第100話 巫女対忍②
今度こそ避ける隙はないように見えた。だが先生は、今度は片足を大きく振り上げて、忍を蹴った。そして先生は地面に片手をついてバランスをとると、もう片手につかむ神楽鈴を振るおうとした。とっさに忍気が付き、大きくバックステップをして距離を取ろうとしたが。
「今度は当てる」
なんと、先生は神楽鈴を、忍めがけて投げつけた!
「なにっ!?」
忍はそれを避けられず、両手をクロスさせるように防御して、神楽鈴を防ぐ。だがぶつけられた衝撃でバランスを崩し、そこに天からの光が降り注いだ。
「危ない!!」
なんて声をかけるもむなしく、ドーンッ!! と、大爆発に似た光の破裂に、忍は巻き込まれてしまった。
「うあああああ!!」
忍は悲痛の声を大きく上げた。
そして、破裂した後に残留した光の粒子の中で、忍はその場に倒れこんでしまった。
「お、おい、忍!」
忍はその場にうつ伏せになり、呼びかけても動く気配がない。
「ふふ、やっとおとなしくなたわね」
先生は勝ち誇った様子で、忍のもとへ近寄った。
「おい、起きろ、忍!!」
僕は忍に呼びかけるも、忍は起き上がらない。
駄目だ、このままでは殺されてしまう。忍が、先生に殺されてしまう。
それは駄目だ。絶対にそうなってはいけない。もちろん、正体のわからない忍への心配もあるが。先生が一線を越えてしまったら、もう先生は後に引けなくなってしまう。人の道を外れてしまう!
「さあ、完全に浄化してあげる」
「だ、駄目です弥先生! その人を殺しては駄目! 人を殺めてはいけない!!」
「ふふっ……おかしなことを言うわね、星也さま。だって先生、あなたの息の根を止めようとしたのに、今さらじゃない」
先生は、うつ伏せの忍に神楽鈴を向けた。
「や、やめろ!!」
「ハッッ!!」
その力強い掛け声とともに先生が神楽鈴を息を意欲振る。そして天の光が、素早く忍を包みこんだ。
「……残念、ぬけがらだよ」
しかしそいつは、夜の闇から飛び出して、先生の背後に回り込んだ。
忍だ。自身の忍装束を脱ぎ去って、その中の姿を露わにして、闇の中に隠れていたのだ。
これは、空蝉の術だろうか。
そしてそいつは、桃色に輝くクナイで、先生の背中に斬りかかった!
「うあああっ!!」
先生は苦しそうな声を漏らすと、よろめき前方へと倒れた。
「なっ!?」
そして僕は、先生の後ろから現れたそいつの、その顔を見て驚愕する。
「も……百地?」
光のほとんど届かない、杉の木に囲まれた神社と言う暗闇の中。クナイの桃色のの光に照らされて、僕も良く知るそいつの顔が確認できたのだった。
百地だ。忍の正体は百地だった。
「ぼく、戦いとか苦手っす。もっといい感じに、ほかのラバーズみたいに力で圧倒できれば良いのですけれど……ぼくは、ただただすばしっこいだけで、強くなんてなくて。こんな戦い方しかできないから、あっけなくバレちゃいましたね……」
声が低くなり、いつもの百地の声に戻り、慣れないござる口調もやめる。
百地の身体は脱ぎ捨てられた忍装束が消滅すると同時に桃色の光に包まれ、また忍の姿に戻ってしまった。
そうか……百地も僕のことを好きだったのか。
性別を超えた事実を突き付けられ、戸惑いのある一方。じゃあ、今日の明るい時間に百地とやった遊びや罰ゲームは、本当にあいつに下心があったものなのかと思い、複雑な気分になる。
「そう……百地さんだったのね」
先生はゆっくりとふらつきながら起き上がると、背中が破れた千早を脱ぎ捨て、鋭い目つきで神楽鈴を構えた。
「たとえ、かつての生徒であっても、許さないわ」
百地はマスクに隠していた顔を露わにして、表情を険しくしながらクナイを構えた。
「も、もうやめましょうよ。先生と生徒が命を懸けて戦うなんて、おかしいですって」
「おかくないわ。だって、想う人をめぐって争うなんて、サガなのだから」
「サガ……」
これまでもラバーズが対峙すれば、争いになっていたのだ。どちらかが再起不能にならないとこれはおさまらない。だから、命を懸けた戦いが起こるのは運命なのだろう。
「というか、想い人を殺そうとするやつの方がおかしいでしょうが」
「先生の気持ちに、口出ししないでもらえるかしら」
なんて、二人が対峙しているところへ。
コツ……コツ……と、硬いものが触れるような音が聞こえてきた。
それはまるで杖をつくかのように、一定の間隔でその音は近づいてくる。しかし杖の音と言うにはつく音が金属的だ。
「ラバーズの気配……」
百地がつぶやいた。ラバーズの気配、ということは、この音は別のラバーズが近づいてる音ということなのか。
「いや、これは……」
さらに、何かに気がついたような百地の様子。すると……
「ハアアアアアッ!!」
掛け声とともに、鋭い金切り音が響く。
境内を囲っていた目に見えないはずの結界だろうものが、まるでシャボン玉が割れたようにバリバリと砕け散った。
何かが神社を囲っていた結界を破ったのだ。
だが僕はすぐに気がついた。
「日和さん!」
これが、ここへ駆けつけてくれた、日和さんによるものなのだと。




