星の力
「…頭が痛いよぉ…」
いきなり情けなく、泣き言を垂れ流しているのは、誰かだって?
「…お腹が減ったよぅ…」
そう!それはこの俺!「ヤマト・リュート」さ!
「あらあら、ついに本物の豚になっちゃったのぉ?頭を抱えて、ピクピクと震えて、可愛らしいわぁ」
最高に輝く笑顔で、俺を見下すシスター・アサ。
この瞬間、俺は、今なら人を殺しても許されるんじゃないかと、本気で感じた。
え?犠牲がどうの?知らんわ、そんなもん。
時間は少し巻き戻り、俺がドヤ顔で、決め台詞をかましてやった後。
シスター・アサは一瞬でいつもの、シニカルな表情に戻り、
「そう、ただのゲームなのに、そんなに味方ユニットの、損失が嫌だって言うなら、仕方ないわよねぇ」
「………」
「なら、損失を避けた上で、良い成績を出せるように、あなたが!そう、あ、な、た、が!」
「……ん?」
「死ぬ程、頭と星力を使って、頑張りますって事よねぇ?」
背中って、こんなに汗をかけるんだぁ、俺、初めて知ったよ。
「じゃあ、とりあえず、今日のゲーム内容に合わせた、指示パターンのシュミレーションを100通りの訓練とぉ」
「ひゃ!?」
「その状況に合わせた、リアルタイムな、各ユニットごとの星力の属性変化の即時切り替え訓練とぉ」
「そくっ!?」
「それを最後まで維持できるように、星力量アップのチョー苦しい訓練も合わせて、やれちゃいますぅ!って事よねぇ?」
「いやっ、そ、それは…」
「犠牲なんか無い方が良いに決まってる!キリッ」
「ぐぅっ!」
「やるわよねぇ?ブ・タ?」
「…ぶ、ぶヒィ…」
そこから先は、何故だろう、よく覚えていないんだ。
「最終的な成績は、味方ユニット全員生存で、1時間45分ねぇ」
「う、う、う」
「まだまだ、平均にも届かないタイムだけどぉ」
「お、お、お」
「今日は、仕方ないからぁ、これで良しとしてあげるわぁ」
「!?」
「お礼は?」
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
「よし」
ムフ〜と擬音が見えるくらいの満足顔のシスター・アサと、
その足元で、涙を流しながらコメツキバッタのように、土下座をしながら感謝する俺、
これがこの世界のどうしようもない真実だ…
「しかし、本当に腹が減ったなぁ…」
ちなみに、今までも何度か出てきた、「星力」というモノだが、これはこの世界において男性にのみ発生する、特殊なエネルギーの事を指す。
この世界の、全ての人間が生まれた時に、義務として投与される疾病対策、遺伝子の強化、身体能力の増強を目的とした、ナノマシン。
そのナノマシンと地球の磁場が、不思議なコラボレーション!を起こして発生するらしい。
なぜ男性だけに発生するのかは、いまだ謎。
ただ、この星力はナノマシンを通して、なんと減衰率ゼロどころか、かなり強大な増幅の性質を持った「共鳴」を起こす事は分かっている。
つまり、男性は共鳴を利用して、ナノマシンが入っている対象に、増幅したエネルギーを伝播させることができるということになる。
この流れを、星力を使う、または、星力の使用と呼んでいる。
めっちゃ簡単に言っちゃえば、生きて動く最強発電機の誕生ということだ。
蛇足になるかも知れないが
ただ一つの例外中の例外を除いて、
男性同士の共鳴は絶対に発生しない、これも何故かは謎らしい。
「……はい、これ……」
あまりのひもじさに、腹を押さえる俺の目の前に、大きな包みが差し出された。それを辿ると、
「??」
「……お弁当……用意…したのよぉ……」
小さくボソボソ喋り、完全に明後日の方を向きながら、包みを差し出しているシスター・アサがその先にはいた。
「………」
「………」
ただただ静寂
「…いらないなら…」
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
何か言おうとしていた、シスター・アサを遮り、再びのコメツキバッタになる俺。天上からの賜り物の様に受け取り、早速、中身をかきこむ。
「うんめぇ!うんめぇよぉ!」
「…そんなに美味しいのぉ?」
「うんめぇよぉ!!」
「んふふ…ブ・タ♡」
全く!誰だ!こんな女神の様に優しい女性を、殺してやろうかな?などと考えていた豚は!!信じられんな!!
それから、しばらくは、涙を流しながら大量の弁当を食べる俺と、その隣で水筒から時々お茶を出してくれながら、何故かめっちゃ満足そうな顔をしたシスター・アサという、実は時々、発生する事がある風景が流れるのであった。
先程の続きになるが、この星力を使った共鳴現象には、5種類のより伝播しやすいパターンがある。
なので、男性側は自身の意思によって、体内のナノマシンをある程度操作し、受け手側の特性にあった共鳴を行うと、より効果的にエネルギーの伝達をする事ができる。
体内のナノマシン操作の感覚を、俺個人の所感で説明するのなら、口笛が1番しっくりくるだろうか、
最初は鳴らすだけでも精一杯だが、練習を重ねれば、音階を表現し、いずれは、1人の口笛だけで、一つの曲を奏でる事が出来るようになる、そんな感じだ。
「星力の属性変化」とは一般的にこの5種類を指し、それを即座に、状況と相手にあわせて、遅延なく、アドリブで、何度も切り替えるということが、いかに難しいかは
…先の口笛を想定してもらえれば、共感してくれる人もいるのではなかろうか。
しかし、ゼロから生まれる力がないように、星力にも、そもそも必要な初めのエネルギーがある。
つまりは、体内のナノマシンを動かすエネルギーだ。
まぁ、ぶっちゃけ、それは「カロリー」です。はい。
カロリーをいかに効率良く、ナノマシンの運動に変換できるか、
これを指して「星力量」と呼称されている。
星力量が多いとは、少ないカロリーで、より多くのナノマシンを動かす事ができ、ひいては、共鳴をより多く起こす事ができる!燃費が良いね!
という訳だ。
星力量に関しては、個人のナノマシンとの相性、つまりは「生まれ持った体質」に大きく依存している。
これは、痩せにくい人と痩せやすい人で同じ速さで1km走らせてみた!で考えれば想像がつくかもしれない。
痩せにくい人は、1km走っても、想定よりカロリーの消費が少ない。
つまり、燃費がいいので、星力量が多いとなる。
痩せやすい人は、1km走っても、想定よりカロリーの消費が多い。
つまり、燃費が悪いので、星力量が少ないとなる。
星力量も体質ではある以上、呼吸法や、内臓機能や、体重や、何よりメンタルで、そこそこではあるが変化する。
星力量アップのトレーニングを、体質改善の地味なトレーニングに置き換えてもらえれば、チョー苦しいの意味を理解してもらえるのではなかろうか。
「ごちそうさまでした!」
「はい、おそまつさまでしたぁ」
大量にあった弁当を全て平らげて、俺はシスター・アサに手を合わせて頭を下げた。
いや、マジで腹が減って死ぬところだった。
星力の使用=カロリーの消費である以上、エクスカリバーの使用や、シュミレーションでの使用で、俺の体の中にあるカロリーは、その都度、ガンガン減ってゆく、つまり、飢餓状態になるということだ。
限界を超えた星力の使い過ぎに待っているものは、洒落や、冗談ではなく、
餓死だ
だから、この世界の男性は食事を、どうしても重要視せざるおえない。
シスター・アサが俺達男性を「豚」と呼ぶのは、そういった意味もあるのだろう…いや、ほとんど趣味の可能性もあるが…
「それじゃあ、豚、後はゆっくり休むのよぉ」
「あっ、はい、お弁当、本当に美味しかったです。ありがとうございました!」
「……そうそう、それと…」
ゲーム室を出て行こうとしている、シスター・アサに俺はもう一度お礼を言った。
それを聞いてなのか、彼女は出入口で立ち止まり、一度振り返り、完璧なシスターの顔でこう言った。
「ヤマト様、シロト様にお会いになるのは、もう、お止め下さい」
我慢出来ずに書いてしまいました。どうしよう…とりあえず、ぼちぼちやってみます




