第10話 厨二な設定
「なんだそのとってつけたような厨二設定は」
ツッコミどころが多いのだが。
「まるでおかしな人の妄想を話されたみたいで、とてもは信用できなかったよ。というか、今でもすべてを信じられない。馬鹿げていて、信じられるはずがない。でも……」
「……変身はできた」
姿を変えて、身体能力が高くなり、力強くもなった。
「そう。あんなことができてしまった以上は、この話も信じるしかないのかなって思って」
「そうか、だから……」
猫俣さんを刺し殺そうとした。殺さないと、魂を切り離さないと、この世界を守れないから。
「でもね、正直に言ってしまうと。その猫俣さんって人を刺そうとしたとき。あのときは完全に頭に血が上っていた。変身して、興奮していた部分もあるかもしれない。ただ単純に、その猫俣さんっていう人が許せなくなっていた。世界の命運のためとか、関係なく」
「そ、それじゃあつまり、本心で猫俣さんを殺そうとしたのか!?」
「……否定できないわ」
そんな……
それは栗村さんの、非道な一面。正直に教えてくれた、怖い感情。
「それでもね、私、ここに約束する」
「約束?」
「うん。絶対に人は殺さないっていう約束」
栗村さんは僕の手を両手でぎゅっとつかむ。
暖かくて、ちょっと早い脈の振動を感じた。こんなに柔らかくすべすべした手で、あの剣をつかんでいたのか。
「私もわかってるの。人を殺すことが当たり前にいけないってこと。だから、反省するわ」
「う、うん……」
他にも確認しなくてはいけないことがある。
「今の話を聞いた限りだとさ」
「うん?」
「その、宝石を持ってる人は共通の一人に対して恋心を持ってるってことだとさ、つまりその……」
栗村さんも猫俣さんも、自分で言うのも恥ずかしいが、僕のことを好きだと言っていた。ということはつまり。
「僕のことを好きな人が、その戦いをしなくちゃいけないってこと?」
「ええ、まあ、そういうことになる」
じゃあ、僕のことを好きな人が、多数いるってことになる。
……僕って、そんなにモテているの!?
「でも、それはつまり、木野くんが他の女の人に狙われる状況にあるの。何より私と付き合っているから、さっきみたいに嫉妬で力技に出る人だっている」
「えっと、僕はどうすれば?」
「安心して。私が君を守るから。だって、私は君の騎士なんだし」
「いや、僕が心配なのはそこじゃないよ」
もちろん、僕を守ってもらえることはうれしいけれど。
「それじゃあ、栗村さんだってずっと危ないじゃないか」
猫俣さんのように力業に出る人がいたら、栗村さんは僕を守るために戦わなければいけない。それに、僕と恋人関係にある栗村さん自身を狙う人だって出てくるかもしれない。
「私のことを気にしてくれるの? そんなの気にしなくていいよ」
「いや、よくないよ。僕はその、好かれているわけだから殺されることはないと思うけれど。君は全然命を狙われる危険性があるんだぞ!」
「木野くんだって命の危険があるかもしれないよ。それに、たとえ君が命を狙われなくても、体が汚されるようなことがあるかもしれない。もし君が寝取られたら、私は自殺するわ」
「っ!!」
その目は本気だ。
僕だって、好きだった木野さんと付き合えたのだから、木野さん以外のものにはなりたくはないけれど。
「だから、私は君のことを守るの。私の身の安全なんて気にしなくてもいいから。わかった?」
「……」
気にしない、なんてできるわけがない。
でも、僕が置かれている状況は、常識の外側にある。僕はこの人に守ってもらわなくてはいけない。それは、仕方のないことなのだ。
「というか、だいたい、カオスって何なんだ」
神話に出てくる概念? なのは知っているけれど。
「滅びと誕生をつかさどる、神をも超えた存在だと認識してるって、メシアさんは言ってたわ」
「そもそもメシアって人の名前が胡散臭いし、何者なんだ」
「メシアさんが何者かはわからないわ。聞いていなかった。でも、この宝石をその人に渡されたのは事実。非現実的だと思っても、その人の言ったことが現実に起こったのだから、すべてを信じないというのもまた変な話ではあるよ」
「でもメシアさんの話に嘘が混ざっていても、それを嘘だと断定できない。調べようにも調べられるような話でもないし」
「何が言いたいの?」
怪訝んな顔で問いかけてくる。
「……そもそも、栗村さんに戦ってほしくないんだよ」
野蛮だし、やっぱり危険だし。
「それに他の人も、僕を巡って戦ってほしくない。僕に恋心を抱いてるからって、なんで命を懸けなくちゃいけないの。それがつらい。僕を好きだと思ってくれる人が殺し合いをするのは、いい気持ちにならない」
「でも私が戦うのは、どうしても避けられないわ。さっき言ったとおり、君を狙う人や、私を攻撃してくる人も出てくるだろうから。でもね、約束したとおり、絶対に人を殺さない。カオスが来ることだって、事実とは限らないもんね。騙されてる可能性もちゃんと視野にいれるわ」
「……仮に、もし本当にカオスが訪れるとして、そのラバーズの魂、エネルギーを使わなくちゃいけないってなっても。僕は殺し合わない、死ぬ必要がない方法を見つけたいって考えてる」
そんな大規模な方法を見つけられるのかはわからないけれど。
「うん、私も一緒に方法を探すよ。それに……」
「それに?」
「さっき、言ってたよね。私が猫俣さんを刺そうとしたとき。それ以上をすると、私のことを嫌いになるって。私、君には嫌われたくないからさ。だから、殺し合わない方法を何としても探さないと」




