独占欲と体液
境内の桜が、春の暖かな陽気に誘われて淡い花びらを散らしている。
凍てつく冬が終わり、世界がまた色を取り戻す季節。
しかし、由紀の世界は今も蓮という唯一の色に塗りつぶされたままだった。
放課後の鐘が鳴ると、彼女は吸い寄せられるように寺の離れへと向かった。
しかし、いつもは静寂に包まれているはずの襖の向こうから、甘く湿った吐息が漏れているのを聞いた時、彼女の足が止まった。
襖を僅かに開け、その光景を視界に収めた瞬間、由紀の心臓は凍りついた。
畳の上で、蓮が別の女子生徒を組み敷いている。
かつて彼女が占有していた場所で、見たこともない生徒が、蓮の手によって「浄化」されている。
由紀の身体を、激しい衝動が駆け抜けた。
焼けるような嫉妬。胸を締め付ける喪失感。
この場所は私だけのものだという、狂おしいほどの独占欲。
そして、蓮が自分以外の身体に触れているという事実に、喉の奥から汚泥のような叫びがせり上がってくる。
(どうして……どうして、私以外の誰かを……)
怒りに全身が震える。
だが、蓮がその女子生徒に手をかける様子は、あまりに機械的だった。快楽を貪っているわけではない。
まるで、汚れた器を丁寧に磨き上げ、不要な不浄を抜き取るような、淡々とした作業。
「……誰だ」
蓮は襖の外にいる由紀に気づき、短く呟いた。彼の瞳には動揺のかけらもない。
「……蓮くん、これは、何……?」
由紀の絞り出すような声に、蓮は無表情のまま、女子生徒の額から手を離す。
「掃除だ。お前と同じだ。放置すれば、こいつも霊障で腐り落ちる。……俺の手を入れなければ、この街は不浄で溢れかえるだけだ」
淡々とした事実の羅列。
由紀の心の中で、怒りと理性が激しく衝突する。
(掃除? ただの掃除だというの? 私も、この子も)
嫉妬に狂いそうになりながら、由紀は必死に自分を言い聞かせる。
(……彼を疑ってはいけない。彼はこの街の秩序を守っている。これは私のわがままだ。彼が私以外の誰かを救うのを、私が邪魔してはいけない……)
彼女の心は矛盾で引き裂かれそうだった。
彼を愛しているからこそ、誰にも触れてほしくない。
だが、彼が「掃除」をしなければならないほど、この世界は汚れているのだ。
(……私だけで足りないの? 私の身体じゃ、彼の空っぽな深淵を埋めきれないから、彼は他の器を……)
悔しさと、自分が無力であるという絶望。だが、それすらも彼女の執着を煽る。
(負けない。私は誰よりも彼の深淵を理解している。……私の方が、ずっと深く、彼を飲み込める)
女子生徒は恍惚とした表情で、魂を抜かれたように倒れ込んだ。蓮は乱れた衣服を整えることもなく、冷たい瞳で由紀を見た。
「次だ。入れ」
由紀はその言葉を合図に、部屋へと滑り込む。
先ほどまで他の女の熱が残っていた空間に、由紀は激しい嫌悪と、それを上回る猛烈な飢えを感じていた。
「蓮くん……お願い……」
由紀は這い寄り、彼の足元にしがみつく。
先ほどの女子生徒への嫉妬を払拭するかのように、由紀は彼を貪り始めた。
もう理性などない。
彼女は、先ほどの女の痕跡をすべて自分という「上書き」で消し去ろうと、狂ったように腰を振った。
「見て……私を見て。他の誰でもなく、私だけを……」
彼女の動作は、かつての計算高い学校のアイドルの面影など微塵もない、剥き出しの獣のようだった。
バチバチと腰を激しく叩きつけ、彼に食らいつく。
「掃除」などという冷めた理屈は、彼女の情欲の中で霧散していく。
全身から汚い汗が噴き出し、涙と涎を垂れ流した顔面は何よりも醜い。
先程まで交わっていた女子生徒に見せつけるように、彼女は愛液を撒き散らした。
それは吹いた潮なのか、尿なのかもはやわからない泥のように濁りきった液体となり、ビチャビチャと卑猥な音を立てながら、女子生徒の身体にまで飛び散っていた。
独占欲にまみれ、理性をかなぐり捨てた醜態を晒しながら、彼女は必死に彼という存在を自分の中に刻み込もうとする。
「……あんたは、私のもの……誰にも渡さない……っ!」
蓮の無表情な顔を見上げながら、彼女は泣き笑いのような表情で腰を揺らし続けた。
自分がいかに愚かで、いかに彼に依存しきった女であるか。そんなことはどうでもいい。
彼が自分をただの「掃除対象」として見ていようとも、この瞬間だけは、彼女が彼の唯一の器であることを証明したかった。
春の陽気とは裏腹に、彼女の営みは、業と執着の混ざった昏い熱を帯びて、激しく部屋に乱れ飛んだ。




