第24話 痣を舐めてくる妹のような幼馴染
「な、なあ戌子……」
いろいろと聞きたいことがあるが。
「お兄っ!」
「うわっ!」
戌子は勢いよく抱き着いてきた。その勢いで僕は押し倒されてしまう。
「いたた……」
「ご、ごめんお兄」
つい今までとは打って変わり、とても心配そうで不安な表情をしていた。
「あたし、お兄のことがが心配で心配で、うう……」
そして僕の上にまたがり、胸の中で嗚咽をあげる。
シャツ一枚の胸に、戌子の熱い息と、湿った感覚がある、
しばらく見てこなかった、戌子の泣く姿。そこからもわかる、こいつの本気の心配。
「その、ごめんな、不安にさせて」
「うん。」
これだけ怪我をして帰ってきたこと、本当に驚いただろう。
「……お兄、臭い」
「あ、汗かいたし仕方ないだろ」
「違う。ほかの女の汗の臭いがする。気持ちの悪いおばさんの汗の臭い。タバコの混じった不潔な匂い。あと、さっきの女の匂いも」
鬼頭さんと日和さんの匂いを、僕から嗅ぎとったのか。
「けがの治療をするためにも、先にお風呂入って。そのついでに臭いも落としてきて」
「上に乗ってたら動けないよ」
「うん、ごめん」
少し落ち着いてから、戌子をリビングに連れて行き、シャワーを浴びに向かった。
脱衣所にある洗面台の鏡で、裸になった自分の姿を見て驚く。
顔に、身体のあちらこちらに青痣ができている。自分の怪我ながら本当痛々しく、みすぼらしい。擦り傷のような出血跡も確認できた。
胴体の痣は服で隠せるけれど、顔の痣や傷は隠せないな。
大学で聞かれたら、どうごまかそうか。盛大に転んだ、で押し通すか。
シャワーをするが、お湯に触れるだけで痣はヒリヒリとしみて、しっかりと体を洗えなかった。ボディーソープもうっすらと使ったが、しかし痛くて叫びそうになる。
この身体は誰にも見せられないよな。まあ、人に見せる機会なんて僕にはない……と今までなら考えたけれど、彼女がいる今は絶対ないとは言わないでおこう。
シャワーを何とか済ませると、脱衣所に戻り身体を拭いていた。節々にも痛みを感じ、捻挫をしているみたいで、なかなか拭きづらかった。
そんな中。
「お兄、入るよ」
「うおっ!」
なんか、戌子が脱衣所に入って来た。
「の、ノックもせずに入って来るなよ。いや、ノックしても入ってくるなよ。僕全裸だぞ!」
「いいでしょ今更、何度も一緒にお風呂入ったじゃん」
「いつの話だよ!」
小学生の頃の話だろうが。
「……」
戌子は視線を低くして。ジーッと、僕の下腹部を凝視してくる。
僕はすぐにパンツを履いた。
「な、なんの用だよ」
「手当だよ。裸ならちょうど良いでしょ」
片手に持って来ていた、我が家に備えてある救急道具の入ったかご。消毒や軟膏、テープといった軽い治療道具が揃えてある。
「そうか、ありがとう。でも、別に一人で必要な処置はでそうだぞ」
「背中は? 身体もあちこち痛いんでしょ。無理しなくていいの」
「無理はないけれど」
戌子の表情は暗いままだ。
でも、裸である僕を前に、何のためらいもないその反応が、落ち着かない。
「……ひどい身体、本当に許せない」
「日和さんのせいじゃないよ」
「……ほかのラバーズにやられたんでしょ」
ラバーズ。またその単語を口にする。戌子は、やはりラバーズを知っている。
戌子は僕の腹部の痣を優しくさすった。
「うっ、くすぐったいって」
「お兄のことが好きなはずなのに、こんなことをするなんてひどい。自分勝手の欲望でお兄の嫌がるようなことをするなんて最低だ」
涙目になって、立ち尽くしている。
それだけ悲しんでくれるのは嬉しいが。
「えっと、手当をしてもらっても?」
「……痣ってどうやって治療するの?」
「いや、救急箱、というか救急かごを持ってきといて?」
「出血しちゃったところには傷薬とテープ貼っとくけど......」
「痣にも塗り薬があるよ。確かそのかごにも入ってるはず」
「そうなの?」
とかごの中を漁る。
「あとは冷やすのが良いみたいだけど」
身体中に痣があるからな、どう冷やそうか。保冷剤や氷を全身に当てるのは難しいし。
戌子は薬を取り出したが。
「……気に入らない。他の女のつけた跡が残ってるの。まるで自分の所有物だって主張してるみたいで」
なんてぼやくと、なにやら顔を胸元の痣に近づけてきて……
ペロッ
「んん!?」
舐められた。戌子が痣をペロッとしてきた。しかも、一舐めで終わらず、舐るように……
生暖かい、ねっとりとした感触。ちょっと気持ちよくて、しかしひりひりとする。
「いや、何をしてんの!?」
僕は咄嗟に戌子を突き放す。
戌子は息を荒くしているが、平然を装っている。
「唾を付ければ早く治るかなって」
「いや、やめてくれよ」
と戌子の両肩を押さえてやめさせようとするも。
「嫌だ」
今度は腹部の痣を舐めてきた。
「汚いから」
「シャワー浴びたあとだから、汚くない。まあ、お兄の味がしなくて残念だけれど」
「僕の味って何!? ていうか、汚いのはお前の唾液だよ」
「はあ!?」
顔を真っ赤にして頬を膨らませる。
舐めてくるのは汚いだろ。
「痣はまあ、ぶっちゃけほっといてもそのうち治るからさ、別に舐めなくてもいいよ」
「あっそ……」
戌子はムスッとした顔で脱衣所から出ていった。
戌子の思いやりに対して、良くないことを言ってしまっただろうか。いや、でも舐めるのは変だろ。




