第111話 触手に弄ばれる
「触手は、わたしの気持ちそのものです」
その触手は、僕の両方の内ももに、ゆっくりと這うように巻きついてきた。ネチョッチョッと音を立てる触手は僕の身体にからみつき、くすぐったくて、気持ち悪さもあって、モジモジしてしまう。
もがく僕を見て、大井さんは悪い顔で笑う。
眼鏡がなくなり、無造作だった髪形が、サラサラなロングヘアへと伸びていて、普段とはとても印象が違うが、しかし似合っている。いつもと大きく違う、ダークな雰囲気の大井さんが、とても素敵に感じてしまった。
「ごめんなさい。気持ち悪いですよね、触手」
触手は服の中に入り込んで、僕の身体を舐め回す。
「ちょっ、やめっ」
グチョッグチョッと音をたてて、大井さんの欲望のままに這いまわる。
すると、一本の触手が口に入ってきた。
「んぐっ!?」
口の中にヌメヌメとした、こんにゃくのような感触が存在していて、気持ちが悪い。
身体中を蝕む触手が、恥ずかしいところに触れてくる。脇や、胸元や、そして股間の周り。
「はぁ……はぁ……」
気持ち悪くてもがく僕を、艶っぽい表情で、熱い息を吐きながら、大井さんは眺めていた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私の欲望が収まってくれない。君を好きにできる、君と既成事実が作れる。そう思っただけで、私の触手が元気になって、君を求めちゃう」
この触手たちは大井さんの本能そのもの、欲望の傀儡だ。僕の股間を弄ってくるやつなんか、大井さんの欲望ダダ漏れである。
「ああ……素敵です。ずっと、君にエッチなことをしたかった。いつも隣に座る君から男の子のいい匂いがして、華奢な体格が可愛らしくて……そんな身体を、犯したかった!」
大井さんは両手で下腹部の辺りを抑えると、脚腰をピクピク震わせながら、その場にしゃがみこんでしまった。
「触手を通して感じるよ。君の身体の肉つきを。そして君の匂いや皮膚の味も。触手が全部感じ取ってくれる」
触手で、僕を堪能している?
まるで、身体中をたくさんの舌で舐めまわされているような感覚だ。
「脇がちょっとしょっぱいね」
「ンッ!?」
本気でそれはやめてほしい。
そう思った矢先、触手がギュッと強めに引き締まった。
「ンアッッ」
「あ~、愛おしいです。このまま食べてしまいたいくらい愛おしいです」
しゃがみ込んだ大井さんは、声は嬉しそうなのにしかし苦しそうに顔をしかめて、息を荒くし、四つんばいでもがいていた。呼応するように触手も微動し、それが僕の身体に刺激を与えてくる。
……気持ちいいなんて、認めたくない。
けれど、ヌルヌルした幾つもの触手に変なところをたくさん弄られ、湿っぽい匂いがなんだかまるで媚薬のように気分を高揚させてきて。
触手が、僕をわからせようとしてくる。
「さぁ……そろそろ」
大井さんは足をカクカクさせながら立ち上がると、僕の身体は触手に引き寄せられ、大井さんの方ヘ近づけられる。
「星也くん。もっと気持ちよくなりましょう? うまくできるかわからないけれど、大丈夫、触手がサポートしてくれます」
僕は有無を言えない。モゴモゴと口いっぱいの触手に言葉を遮られる。
やめてくれ、こんなの嫌だ。
こんなことはいけない。既成事実なんてつくっても、二人とも幸せになれない。無理やり関係を作っても、僕の気持ちはあなたには向いてない。
……大井さんも、それはわかっているのだろう。だから、二人とも性的に発情させて、欲望のままに済ませたいのだ。性欲で理性を消し去って、彼女は暴走したいのだろう。
僕はわずかに動かせた首を、とにかく横に振った。拒否の意志を示すように、目で訴えながら。
「……こんなに好き勝手してしまったんです、嫌われちゃいましたよね」
恍惚とした大井さんの表情の中に、悲しそうな表情が混ざる。
「でも、わたしはもうこうするしかないの……」
人の邪険を怖がり、自分の意思を示してこなかったような大井さんが、引っ込みがちではっきりと気持ちを言葉にできなかった大井さんが、こうも自分の意思を強く持って、僕を責めようとしてくるのだ。
僕は彼女の覚悟を知った。僕に嫌われてもいい覚悟で、僕を無理やり自分のものにしようとしている。
「……さ、さあ」
手を伸ばして僕のシャツをつかむと、ビリビリッと引き裂かれてしまった。上裸の胴体に、黒光りする触手が巻きついていて、ウネウネと動いていて、なんだか意識がふわふわしてきた。
「はぁ……はあ……じ、じゃあ、下も破きますよ」
今度はズボンに手が伸びた。パンツごと掴み、手に力が入る。
これで、僕は完全に裸になってしまう。大井成美という邪神の供物になってしまう……
やだ、やだ、やだ!
初めては日和さんがいい。日和さんと、愛を持ってしたい。
だから、やめてくれっ!!
ドォン!!
そのとき、硬いものが壊れるような轟音が、工場の中に響いた。




