表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

第11話 心の中に彩り

 一息ついて落ち着いて、僕らは帰路に着くことにした。


 駅から真っすぐ伸びる四車線の大通り。この町のメインストリートで、駅から近い所には大型スーパーやこの町の名産物である和菓子屋さん等のお店が建っている。

 古臭い見た目だけど中身はLEDの街灯と、秋には金木犀の匂いが香る街路樹が等間隔に並んでいる。


 僕らはその大通りを上っていた。

 現在の位置まで来るとお店はなくなり、住宅が一帯に面している。

 僕の住むマンションはこの大通りをもう少し上った先にある。



 僕は今、彼女に家まで送ってもらっている。

 こういうのって、普通逆ではないか。彼氏が彼女を、夜道は危ないからって送っていくものではないのか。しかし僕は今、夜道は危険だからと言われて、彼女に送ってもらっている。


 横に並び、手をつないで歩いているのだけれど。彼女は車道側を歩いている。

 何気なくそっち側に回ろうと思ったのに、自然にそちら側をとられてしまった。

 だが、今の栗村さんがヒョロヒョロな僕なんかよりも強いというのはわかっている。

 でも、彼氏として情けない気がしてならない。


「本当に、わざわざ家までついてこなくてもいいんだよ?」

「いいや、ダメだよ。ついさっき君は襲われたばかりなんだから。まだ安全は保障できないし、私も落ち着かないの」

 

 なんて譲ってくれない。その気持ちはうれしいのだけれど。


「……僕は、本当にこのまま付き合ってもいいのかな?」

「い、いきなりどうしたの?」

「やっぱり、栗村さんが傷つくことが嫌で」

「だ・か・ら!」


 栗村さんは僕の手をぐっと引き寄せた。肩がくっつく。


「……歩きずらい」

「木野くんはさ、私が、他の男と付き合ったら嫌だよね」

「そ、そりゃそうだけど」


 好きな人が他の人と付き合っている現実は残酷だ。

 あのころもずっとそうだった。


「私も同じ。だから、木野くんとは付き合っていたい」


 でもそれは、他の僕のことが好きだという人たちも同じなのだろう。そんな人たちに栗村さんは命を狙われるかもしれない。何人もいるラバーズというやつに。

 だから、怖い。あんな異常な能力を使う人たちがまだいるのだから怖い。あんな人に襲われたら、僕は何もできないのだから。


 メシアという人は何者なのか。その宝石は一体何なのか。他にも不明な部分がたくさんあるが、栗村さんはさっき話した内容以上のことは聞いていないらしい。

 いずれ、僕もその人に会えないだろうか。話を聞いた限り、僕はその戦いの中心にいるみたいだし。その人としっかりと話をする必要がある。


「というか、そんな僕に関わる出来事が起こっているのに、メシアさんとか言う人は、なんで僕にその話をしに来てくれないんだ」


 それもまた、メシアさんを怪しむポイントになっている。


「……日和さん。そういえばなんだけれど、さっきあれだけ爆発みたいな事態が起こったのに、なんで近所に住んでる人、見にこなかったんだろう」


 僕は疑問に思ったことを口に出す。


 栗村さんと猫俣さんが変身して戦っていた際、かなり大きな音を出したし発光も起こった。何より栗村さんが地面が広くえぐれるほどの攻撃をお見舞いしたのだ。

 爆発のような轟音、地面の揺れ、公園をすべて照らす閃光。そんな異常があったというのに、その後二人でしばらく公園にいても、誰も来る様子はなかったし、公園に面している家からも気にして覗きに来るような人もいなかった。もちろん家に誰もいないなんてこともなく、窓からは生活の明かりが漏れていた。


「えっと、それもラバーズの特性みたいだよ」

「どういうこと?」

「私たちが変身すると、人払いっていう力と、認識疎外っていう力が発生するらしいの。それによって、私たちがいることや私たちが起こす現象に気がつかなくなるし、無意識に私たちに近づかなくなる、ていう」

「すごく都合の良い能力ですね」

「でも、さすがに人が目の前にいると認識されているから、その力が通用しなくなるみたい」


 どうにしても、僕には理解できない力が働いているのだな。

 


 なんて話しているうちに、僕の住むマンションに着いた。

 僕はここで両親と三人で暮らしていたが、少し前から二人とも急な長期出張に出向いてしまっており、今は僕一人の生活が続いている。

 

 玄関を開けて入ったところで。


「上がっていく?」


 僕は彼女を招き入れようとする。ここまで送ってくれたし、お茶の一杯でも出そうかと思った。


「ううん、ここは遠慮しておくわ。服は泥まみれだし、汗も結構かいているし、この状態で上がるわけには行かないよ。それに、なにより……」

「うん?」


 なにやらモジモジしている。


「どうしたの?」

「その、見せるには恥ずかしい下着を履いてるからさ」

「えっっ!?」


 な、なんて心に来るセリフだ。まさか栗村さんからこんな興奮することを言われるなんて。


「ね、ねえ木野くん、明日って時間ある?」


 明日は土曜日だ。大学はないがアルバイトの予定はある。


「えっと、夕方からバイトだけれど、それ以前の時間なら空いてるよ」

「そう。今後のことを話し合いたいからさ、昼過ぎくらいに会えないかな?」

「もちろんいいよ!」


 二人きりで会うって、これはデートでは?


 詳しい時間や話し合いをする場所も決めた後、「じゃあ、また明日ね」と栗村さんは投げキッスをして帰っていった。なんともコテコテなことをするが、ラブアピールが多くそのたびにドキドキさせられる。



 椅子に腰を下ろしたとたんに一日の疲れがどっと襲った。


 身体がだるく、意識がくらみ、瞼を閉じそうになる。だがこの汚れた状態のまま眠ってしまうわけにはいかないので、土のついた服を洗濯機に入れてはさっとシャワーを浴び、しっかり髪の毛を乾かしてから、寝る前の支度をさっさと済ませてベットについた。


 親がいなくなって静かになった広い家の中。家族がいるのが当たり前だったから、なんだか落ち着かなくて息が詰まりそうになる日もある。しかし今日はそんな気持ちの中に彩りを感じた。

 薄手の毛布をかぶり、灯りを消しては少しだけ窓を開けて、網戸から入る風を肌に感じながらスマホをかまう。


『明日も迎えに行こうかな』

『明るい時間だし一人で大丈夫だよ』


 なんて栗村さんとメッセージのやり取りをする。

 本当に僕、栗村さんと付き合ったんだな。


 フツフツと実感する。

 ずっと想っていた人と付き合えたのだ。それを思い返せばなんだかそわそわしてきた。


 しかし、それ以上に衝撃的なことが起こってしまった。変身して、戦って。それに、この世界が滅ぶとか。僕のことが好きな人が多数いて、その人たちが僕を巡って殺し合う、なんて話を聞いて。


 とても現実的でないために、本当に栗村さんと付き合っているのか不安になってしまう気持ちもまだあり、もしかしたら全部夢だったのではないかとさえ思う。しかし、今こうして彼女とやり取りしているのだから、これは現実なのだ。全部本当なのだ。


 刺殺しようとした事実もあるのだけれど、そんなことはもうしないと彼女は言っていた。そして約束をした。

 日和さんへ対する怖さ。それはまだ残っている。けれど、彼女と付き合えたことは素直にうれしくて、愉悦するし、警戒心もいつの間にか解けていた。

 だから、自分の恋心に素直に従おう。彼女のことを信じよう。

 

『おやすみなさい』

『おやすみ♡』


 好きな人にハートマークを付けた連絡を返されるこの愉悦感、良いなあ。

 そんな幸福を感じながら、僕は瞼を閉じた。

 今日はよく眠れそうだ。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ