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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第七章 ある結末の後に
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「帰郷」

 俺の故郷は、意外と近い。

 まあ近いと言っても延々十日ほど休みなしで歩かなければならないが、それでもざっと五年以上旅を続けて来た事を思うと近い。

「この地方で一番栄えているのは言うまでもなくトウミヤ市だ」

「そうですね」


 そのトウミヤ市が閃光の英傑の冒険の拠点であり、そこを常宿としてあっちこっちを巡って来た。だがファイチ村の方へと行った事はなく、いつも東側にばかり遠征していた。

「今思うと何故かって話ですけどね」

「いや、ノージの言葉ももっともだ。仕事の大小多寡はどうしても村や町の規模に正比例する。ファイチ村、リンモウ村、オカマゴ村……すべて文字通りの小さな村でしかない。ましてやこの地域の頂点であるヅケース家の屋敷まである。そんな場所に普通ならば関わらない」

「そうですね、その点は本当アックーは賢いと思います」

 確かにこれまで来なかった側に来ていろんな体験もできた。でもそれはあくまでもミナレさんとハラセキの力であり、俺はそれほど変わっていない。

「とてもお優しい方なんですね。私はまだまだそんな境地には」

「優しい……?」

「それが良いのだがな。だが元から誠実である上にさらに誠実であろうとする存在は歪んだ人間からは好かれない。難儀な物だがな」

「万人から好かれるのは無理なんですね」

 アックーだって、多くの冒険者を乗り越え多くの魔物を倒して来た。そういう人間たちからは恨まれてもしょうがない。ハラセキでさえもギビキからは恨まれる理由があるってんだから本当に難しい世界だ。まあその事が分かっただけでも収穫ではある。


「ノージは少なくとも故郷の人間からは好かれていない。孤児だ孤児だとかいうどうしようもない理由で差別を受け、ずっとないがしろにされて来たのだろう。オカマゴ村の住民とは全く程度が違う」

「それはオカマゴ村の皆さんがノージ様の故郷のような人たちだったらエゼトーナ様の力を自分たちだけで使い尽くしていたと」

「ああ、そして聖女様が死んですぐ聖女様に依存しきっていた村は完全に荒廃し、下手すれば村その物が四散と言うか消滅していたとしてもおかしくない。

 身分とか栄光とか大金とか、そういう輝かしい物は案外来るべきところに来る。来るべきでない所に来れば、あっという間にどこかへと消え去るから、と言うか正確にはすぐなくすからだ」


 輝かしい物は来るべきところへ来る。きれいな言葉だと思う。

 そう考えるとむしろ何も持たない方が失いようがなくて動きやすいのかもしれない。 


「もちろんこれは正論と言うより理想論だがな。世の中には正当な努力をしていないのにそれらを持っている人間もいる。例えば私だが」

「そんな」

「王族とはそんな宿命を背負わされる一族の事だ。冒険者は山賊の異称だとか言うが、王族とはいけにえの異称でもある」

「いけにえの異称……」

「だからたかがと言っては失礼だが、たかがそなたのような孤児の冒険者に責任を覆いかぶせる必要などないのだ、本来なら…」


 だがもし、同じ村に住んでいたギビキ—————村の自慢の魔導士を俺が死に追いやったと正直に話せばどうなるか。

「うわっと!」

「大丈夫か!」


 この決して整備されているとは言えない道に生い茂る木の枝がハラセキの頬をかすめたように、容赦のない攻撃が俺を襲うだろう。チーズのおかげでもないだろうがちっとも傷の付かないハラセキであったがそれでも痛みはあったらしく、思わず頬を押さえてしまっている。

「故郷に帰ると言うのはそういう事だ。それでもか」

「ええ。すみません、正直何をしたらいいのかわからなくて。俺自身ずーっとアックー任せだったので」

「わかっている。何か迷いを感じた時には、原点に戻ってみるのも大事だからな」

 いい結果が得られるとは最初から思っていない。

 それでもそれなりには、結果が欲しかった。


「うむ…………聞けば聞くほど、私はアックーと言う人物が分からなくなって来る」

「そうですか?」

「そうです、私の考えるアックーさんって人は、それこそノージ様の所属するパーティのリーダーとしてきちんと動き、しっかり仕事をこなしさらにノージ様にいろいろ教えてくれた方に思えます」

「そうだな。だが私には同時に、ノージと言う人物をどこか縛っているようにも思える。見ただろう?ギビキの執着と言うか信仰心を」


 ギビキがなぜ俺にあそこまでこだわったのか。その回答を俺は聞いていない。

 聞く前にあいつは頭がおかしくなり、二度と会話する事もできないままあの世へと行ってしまった。

 もしアックーが俺を縛っているって言うんなら、それがギビキのそれと違うのか同じなのか。

 

 その答えを聞くためにも、俺は故郷でいろいろと……







「見つけたぞぉぉ!!」







 そんな風に考えながらけもの道を開いていた俺達の耳に入り込む、太い声。




「どなたですか!」

「わしはアタゼンだぁ!」




 ハラセキの誰何の声に対し吠えかかる、木のハンマーを持ったひげもじゃの男性とそれに付き従う数名の男性。




「アタゼンと言えば……」

「ノージィ!よくも娘をやってくれたなぁ!!」

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