第14話 笑顔が可愛らしい
先生に二人で手を振り、それから僕らは決めておきたいことについていろいろ話し合った。
「じゃあ、もし僕がラバーズに出くわしたら、日和さんに連絡をすればいいんだね」
今話しているのは、僕がラバーズに会ってしまったときの対処方である。
「そう。スマホのGPS機能で位置が共有できるから、すぐに飛んでいくよ。たとえ私があっちの学校にいても、お風呂に入っていても、眠っていたとしても」
日和さんから、すぐに駆けつけられるようにということで、位置情報を共有できるアプリを入れた。
「そんな、そこまで無理しなくても大丈夫だよ」
日和さんはすぐに飛んでくるなんて言うが。彼女の通っている学校は都会の方だ。平日は毎日電車で通学している。だから、平日の昼間に日和さんに助けてもらうのは不可能だ。だから僕が気をつけないといけない。
「無理なんかじゃない。もし君の身体が好きなようにされちゃったら、いやだよ。何度も言うけれど、昨日の猫俣さんみたいに押さえつけられたら星也くんは何にもできないんだよ。一方的に、蹂躙される。暴力を振るわなくても、性的なことはしてくるかもしれない。そんなのただのレイプて、寝取られ。そんな目にあってほしくない」
「う、うん。そうだよね、ごめん」
確かに、逆の立場で考えて、日和さんが誰かに好きなようにされていたら、すごく嫌だよな。
好きなようにされてたら……
ここでふいに、考えたくないことを思い出してしまった。
日和さんも以前、拓志とつき合っていたわけだ。キスはとうにしているし、もしかすると、それ以上も経験しているかもしれないのだよな。
「……」
グイッとコーヒーを一気に飲み込んだ。
そんなこと、気にしてはいけない。考えるな。
何より、別に過去にそういうことをしていたところで、僕の日和さんへの想いは変わらないのだから。
「あと、最後にもう一つ」
顔をテーブル越しに顔をこちらに近づける。
「昨日は身近な女性に気を付けて、なんて言ったけれどさ。無理にとは言わないけれど、なるべく、女の人と二人きりにならないでほしいの」
これは、彼女として独占欲を向けられている。というのではなく、他のラバーズの被害にあわないように気を付けてほしいという警告だよな。
「了解しました」
まあ、女性と二人きりになることなんて、僕にはそうそうない……
思い返せばある。
戌子はともかく、大学でも昼休みには大井さんと二人きりで雑談をしている。これからはそれも控えるべきなのか。それもちょっと寂しいけれど。
ある程度決め事をしてからは、適当な雑談を交えた。お互いに学校では何を学んでいて、どんなバイトをしているのか。
趣味は昔と変わらず、日和さんは映画鑑賞や旅行を楽しんでいるそうだ。僕もいつかそれに付き合いたいと思った。
「日和さん、花屋で働いてるんだ。なんだか似合うね」
「でもね、結構力仕事だよ。それに今はネットの注文があるから、アレンジメントを箱へ梱包する作業もあるのだけれど、日本全国から注文が来るの。お盆なんて仏花のアレンジメントの注文が多くて大変。さらに冠婚葬祭があると大量の供花を準備しなくちゃで大忙し。おまけに手にはトゲが刺さるし水仕事だから荒れやすいしで」
「それは、本当ご苦労様で」
けれど彼女の手はハンドモデルのように傷一つなく綺麗で、ケアを欠かしていないのだと感心した。
「じゃあ、星也くんはこの後コンビニでバイトなわけだ」
「うん。明日もあるよ」
「そう、じゃあ今日はこの後あまり過ごせないんだね」
なんて、ちょっと寂しそうな顔をする。可愛すぎる。
時刻は三時手前だ。
「いや、五時からスタートだから、まだ時間は残ってるし、なにかしましょう?」
「うん、いいね」
ニコッと可愛い笑顔を見せてくれた。
なにかしようとは言ってもそこまで時間があるわけでもない。カラオケに行くには時間が足りないし。
ということで、カフェを後にして、近所の大型スーパーに行くことになった。
しかし、僕が行こうと誘ったのだが、若者からしたら何もないと言えてしまうような田舎の大型スーパーで、とても気の利かない場所を選んでしまったと思っている。
場所を選ぶことに時間を削りたくないと焦ってこの場所を選んでしまったが。でも二人で百円均一を「これいいよねー」なんて言いながら物色したり、ドーナッツ屋でおやつをいただいたりして回ると、とても普遍的でいつも見る景色の、何の特徴もない場所、とは思えないほどキラキラしていて楽しく感じた。
そしてあっという間に時間は経ってしまい。
僕の勤め先のコンビニまで、二人で歩きながら向かっている。というか、送ってもらっている。
今日は梅雨にしては太陽がギラギラな日で、彼女は日傘をさしながら隣を歩いてる。今回はなんとか僕が車道側を陣取ったが、しかし日和さんは、歩く位置なんて気にしていないのだろうな。
「へー、星也くんも日焼け止め使ってるんだ」
「とはいっても、安いのを適当に塗ってる程度なんだけれど」
「結構、肌を気にするタイプ?」
「日差しが強いと肌が焼けて痛くなるからさ、それが嫌で日焼け止めを塗ってる感じで、特別気にしているわけではないかな」
多少お風呂上りに保湿やニキビに効く安い化粧水を塗ってはいるけれど、女性に言うほどのものは使っていない。
「でも、星也くん結構肌綺麗だよね」
なんて顔を近づけてじっと肌を見てくる。
「そ、そうかな?」
鼻毛が出ていないだろうか。唇の皮はむけていないだろうか。皮膚は荒れていないだろうか。
途端に恥ずかしくて僕はそっぽを向いた。
「自分的には結構カサカサしてる気がするけれど」
「でも、正直ニキビもないし日焼けを気にしているからか赤みもない、普通に綺麗だと思うよ」
「あ、ありがとう」
女性に肌を褒められると、普通にうれしい。
「でも、日和さんの方がめっちゃ肌すべすべだし白いし、綺麗だよね」
「ほんと? 私はもともとニキビや毛穴がひどかったからさ、食生活とか化粧水とか頑張って見直して良くしていって。だから褒められると、すごくうれしい」
と素直に喜ばれて、ドキドキする。
自分磨きの努力あってのこの美貌ということなのか。すごく尊敬する。
「肌もきれいだけどさ、でも日和さんは笑顔が可愛らしいよね」
「え、笑顔が?」
「そう。高校生のころ僕と話してたとき、楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれてたからさ。そこに僕はときめいたのかなって」
「そ、そうなんだ……」
おっと、我ながら歯の浮くことを言ってしまった。恥ずかしい。
「ありがとう……」
しかし、日和さんは照れるようににそっぽを向く。だがニヤけているところが見えてしまい、はじけ飛びそうになった。
好き度が増した。マジ天使というやつだ。
こんなにも麗しくて可愛くて、そして僕のことを想ってくれて。昨日は怖いという感情も持ってしまったが、やっぱり僕は日和さんが好きなのだ。
でも、好きだということを自覚するほど、やはり自分の弱さ、守ってもらうという立場が情けなく思ってしまう。
なるべく、彼女に負担はかけさせたくない。自分で解決できそうな事案は、自分で何とかしたい。




