと思って、OKしてしまった。 

 僕は妹に甘い兄なんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ