食べ物
「皆々様は〜、ちゃんとご飯は食べてくれてるかな〜?いっばい!い〜っっぱい!食べてくれなきゃ〜…モエ〜泣いちゃうぞっ!シクシク」
………
フゥゥゥ…
…よし、いくぞ…
きっっっっっついって!!!
「相変わらず元気だよね!シスター長!」
「…そ、そうだな!げ、元気?なのは良い事?だよな!」
「うん!観てるこっちにも、元気を分けてくれる!みたいな感じ!」
「…そ、そうだな!げ、元気?なのは良い事?だもんな!」
「うん!」
嬉しそうにウキウキとしたカイと、毎回、放送を見るたびにSAN値チェックを喰らう俺。
自身の正気を疑う機会って、結構身近にあるもんなんだな…いや、あっちゃダメだろ、そんなもん。
そんな俺達などお構いなしに、シスター・モエは、ノリノリで教室内であった嬉しい事を、変わらねぇテンションで、俺達に届けてくれている。
一切のブレもなく、妥協もなく、我が道を貫き通すその姿勢は、彼女以外誰も辿り着けぬ、遥かな頂だ。
追いつける者など、頼むから現れないで欲しい。
シスター・モエ
毎月一度の「教室放送」のキャスターであり、
そして、もう、なんか、説明するのも色々しんどい人だ。
見た目は、知性とか法律とかを司っている女神みたいにしか見えない。
バリバリのめっちゃ強気なキャリアウーマンが、神様に更に進化したら間違いなくこんな感じだろう。
が!
口を開いた瞬間、
最初に、あれ?俺の耳ぶっ壊れた?と、疑う。
次に、あれ?俺の頭ぶっ壊れた?と、疑う。
さらに、あれ?俺の世界ぶっ壊れた?と、疑う。
最後に、あれ?この人…もしかして…と、疑って、
やっと現実に帰って来れる。おめでとう、アナタは立派な帰還兵だ。
めちゃめちゃ綺麗な、メゾソプラノの声なのが、さらに混乱に拍車をかけるんだよ。
が!
もう一つ、付け加えなければならない事として、彼女は、
13人のシスターの長であるということだ。
そう、この狭い世界の53名の頂点!
全ての決定権を持つ最高権力者!
まさに、教室の神様とも言え…
「それでね〜、モエね〜、本当は〜嫌われちゃったら、どうしよ〜って、すっごく、す〜っごく、怖かったけどね〜、頑張って〜そのキャワイイ、キャワイイ子にね〜、メッってしたんだよ〜、エヘヘ〜、モエちゃん、偉いって褒めて〜」
………
フゥゥゥ…
…よし、いくぞ…
きっっっっっついって!!!
「お、これ、結構美味いな」
「それって、新作だよね?」
「多分?なんか見た事ないのがあったから、ちょっと冒険してみた」
「ヤマトくんは、そういうのがあったら、必ずチャレンジするよね」
「食べ物だけはな、最悪でも腹痛ですむからなぁ、リスクが少ない感じがして、挑戦しないと、なんか逆に損した気分になるんだよ」
「そう?他の事でも、凄くよく挑戦してるよ?」
「そうか?自分じゃかなり、保守的な方だと思ってるんだが」
「うーん、他人が関わる時はね、そうかも…凄く、よく考えてくれるよね」
「シンプルにヘタレってだけな気もするわ」
「それは慎重って言うんだよ!…でも、ヤマトくん1人だと、どんどん自分で決断して、速く遠くに行っちゃう感じはするよ…羨ましいなあ…」
「…んじゃ、カイにも挑戦のお裾分け、ほい!半分やるよ、結構、最後の方までコレ選考に入ってたろ?」
「わ、いいの?」
「美味いもんは、気心の知れた奴と、美味いって笑い合って、なんぼでしょ、最高の調味料だ」
「えへへ、ありがと……うわ、ホントだ!結構美味しい!」
「あははっ、結構!がポイントだよな」
「うん!そうだね!あははっ」
こんな感じで、シスター・モエの放送をBGMに、俺達の夕食は和やかに進んでゆく。
先に話した通り、この世界の男子達にとって、星力の関係で食事はとても重要だ。
まずは、量が最優先、俺達は大体1日に9000〜10000キロカロリーを摂取している。
俺の古い記憶では、相撲取りの1日の摂取量が7000〜8000キロカロリーだったと思うので、
俺達が、いかに大食いかが分かってもらえるだろう。
ちなみに、ナノマシンの身体能力強化の機能によって、それらは速やかに消化され、身体維持や成長に必要な分以外は、ナノマシンに一定の期間蓄積され、何もせずとも少しづつ減衰されていく事になる。
いくら超技術のナノマシンでも、永遠にエネルギーを持ち続けるのは不可能なのだ。
次に栄養バランス、糖分、脂質、タンパク質、ビタミン等など。
バランスの良い食事は、星力量に直結する為コレも重要だが、実はこれに関しては、対策はとてもシンプルだ。
今俺達が食べている食事は、肉や、野菜、果物、穀物にいたるまで、全て、
「ヤオヨロズダケ」と呼ばれる、とある一種のキノコでできている。
このヤオヨロズダケは人工的に開発されたキノコで、無味無臭だが、コレだけで必要な栄養素を全て賄えてしまう。
なので、ヤオヨロズダケを機械で加工し、食感と匂いと味を再現し、後は化学調味料によって料理をすれば、はい、バランスのよい食事の完成だ。人体に悪影響のでる栄養の過剰摂取は、ナノマシンが勝手に調整してくれるので、さらに安心だ
俺の中の記憶と照らし合わせても、違和感がないどころか、こちらの方が美味いと感じるのだから、不思議科学って凄い。
ちなみに、ヤオヨロズダケを育てているのは俺達男子である。当番制で、担当男子1人による、星力を使用した、瞬速かつ、超超大量栽培のスーパー力技である。
一回で、53人が一ヶ月余裕を持って暮らせる量が取れるのだ。
だから、この狭い世界には牧場や畑などはない、動物は時々飛んでくる鳥と図鑑のデータベースでしか確認する事しかできない。
それは、俺としては少し残念に思っていることは、追記しておこう。
最後に水、人間が生きていく為に、1番重要なものだ。
コレに関しても、星力を使ったゴリゴリを超えたゴリ押しで解決している。
空気中から水を発生できる装置があり、それに星力を使用し、ザパァンってな具合である。下水の処理も流れは全く同じだ。
やっぱりコレも当番制、男子1人、一回で、三ヶ月分である。
水を貯めるための施設は地下にあり、一年分の余裕を持って運用されている。
こんな感じで、星力が使える男子は、自分でいうのもなんだか、大変便利な存在なのである。
えっ?そんな便利な人達を豚呼ばわりしてる人がいる?…ほら、あの人は特別?っていうか、特殊な趣味?の人だから、ね?
人の趣味を貶すのは、コミュニケーションで最大のタブーだから、皆も気をつけようね!
「そ・れ・で・は〜、皆々様が〜、お待ちかねの〜、先月の成績優秀賞の発表で〜す!!パチパチ〜!いつも通り〜、選ばれた、キャワイイ、キャワイイ子は〜、皆々様の前で〜、モエちゃんのハグと〜、ナデナデと〜、ほっぺにチュッ!が貰えまぁす!きゃっ♡」
「辞退は出来るけどな…」
「あはは…流石に、ちょっと、恥ずかしいしね」
貰ったという奴を、俺は未だ見たことがない。これからも、残念ながら無いだろう。うん、本当に皆が正気でよかった。
「まずは〜、座学のお勉強で〜、1位になった〜…」
「カイ・リュート様〜!!」
「やったぜ!!オッシャアアァァァ!!!」
「ヤ、ヤマトくん、喜び過ぎだよ〜」
俺は立ち上がり全身で歓喜を吠える!流石、カイ!俺の自慢の天使!!
「カイ様の成績は〜、全科目90点以上でした〜!これでカイ様は〜、24回目の受賞で〜す!とっても、とっても、偉ぁい〜!」
「んなもん!!あったりまえの事だろうが!!こらぁぁぁぁ!!」
「ヤ、ヤマトくん、落ち着いて!相手はシスター長!シスター長だから!」
カイが素晴らしい事など、宇宙の常識だろうがっ!!ふざけてんのか、この女!!
「続いては〜、体育のテストで〜、1位になった〜…」
「ヤマト・リュート様〜!」
「おめでとう!ヤマトくん!」
「カイへの褒めが!足りねぇんだよ!もう100倍は聞かせんかい!!あぁぁぁぁん!!」
「どういうキレかたなの!?」
オレの事より、カイをもっともっと褒めて、称えて、崇拝せんかい!!それがあるべき世界の姿だろうが!!
「皆々様も〜、流石に〜、これは〜、予想できてたかな〜、何と言っても〜、ヤマト様は体育のテストでは〜、全戦全勝!不動のチャンピオン!本当に〜、すごぉい〜!!」
…とまぁ、実は俺こと「ヤマト・リュート」は身体能力だけは、人並み以上の能力なのである。
これが、三馬鹿が俺にビビってた理由だ。
何故俺の身体能力が、男子の中で飛び抜けているのかは、理由は結構色々あるが、ここでは一つだけ、答えておこう。
シスター・アサの趣味に付き合えば、誰だって、嫌でもそうなるんだよ!!バカ野郎!!と
「本当にすごいなぁ、ヤマトくんは本当に、カッコイイなぁ!」
カイ、そのうるうるお目々と上目遣いは反則だからね、俺、本気で今抱きしめそうになったから…
もう、何に耐えているのかも、自分では、だんだん分からなくなって来たなあ、マジでやべぇ…
「最後に〜、ゲームの成績で〜、1位になった〜…」
「ナガレ・リュート様でぇ〜す!」
先人達の偉大さを痛感する日々です。どうしよう…とりあえず、ぼちぼちやってみます




