第105話 アニメ鑑賞のおうちデート
朝食を済ませると、成美さんとリビングのソファへ二人並んで腰を下ろした。
「カーテン、閉めたままですね」
リビングのカーテンはしっかりと閉められていて、光が入ってこないようになっていた。
「えっと、外の景色が見えない方が、プライベート感があるように思えるので……」
「そうなんですか」
部屋が薄暗いので、明かりを灯す。
「それで、今日は何をするんです?」
大井さんは先ほど、おうちデートをするみたいなことを言っていたが。
「えっと、うんっと、何からしよう……」
隣に座る成美さんから、とっても落ち着く匂いがした。ウッディで湿っぽい、シックな大人の香りだ。一緒に過ごしているのに、なんでこんなにいい匂いがするのだろう。
「……え、えええっちなこと、す、する?」
いきなり、成美さんはドギマギして頬を赤らめながら、僕の太ももに手を置いた。
「……は、早くないかな」
朝からエッチなことをするのは、ちょっと調子がでないかも。
「そ、そうだよね。ちょっと焦っちゃいました」
「……そんなにしたいの?」
「え!? いややや、べ、別に!? そ、そんな、わたしが性欲に支配されてるような言い方、しないでもろて!」
なんて焦って言葉がおかしくなる成美さんが可愛らしい。
「じゃあ、アニメ鑑賞でもします? 僕らと言えば、アニメですよね」
「は、はい。そうしましょう……」
そんな感じで、成美さんはテレビにつないだサブスクから、アニメの一覧ページを開いた。
そしてあれが見たい、これが見たいと二人で意見を出し合いながら、作品を選ぶ。
視聴したのは少し古い、九〇年代の恋愛作品。しっとりとした演出が見ていて心地よくて、二人で手をつなぎながら見入ってしまい、あっという間に午前の時間は過ぎてしまった。
「あ、お昼どうしよう」
気が付けば時刻は一時を越していた。
「どこか、食べにでもいきますか?」
僕は提案するが。
「そ、それは駄目」
と、成美さんは却下した。
「き、今日は、おうちデートの日なんですから。家からは絶対に出ないルールなんです」
そんなルールあったんだ。
「な、何かお昼を作ります」
「いや、簡単に済ませましょう? あまり大井さんに負担をかけたくはないですし。いや、もしかして作りたいものありました?」
「いいえ、別にそんなことはないですが」
毎回手を込まなくてもいい。ある程度ダラッと過ごすから、同棲はいいのではないか。
そんなわけで、僕らはお昼をカップラーメンで済ませた。簡易の極致なご飯ではあったが、二人でいただくから心地よいのである。
……しかし。同棲を始めて長くなるのに、成美さんが目の前にいる感覚がなんだか慣れなくて、自分が気持ち悪いと思った。
なんだろう、順応できない僕が気に入らないのか。それとも……なんというか……わからない。まるで心のどこかにスッポリと穴があいてしまったような、そんな寂しさがある。ホームシックだろうか。
午後からもそのアニメの続きを視聴し、あっという間に夜の時間になる。
「はぁ~面白かったー」
二シーズンのアニメを一日で視聴し終え、身体を動かしていないにも関わらず、気分は疲れてしまった。
二人して両手を広げながら背中をぐっと伸ばし、ストレッチの開放感に気持ちよくなる。
「な、なんだか、久しぶりですね、こういうの」
「あー、確かに、図書室でもいつもこんな感じで、二人で背中を伸ばしていましたね」
二人で窓辺の席に座って話し込んで、時間が来たらぐぅ~と身体を伸ばして、図書室を去る。それが二人図書室で過ごした後のお決まりの流れだった。
そういえば、最近は図書室で成美さんに会っていないな。
あれ、なんで会っていないんだっけ?
成美さんと付き合ってからも、図書室には通っていたような記憶がある。だって別に、付き合っていようがいまいが、あの場所は僕らが大学でコミュニケーションをとるための聖域なのだから。
でも、最近は図書室で成美さんには会っていない。それはなぜだったっけか。
「最近、成美さんと図書室で会っていないですよね」
「え、ええ」
「じゃあ、僕らって大学ではどうしてましたっけ」
二人で一緒に休み時間を過ごしていたっけ。しかしそんな記憶はない。僕が昼休みや講義のない時間帯によく一緒にいたのは、賢と、それから……
「よ、夜ご飯にしましょう!!」
いきなり、成美さんらしからず声を大きくして僕を揺さぶってきた。
「ど、どうしたの?」
「いいから!」
「は、はい……」
何やら焦った落ち着きのない様子で、成美さんは僕をキッチンまで引っ張った。
「い、一緒に、夜ごはんを作ってほしい、です」
「い、いいですよ」
成美さんに誘導されるまま、僕は台所に立つ。
「えっと、何を作ります?」
「き、今日の夜ごはんは、ラタトゥイユに挑戦してみようと思います」
「お、ラタトゥイユ。いいじゃないですか」
「はい。星也くんの大好物なので、是非作ってみたいと思いまして。初めて作るから、教えてほしいなと」
「ええ、いいですよ。楽しみです」
成美さんは冷蔵庫の野菜室を開いて具材の物色を始めた




