第101話 眠たそうな騎士
「せ、星也くん……」
騎士姿の日和さんは、剣を杖のように突きながら、神社の中へ入ってくる。その様子はとても怠そう、おぼつかない足で歩み、クラつく身体を剣で必死に支えて歩んでいた。
「驚いた、結構強力な睡眠薬を飲ませたのよ」
先生は目を見張って少し笑う。
「わ、私は星也くんの騎士だって言うのに……星也くんの危機に、おちおち眠っていられないわよ!」
気合を込めて二本足で踏ん張ると、剣の柄を両手で握って構えた。だが体感は弱っていて、じっと立つことはできず、ふらついてしまう。
「ふふっ、戦う前からそんなに満身創痍で、先生に叶うわけがないでしょ。日和さん、おとなしく眠っていなさい」
「眠らない。意地でも眠ってやらないんだから……」
「声も弱々しいというのに。おとなしく、先生の言うことを聞きなさい!」
先生は日和さんに向かって、光る神楽鈴を振りかざす。すると、まるでスポットライトに照らされたように、日和さんを広範囲の光が囲む。
「光なんて……私の敵じゃない!」
それに対し、日和さんは剣を紫色に光らせると、空にめがげてて大きくふりかぶった。
すると、斬撃がまるでビームのように空へ伸びた!
そしてパーンッ!! と言う破裂する爆音とともに、空で光が破裂する。
「先生の浄化の光を、切った?」
「……長く持たないから、一発で片を付けるわ」
日和さんは腰を落として剣をぐっと構える。すると剣の光は一気にブワッと肥大化し、その発光が巨大な剣の形へと形成される。
「……そう、なら先生も」
対し先生は神楽鈴を片手に構えると。
シャンッシャンッと凛々しい音色を放ちながら、なんと舞を始めた。
剣を構えられているのに、のんきに舞なんか踊っている場合なのか。
「先輩、やばいっす!」
「うわっ!?」
忍装束の百地が目の前にふわっと現れて、いきなり僕を抱きかかえる。
「ど、どうした!?」
「どうしたって、ラバーズの必殺技がぶつかるんですよ? 先輩も知っているでしょ、その威力を!」
「ま、まあ……」
「昼間には先輩とぼけてましたけど、公園の盆地はラバーズによるものっすよ。今の動けない先輩がその衝撃に飲み込まれたら、ひとたまりもないじゃないっすか」
確かに、今の僕は逃げることも防御態勢をとることもできない。
「ていうか、お前がその必殺技で先生を止めることはできないのか?」
「できません。ぼく必殺技使えるほどつよくないっすから!」
「じゃ、じゃあ舞っているうちの先生に攻撃をするとか」
「それもできません。今先生の周りは分厚い結界でおおわれてるっすから。非力な僕のパワーじゃどうすることもできないっす」
百地は僕を抱えたままふわっとジャンプをして、社を飛び越えて裏側に着地した。
社の隙間から向こう側の様子が伺える。
「先生の舞は、先生を敵視するものすべてを浄化する!」
先生は以前舞を続ける。その先生の頭上には、白銀の粒子による、とぐろのよう渦が出来上がっていた。
しかし舞をする先生だ、こんなにも隙があれば、日和さんは斬撃を繰り出せてしまいそうなのだが。
「ひ、日和さん!?」
日和さんの様子がおかしい。今にもそのクソデカ発光ソードを振り下ろせそうなのに、なぜか夜空に向けて剣を掲げたまま、硬直している。
「もしや、日和さん寝落ちしてるっすか?」
「え、ええええ!?」
ね、寝落ちだと!?
本当だ、よく見たら日和さんのまぶたは閉じている。
「こ、この状況で、あの体制で、必殺技の途中で、こと切れる!?」
「先輩。ぼく必殺技は使えないっすけど、あれを打とうするときに消費するエネルギーが半端ないことは知ってます。多分日和さんは剣にエネルギーを集中した結果、こらえていた睡魔が抑えられなくなっちゃったんすよ」
「そ、そういうものなのか?」
などと僕らが話しているうちにも、先生は舞いを続け、頭上の光りの渦は神々しく壮大なものへと成長していく。先生の壮大な攻撃が出来上がっていく。
「ひ、日和さん、起きて、日和さん!!」
僕は呼びかけるが、日和さんはピクリともしない。
どうしよう。どうにかして起こさなくてはいけない。しかしどうやって起こすべきだ。僕の身体は動かないし。
「百地、お前起こしに行けないか」
「無理っすよ。ぼくがあそこに飛び出したら、その途端に二人同時に浄化されちゃうっす」
あー、肝心なときに臆病だ。
どうする……どうする……
あ、そうだ。
「日和さーん!」
切迫する中、僕は日和さんが飛び起きそうなワードを思いついたのだ。
「今すぐ起きないと、僕、この忍に犯されちゃうよー!!」
「せ、先輩?」
日和さんは、僕絡みになれば動いてくれるはずだ。
「な……なんですって!?」
狙い通り、日和さんは目を覚ました。カッとまぶたを大きく開いて威圧的な表情を浮かべる。
「先輩酷いっすよ……」
「ご、ごめんな」
「ぼくは注がれたいっ派です」
「……は?」
「だから、ぼくは襲うより襲われ……」
「だー! わかりやすく言い直そうとするな!」
お前のそういうセクハラは、本気なのか?




