隣の君
『メッセージの着信 カイ・リュート』
『ヤマトくん、今どこかな?(´・ω・`)』
『もしかして…まだ、補習中?(´;ω;`)』
『もう終わったよ、ちょっと、一休みしたくて、外をブラブラしてた』
『カイは?』
『部屋で勉強中(≧∇≦)b』
『マジか、流石カイ先生』
『次の定期試験でも、オナシャ〜ッス!』
『了解!(*´∀`)』
『もうすぐ夕食だから、一緒に行こ(。>﹏<。)』
『わかった、すぐにカイの部屋に行くから、ちょっち待ってて』
『うん!待ってるね!(-ω☆)キラリ』
視界内に、邪魔にならない程度に映し出される表示を切り、
俺は深く息を吐く、
「はぁー………、マ、ジ、で、癒されるわぁー……」
流石カイ、俺の心のオアシス、俺の唯一の天使、
もう、一生一緒にいてくれ、何でもするから、お願い。
完全に日も落ちたなか、
教室に向かいながら、俺は自身の想像以上に、疲れている自分に嫌でも気付かされる。身体も気分も、とにかく重い…なんか、俺だけ重力3倍くらいになってね?地球が嫌がらせをしてね?
午前中は、ゲーム授業の後、ナガレと取り巻き連中相手に、フルボッコ祭り。
その後は、ドS女王、シスター・アサと楽しいSMプレイ…じゃなかった、イジメ?シゴキ?ほとんど犯罪だよ!バカ野郎!なトレーニング。
そして、さっきのアレだ…
「濃すぎんだろ…胃もたれするわぁ…」
ちなみに、この世界の通信技術は、体内のナノマシンによって成り立っている。これに関しては星力は関係なく、ナノマシン自体の機能だ。
俺の中にある過去の知識、それのインターネットを使用した機能は全て、デバイスもなしで使用できる。
通話も、メッセージも、ネットワークの構築も、データベースへのアクセスも、その他諸々、意識を向けるだけで、脳内のナノマシンが全て処理して視界内に表示してくれる。
俺個人の感想を言わせてもらえば、脳内に、勝手に俺の意思を汲んでくれる、物言いわぬどころか、顔も声もわからぬ、便利な誰かが住みついているのと全く同じだ。
つまり多重人格だ。
最初はマジで慣れるのに苦労した。いや、苦労したなんてモノじゃなかった…それは、地獄としか言えない
だって俺の中では、こんなのもう超能力でしかない、科学技術というより、ただの魔法としか思えなかった。
とにかく、訳がわからない故の「恐怖」
これはナノマシンの話だけではなく、この世界の全てに対して俺が最初に思ったことだ。
それもこれも全て、俺が3歳の時に、
ある朝、目が覚めれば突然
「ある男のクソったれな記憶」
が上書きされてしまったせいだ。
異世界転生とでも呼べばいいのだろうか?
過去のクソ野郎の記憶では、そう呼ばれていた「ジャンル」
それなのかも知れない。
その中では、それを体験した主人公達は、皆、一瞬で適応し、ハツラツと生きていた人達ばかりだったが…
俺はそうなれなかった。
はじめて、それを自分が体験したとき、俺の中に生まれたのは…
恐怖
しかなかった。
考えてみて欲しい、それまで、たった3年とはいえ、ヤマト・リュートとして考え、感じ、生きてきたのだ。
それが、はい、今日から貴方は別人です、知識も常識も人格も、今までの貴方はゴミ箱にポイッです!と言われても、怖いとしか思えなかった。
自分は誰なのか?自分は何なのか?この世界は何なのか?
この世界はもしかしたら…
ただのクソ野郎が気持ちよくなりたいが為に…
勝手に見てる都合のいい…
末期の夢ではないと、誰に証明できる?
目を閉じたその瞬間、全て消えて無くなる事はないのだと、誰が保証してくれる?
だって、実際、
3歳だった「ヤマト・リュート」は消えてしまった
怖くて、怖くて、怖くて、どうしようもなかった。
だから、子供頃の俺は、自分の中にある「ある男のクソったれな記憶」に縛られ、
この世界の常識に適応できず、しょっちゅうパニックを起し、過呼吸や、気絶など、ありとあらゆる、重度の精神的障害を発症した。
後に、シスターの1人に教えてもらえたが、俺の保健室への隔離措置が真剣に検討されていたらしい、まぁ、当然の対応だ。
そんな、手の施しようがないほど壊れた俺を、救ってくれた人が、
「カイ・リュート」だった
ピンポーン
パタパタ
ウィーン
「ヤマトくん、補習、お疲れさま」
「……天使……」
「えっ?なに?なに?なにか言った?」
「ああ、いや、待たせてゴメンな」
「全然!もう、行ける?」
「カイが良ければ?」
「うん!僕は大丈夫」
「んじゃ、食堂に行こう」
そんなやり取りの後、俺達は教室にある食堂へと到着した。
食堂は、バイキング方式となっていて、各自で好きなモノを、好きな量、よそう形だ。
テイクアウトにも対応していて、自分の部屋や友達の部屋で食事を済ますことも許可されている。至れり尽くせりだね、本当にありがたい。
「うーーん」
「………」
「うーーん」
「………」
「うーーん」
やっぱり、何かの鳴き声みたいだよな…小さくてカワイイ系のやつ、癒されるわぁ。
山と積まれた、和洋中その他、様々な料理を前に、カイは先程から真剣に悩み続けている。
そんな横で和みながら待つ俺。
ゆっくりとした、いつもの俺の大好きで大切な日常だ。
料理に限らず、カイはこういった、自分の好きなモノを自分で選ばないといけない事が、少しだけ苦手で、いつも、ちょっとだけ他の人より時間がかかってしまう。
俺は、このカイを待つ時間が大好きなのだが、本人はそれを結構気にしてしまっている。
だけど、俺からすれば、それも美点にしか思えない。
それだけ真剣に考えてくれるのだ、作ってくれたシスター達だって、なんなら料理された食材だって報われるだろう。…何より、鳴き声がカワイイしな。
なのに、ああ、
「…おい……アレ……また……」
「あぁ…本当………せよなぁ…」
「……きだろ……マジ…なぁ…」
ヒソヒソと、ドブみてぇな悪臭を感じる汚らしい囁きさえなければ、本当に最高で完璧なディナーなんだけどなぁ!!
俺はまず、カイが気づいてしまっていないかを確認する、
「うーーん」
よし!カワイイ!
次に悪臭の発生源に目を向ける、アイツらか…
サマラ・リュート、
ナーラー・リュート、
ハシバミ・リュート、
ナガレの取り巻き連中の三馬鹿だ。俺達を見ながら三人で固まってヒソヒソ嗤っている。
俺は反射的にナガレの姿を確認したが、あいつは食堂にはいない様だった。
さて、それでは…カイからは見えないように注意しつつ、
バカ①、サマラにはヤの付くご職業なみの、メンチをきる!
はい、冷や汗ダラダラかきながら、静かに俯いて、不味そうに飯をモソモソと食べ始めたので、俺の勝ち!
バカ②、ナーラーにはシャクレた顎を強調しながら、上腕二頭筋の盛り上がりをアピール!
はい、明後日の方向見ながら、咳払いして、青い顔しながら、口元押さえ席を立ったので、俺の勝ち!
バカ③、ハシバミには無表情の口パクで「尻の穴に、手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタいわすぞ」と伝える!
はい、ナノマシンの機能で、口パクを正確に読み取った奴は、涙目になって頭を何度も下げているので、俺の勝ち!
そして、食堂に似つかわしくない悪臭は、元から除菌されたのだった。
奇跡のロックンローラー、ナガレがいなければ、三馬鹿なんぞ、こんなもんだ。
アイツらは、いつも、ナガレが無抵抗の俺を一方的にボコるのを、ビビリながら、眺めてるだけだもんな。
自慢ではないが、俺をボコれるのなんて、この狭い世界では、
ナガレ・リュートとシスター・アサしか存在しない。
…アレ?2人もいれば十分多いか?
つーか、人を簡単にボコるのはどうなの?普通に犯罪だよね?…やっだ!何ここ!治安悪い!
「ヤマトくん?どうしたの?」
「いや…こういうの、どこに訴えればいいんだろうなぁ…ってな?」
「??」
料理を選び終えたカイが、可憐に首を傾げた。うん、カワイイ。
午前中もそうだったが、ナガレとその取り巻き連中は、カイの選ぶ遅さを理由に、彼に因縁をつけ、ダル絡みを行う。
というよりも、カイを不当に非難したくとも、できるポイントなど、そこしないのだ。
星力量はぶっちぎりの1位。
座学のテストでも1位。
体育は少し低いが、それでも中の下。
ゲームの成績は、持ち前の星力量にものを言わせた、ゴリゴリのゴリ押しで何とかなってしまう。
性格は、見ての通り、だ。
こんなん因縁をつける方が、苦労して頭を捻らなきゃならん。
「あっ、放送が始まるよ!」
「ん?…あ、ああ、そういえば…今日だったっけ」
料理を運び、食堂に用意されたテーブルについた時、対面に座ったカイが、ウキウキした顔で教えてくれる。
なので、思考を「教室放送」に向けた瞬間、視界内にウィンドウが表示され、そこに1人のシスターが映し出される、
映し出されたシスターは
肌は黒、髪はシルバー、目は濃いパープルで、知性を感じさせるフレームレスの眼鏡かけている。
齢は、やっぱり美人なので判断が付きにくいが、40代くらいだろうか?他のどのシスター達より確実に上なのが、何とか分かる程度だ。
とにかく全身から、知性と厳粛さが迸り、何もなくとも頭を下げてしまいそうになる女性である。
そんな彼女がゆっくりと笑みを浮かべながら口を開き、言葉を発する、
「素敵な私達の皆々様!ごきんげんよ〜!!皆々様の事が、もう、食べちゃいたいくらい、愛しくて愛しくてたまらない…」
「シスター・モエだぞっ♡きゃは♡」
先人達の偉大さを痛感する日々です。どうしよう…とりあえず、ぼちぼちやってみます




