第25話 想いを告げる妹のような幼馴染
服を着て、髪を乾かして、リビングに戻る。
手当は適当に済ませてしまったが、しかし外傷は案外ひどくなさそうなので、まあすぐに治るだろう。
戌子はソファに座って、僕のマグカップで何かを飲みながら、こちらのことを見つめてきた。
「戌子、聞きたいことがあるんだけど」
聞かなくてはいけない。
なぜラバーズのことを知っているのか。
けれど、そこには不安がある。
もし、戌子が僕のことを好きだったら、兄妹のような間柄を通り越した、特別な感情を抱いていたら。
僕はどんな顔をしたらいいのだろうか。
「聞きたいことはわかってる。ラバーズだよ、あたし」
「え、そ、そうなのか……」
あっさりと答えてしまう。
ということは、僕のことを好きなのか。
そうなんだ……
戌子とは、昔からずっと仲が良かった。
僕らは幼なじみの間柄で、僕はこいつのことをずっと妹のように思って接していた。戌子も僕のことをお兄と呼んでいるように、まるで実の兄のように慕ってくれていた。
だから僕は、僕らが兄妹のような関係だと思っていた。
けれどこいつは、僕のことを異性としても見ていたのだ。
戌子は誰よりも、彼女である日和さんよりも、僕とは距離の近い関係である。
だからこそ、僕は不安だ。戌子にラバーズの能力で迫られたら、僕は抵抗ができない。
「安心して、あたしはお兄を襲ったりはしないから」
僕の考えていることを察してか、戌子は口を開いた。
「だって、それだとお兄の身体に傷をつけたやつと同じだよ。あたしはお兄が嫌がるようなことはしたくない」
「そうか……ありがとう」
「……でも、それでも譲れない気持ちはある」
そう言いながらソファから立ち上がると、戌子は僕に飛び込むように抱きつく。
「い、戌子?」
「あたし、お兄の彼女になりたい。お兄の恋人になりたい!」
それは戌子が今までに僕に抱いていた想い。
「あたし、ずっとお兄が好きだった。昔から、ずっと好きだった。けれど、もし気持ちを伝えて、お兄との関係が崩れちゃったら。そう考えたら怖くて、言えなくて。でもそのうちに、お兄が他の女に取られちゃって。それが……それがっ!!」
また胸の中で泣き出してしまった。
「戌子……」
今の戌子に言うには残酷なのだけれど、でも、言わなくてはいけない。ちゃんと、諦めてもらわなくてはいけない。
「ごめんね。僕は日和さんと付き合ってるんだ。日和さんのことが好きなんだ。ごめんね……」
「うわあああ!」
泣きじゃくる戌子。それは小さな頃に見た癇癪とも違う、心の底から悲しむ姿。僕は、ただ抱きしめて、頭を撫でることしかできなかった。なにも言葉をかけてあげられなかった。
十分ほどこの状態が続くと、泣きつかれたのか、戌子は僕から離れて、ふらついたように僕の自室の方へ向かった。
「お兄、一緒に寝よ」
涙ぐみながら言う。
「いや、寝るって」
「変な意味じゃない。ただ、一緒に眠りたいの。何もしない、ただの添い寝だから。ただ、お兄を今だけでも独り占めしたいの……だめ?」
今までも戌子とは一緒に寝ていた、というか目を覚ますと勝手に戌子が隣で寝ていた、なんてことはよくあったが、あれは戌子の独占欲だったのか。
戌子が、それで満足してくれるなら。
「……いいよ。寝るだけなら」
そんなわけで、僕らは二人でベッドに入った。
日和さんには、二人の問題はとりあえずお落ち着いたよ、と連絡を入れた。実際解決はしてないのだが、戌子は僕に彼女がいることに対し、別れてほしいなんてわがままを言うことはなかった。日和さんを認めていなくても、僕の意思は尊重してくれているようだ。だって戌子は、僕の嫌がることはしないと言ったのだから。
いつの間にか隣で寝ていることはあっても、最初から二人で同じベッドに入るのはいつぶりだろうか。小学校の低学年以来ではないだろうか。
戌子は、窓はしっかり閉めてほしいというので、鍵までかけておいた。六月の夜はまだ肌寒いが、部屋を閉め切ってしまうと、そして広くはないベッドで二人で寝るとなると、熱くなると思うので扇風機をかける。
ベッドは壁際に面して設置されており、僕はベッドの端、壁際に当たるまで身体を持ってくる。広くないベッドだ、少しでも距離を取りたい。
戌子は躊躇なく、もう片側に寝転がった。
僕は戌子とは反対の方に身体を向ける。枕は今日は使わない。戌子に貸してやる。
一枚しかない薄めの毛布を戌子に「お腹冷やすなよ」なんて言って渡したが、「独り占めしたくない」なんて僕に近づき、半分をかけてきた。
匂いがする。ミルクのような、柔らかい戌子の匂い。女の子の匂いだ。戌子も女のことなんだ。
僕のベッドで、戌子と二人横になっている。それを再認識すると、なんだか落ち着かない。
だって、意識してしまうだろ。僕のことが好きなんだぞ。
……なんで、僕は戌子と一緒に、一つのベッドで寝てるんだ。よく考えたら僕はなんでそれを了承したんだ、おかしくはないか?
でも、これは僕の甘さによる結果だ。戌子に申し訳ないと思って、OKしてしまった。
僕は妹に甘い兄なんだ。




