第112話 助けに駆けつけた幼馴染
僕の視界では捉えていた。大井さんの向こう側にあった、横開きの少し大きな金属の扉。それが、上下に折れるように破壊されたのだ。
それを認識さたと同時に。
そこからブラウン色の光が、流星のような速度でこちらに突進してきた。
大井さんは気がつき、即座にスカートの下から無数の触手をドバッと生やして、一塊の槍のようにしてその流星に突撃させる。
「うあっ!!」
触手の塊に弾かれるように、彼女は大きく吹き飛ばされた。
「戌子!!」
そのブラウンの光の正体は戌子だ。犬のような姿へ変身した戌子が、助けに来てくれたのだ。
吹き飛ばされた戌子は四つ足で地面に着地した。
「お兄、助けに来たよ!」
まさに希望の光だ。
「……そう、あなたが星也くんの幼馴染……戌子ちゃんなんですね」
大井さんには以前、戌子のことを話したことがあるので、戌子の存在を認知している。
「もう逃がさない、タコ女。日和さんからは逃げられても、あたしのこの嗅覚は、あんたの残り香をたどってどこまでも追いかけるから」
鋭い目つきで睨みつける。戌子はガルルルと声を漏らして牙を見せると、四つ足をついた態勢で腰を高くし、尻尾を立てて威嚇する。
「そうですね……君は、ここで倒さないといけなそうです」
大井さんの触手は依然僕の身体に絡みついたままだ。口も塞がれ、フガフガと息を漏らすことしかできない。
「待っててお兄、その気持ち悪いやつからすぐ剥がしてあげるからっ!!」
戌子は疾風のような速度で駆けだした。
「幼馴染なんて羨ましい……」
対して大井さんは無数の触手を戌子めがけて伸ばしていく。一本一本が戌子を突き刺すように素早く動く。それを戌子はなんとか避けていくも、無限に出てくる触手に対処ができず、一度後ろに引いて整える。
「邪魔な触手……」
「わたしの触手に限界はありません。無限に生えてきて、無限に伸びていきます」
触手たちはまるでそれぞれに意識があるかのようだ。全ての触手が戌子に敵意を持っているように動いて襲いかかる。
戌子は駆けたり跳ねたりしてなんとか避けていくが。触手の数に押されてしまい、全てを避けきる事が出来ず……
「グハッ!」
一本の触手が、戌子の腹部にクリーンヒットしてしまった。
そこで隙ができた戌子に、ほかの触手たちが、突き刺すようにダダダダッ! と攻撃した。
「キャアアアアッ!!」
戌子は身体中に触手の攻撃を受けて、地面に倒れてしまう。
「ンンンンッ!!」
全身に触手の打撃を受けてしまい、倒れ込む戌子。そこへ駆け寄りたい気持ちでいっぱいだが、僕に巻き付く触手は強固でほどけようとはしない。
「君の手は星也くんに届きません。わたしが彼に近づく女を、すべて遠ざけます」
「……絶対にお兄を取り返す……こんな気持ちの悪い女に、お兄を渡すわけがないんだから!!」
カッッ!! というブラウン色の閃光が起こる。
戌子の前身が輝いている。どうやら本気モードのようだ。
「ウラアアア!!」
再び、戌子は流星のような速度で駆け出した。
だが大井さんは素直に戌子を近づけさせるわけがなく、また、たくさんの触手で突き刺すように攻撃を仕掛けるが、戌子は自前の速度でそれらを避けてしまう。
「すばしっこいですね……」
すると大井さんは、スカートがめくれてしまうほど、さらに大量の触手をドッと出すと天井まで伸ばし、そして、まるで雨のように触手を降らした。
それは数が多すぎて、密集していて、寄けられる隙間がない。
「だったら、猪突猛進!!」
対して戌子は、真っ直ぐ突き進む!
振り注ぐ触手たちを体当たりで薙ぎ祓い、猪突猛進で近づいてくる。
すごい、戌子すごい。けれど、これだけ硬い触手を身体にぶつけているのだ。ダメージが蓄積したのか、速度が亀のように落ち、身体の光が薄くなって。
「いつまで耐えられるでしょうか」
「うっ……うあああっ!!」
ついに身体から光を失い力尽きて、今度はムチのようにしなる触手たちに、パシバシッと叩きつけられて、弾き返されてしまった。
「あははは、近づけませんね! 彼への気持ちは、その程度なんですか?」
大井さんらしからぬ、邪悪な煽りを戌子にかます。
「まだ……まだっ!!」
めげず、戌子はまた起き上がり駆け出すが、大井さんの無数の触手には敵わない。
再度パシパシッと、触手でムチのように身体中を叩かれてしまう。その一撃一撃の勢いは凄まじく、身体が宙に浮いてしまうほど。
「あ……諦めない!」
だが戌子はそれを堪える。ムチの勢いに押され駆けることができなくなってしまったが、それでもゆっくりと四つ足でふんばりながら近づいてくる。
「ンンンン!!」
「待っててね、お兄……」
もういい、もうやめてくれ。僕のためにボロボロになる戌子を見たくない!
でも僕の訴えは届かない。戌子は負けじと僕の下へ寄ろうとしてくる。だが数の暴力に、戌子は押しつぶされそうになっている。
誰か、助けて。戌子を助けてくれ!
日和さん!!
今の僕には、ただ懇願することしかできない、




