第102話 忍に担いでもらう
「ハッッ!!」
日和さんが気合を込めると、剣はよりいっそう輝きを増した。
「敬愛の舞……」
対し、先生は神楽鈴の先を日和さんに向けて振りかざす。
「先生の星也さまを敬う気持ちに、浄化されなさい!!」
そして、頭上の白銀の大渦、まるで神々しい台風が、日和さんめがけて襲いかかる!
「そんな偏った愛の光なんか、私の最愛の剣に、勝らない!!」
日和さんは大剣を振るって、光の渦にぶつけた。
渦は強烈で、日和さんの剣がその勢いに一瞬押されそうになる。
が、僕にはわかる。日和さんの最愛の剣とかいう斬撃が、最強であることを。
「はあああああああっ!!」
眠たそうだった瞳をキリっと鋭くすると、気合を張って、筆を振り下ろして。
渦をぶった切った。
「な、なんで……」
そのまま、先生は日和さんの剣に飲み込まれ、神社一帯は紫色の光に飲み込まれた……
◇◇◇
毎度の如く、大爆発が起こった後のように、境内はめちゃくちゃになる。中央には大穴。参道は割れて飛び散り、杉の木が倒れてしまい、社も正面はボロボロだ。
耳がキーンとして、目がチカチカする。あの衝撃には慣れたものではない。
僕はまだ痺れていて身体が動かないが、百地にお姫様抱っこで抱えてもらいながら、噴煙のように砂が舞う中、凹んだ地面に倒れるその人のところへ連れて行ってもらう。
「弥先生!」
先生は倒れている。身体を横向きにしていて、意識はある様子で、目を見開いていた。
「だ、大丈夫ですか、先生」
「……」
先生は絶望したように、虚無の表情を浮かべている。僕が呼びかけてみても、何も反応を返してくれない。
相当ショックの深いようだ。
それもそうだ、先生は僕を殺してしまいたいほど、僕への執着が強くて、ある意味では暴力に留めていた鬼頭さんよりも深い感情を持っていたのだろう。
そっとしておく、というのもこの場合は違うかもしれない。先生の場合蓄積した心の傷が深いのだから。
「なんで……」
先生が小さく言葉を漏らした。
「愛する人を殺そうとする人に、栗村さんが負けるわけがないでしょ」
そこへ百地が追い打ちをかけるかのように言う。
「も、百地」
「弥先生、あなた盲目になりすぎてる。自分の手元に置いておきたい? 自分だけのものにしたい? 先輩をお気に入りの人形だとしか思ってないんじゃないの」
「そんなこと……星也さまは神様……」
「先輩は神様じゃないっす。大切な人のために今を生きてる人間っす。先輩に好意を抱くのはいいことっすよ。でも自分のものにしたいなら、もっと正攻法を使えって話っすよ。国語の先生らしく口で説得でも、身体で解らせてもいいんすから」
「いやよくはないが……」
百地は僕を抱きながら、先生に背を向けた。
「ま、待って……星也さまが先生のものにならないなら、もう、先生は死ぬしかない……生きていけない」
とても悲壮感の漂う表情を向けてきて、僕は百地にちょっと待ってと呼びかけるが。
「……先生、先輩を生きがいにすることにはぼくも賛成っす。ぼくだって先輩が好きすぎてストーカーしてましたから」
「お前っ……」
確かにこいつは、僕の家のベランダに忍び込んでくるようなやつだが。
「せ、先生。生きる希望を失わないでください。僕は先生には生きていてほしいですから。僕は、想われるくらいなら歓迎ですから。今度は、ちゃんとお店でお酒でも飲みましょう?」
「……」
先生は無言で、体育座りの体制で顔を伏せてしまった。
「まあ、あれなら大丈夫そうでしょ。栗村さんのところへいきましょう」
「う、うん、ありがとう……」
なんて、流されているが。
「そういやお前は、その……」
僕のことが好きなはずだ。けれど、日和さんに敵意を抱いているようには見えない。さっきの発言、まるで僕が日和さんを好きなことを、まるで肯定しているような口ぶりだった。
「先輩、ぼくわかってるんです。男同士は結婚できない。多分、例え好き同士になってもいつか終わりが来ちゃう。だからぼくは、先輩の幸せを第一に願うんすよ」
悲しいことを言ってくれる。
僕は同性の恋愛を悪いとは思わない。けれど、もし日和さんではなく百地に想いを伝えられていたら、僕はどうしたのだろう。
そして、百地の気持ちを知ってしまつまた今、今後こいつにどう海向けしていけばいいのだろう。
「ひ、日和さん……」
日和さんは変身を解いた状態で、地面に倒れて眠ってしまっていた。我慢していた眠気に限界が来てしまったのだろう。むしろ、象でもイチコロで眠るなんて形容された睡眠薬を、よく耐えたものだ。この人の僕への気持ちの強さを知った気がする。
「……この人も、運んだほうがいいっすよね」
「えっと……負担をかけちゃうけど、お願いします」
眠り込んでいる百地は、しばらく起きそうになく。僕もまだ動けないので。
僕と日和さんは、百地に担がれて、僕の家まで送ってもらった。




