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逆襲の幕開け

教室中が悲鳴に包まれる。


工藤が全霊を込めて振り下ろした拳を、俺は最小限の動きでかわす。


俺の踏み込みは、工藤の懐に深く潜り込む。

無防備な脇腹へ鋭く突き刺さるような正拳突き。

工藤が怯んだ隙を逃さず、俺は彼の軸足を制しつつ、首筋へ正確に手刀を打ち下ろした。


乾いた音が、静まり返った教室に響く。


工藤の巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


そこには、先ほどまでの荒ぶる獣の面影はなく、ただ無防備に気絶した少年がいるだけだった。


教室を支配したのは圧倒的な「静寂」だった。


いつも俺の机を蹴飛ばしていたグループは顔面蒼白で立ち上がれず、スマホを握りしめていた連中は動画すら忘れていた。


彼らの目に映っているのは、もはや「いじめられっ子の蓮」ではない。得体の知れない強者だった。


そんな中、由紀だけがどこか満足げに、そして獲物を見るような鋭い眼差しで俺の背中を見送っていた。


彼女だけが知っている。


「ああ、やっぱりね」と言わんばかりの、余裕のある微笑み。


その横顔を見た周囲の男子生徒たちは、由紀が一体何を考えているのか測りかね、ただ困惑の表情を浮かべるばかりだ。




唖然とするクラスメイトを横目に、俺は工藤を保健室へ連れて行く為担ぎだした。


廊下に出た瞬間、俺の背中に突き刺さる何十もの視線を感じた。


嘲笑や無関心ではない。明らかに「何か」が壊れた後の、静かな、そして熱っぽい熱視線。


俺は、工藤という「器」を保健室のベッドへと放り投げた。


ここからが本番だ。


憑りついた悪霊を根こそぎ剥がし取り、この男の精神を元の場所へと引き戻さねばならない。



ベッドの上で身体を震わせる工藤の胸元に掌をかざす。


俺の掌が工藤の肌に触れた瞬間、粘り気のある黒い泥が、俺の腕を這い上がってくる。


「消えろ」


俺が低く命じると、工藤の胸からドロリと黒い影が引きずり出され、指先で掴んだ瞬間、霧散した。


取り憑いた先が一度気絶している為か、祓いの儀式は容易いものだった。


数分後、工藤が意識を取り戻す。


「……あれ? 俺、ここで……」


工藤は、教室での記憶が曖昧なようだった。


俺は工藤の反応を待たず、保健室を後にした。


保健室を出て廊下に出た瞬間、俺は立ち止まった。


そこには、俺を待っていたかのように、数十人のクラスメイトたちが固まっていた。


俺が通り過ぎる際、誰もが息を止め、一歩後ずさる。


誰一人として、俺の行く手を遮る者はいない。


廊下の曲がり角で、俺は立ち止まった。


教室の前には桜木由紀が立っていた。


由紀は俺のすぐそばまで歩み寄り、誰にも聞こえない声で囁いた。


「……随分と大掛かりな掃除だったわね。でも、これで学校中があんたに怯えてる。……最低で、最高の気分じゃない?」


彼女の口角が妖艶に上がる。


俺は彼女を無視して歩き出す。だが、背後から追ってくる彼女の足音は、もはや距離を置くものではなかった。


学園の最底辺だった俺の「日常」は、この瞬間を境に消滅した。


ただの掃除屋と、彼女の共犯関係。


その歪な関係は、この学園という閉ざされた箱庭の中で、より濃密に、より凶暴に芽吹き始めていた。

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