白い兎
餓死は最も辛い死に方の一つといわれることがある。
人間が飢えて死ぬのには、
三つの段階がある、
何も食べずにいると、
最初にグリコーゲンという、糖分を蓄えられる形にしたモノが、筋肉や、肝臓から緊急投入され、身体を巡り当座を凌ごうとする。
さらに、何も食べずにいると、
次に、脂肪を肝臓で代謝し始め、ケトン体という糖分の代わりになるモノを緊急投入し、身体は必死に生きようとする。
それでも、何も食べずにいると、
最後に、
身体は身体を食べ始める
タンパク質を分解し、エネルギーをなんとか得ようとする。
筋肉、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、
そして、心臓
ありとあらゆる重要な機能を失おうとも、それでも一秒でも長く身体は生きようと藻掻き続ける。
そうして最後まで、何も食べずにいれば
内臓の機能不全か、
心臓が動けなくなり、
やっと人は餓死する。
さて、ここまでで、気が付く人もいるのかもしれない、
そう、身体は最初から最後まで、
脳だけは、護ろうとするのだ。
必死に、脳が唯一食べられる「甘いモノ」を、最後の最後まで探し続ける
だから、辛い、といわれることがあるのだろう。
「シロト兄さんが……ダメ?って、どういう事!?」
カイが真っ青な顔をしながら、叫ぶように俺に問いかける。
俺はそんなカイの肩を、なるべく優しく押さえ、慎重に、絞り出すように言葉を続ける。
「…カイ?…あの時、シロトが、どうなったかは、分かってるよな?…」
「…シロト兄さんは…ナガレくんと…共鳴を起こして…」
「………」
「…それで…それ…で…星力が、どんどん、どんどん…」
「………」
「どんどん!溢れて!」
「もう、いいよ、後は、俺が言うから」
俺は、それ以上は、震えるカイに耐えられず、彼の頭を優しく撫でた。フワフワなブロンドが、くしゃりと軽い感触を手に返す。
カイは俯き、震えながら、泣いている。
俺も、もう、続けたくは無かったが、伝えなくてはならない、
「そう、シロトは星力の使用の暴走で、ほんの一瞬で、餓死寸前になってしまった」
思い出すのも、悍ましい映像だ、
笑い合う、シロトとナガレ、その傍で見物していた、俺とカイ。
ナガレが、シロトに星力を使用
1秒後、溢れ返る星力の光の中で、シロトの足と腕が、枯れ木のようになる。
2秒後、尚も勢いを増す光の奔流の中で、シロトの腹が妊婦の様に膨らみ、逆に胸の位置が不自然な程凹む。
3秒後、もはや光熱の川のなかで、シロトの髪が抜ける、顔がガイコツにしか見えない程にやつれる、痩せる、凹む。
シロトが、どんどん減っていく…
「…あの時、咄嗟に、ヤマトくんが、ナガレくんの事を殴って、気絶させていなかったら…シロト兄さんだけじゃなく、ナガレくんまで…共鳴を起こして…シロト兄さんと同じ様に…」
「………」
それでも、俺は遅すぎた、助けられたのは、ナガレだけだった、
「…シロトは多臓器不全になって、筋肉も殆ど無くなって………何も出来なくなった…」
「ううっ…」
そう、「何も出来ない」、
「でも、脳と心臓だけは生きてて、全身のナノマシンもなんとか頑張ってくれて、死なずにはいる……けど…」
「ぐすっ…ううっ…」
「けど…アイツは……」
俺もカイも、涙が止まらない、
「シロトはシロトの身体に閉じ込められた」
「…でも!!でも!!ヤマトくんがいるでしょう!!」
「………」
「ヤマトくんだったら、シロト兄さんと繋がれる!!」
「………」
「ヤマトくんは、シロト兄さんの星力属性と反対の属性なんだから!!」
星力には共鳴しやすい5種類のパターンがあり、男性は体内のナノマシンを操作し、受け手側の特性に合わせた星力にする事で、より効果的なエネルギー伝達を行う事ができる。
これを指して「星力の属性変化」という。
これを反転させた場合、どうなるか…
星力には共鳴しにくい5種類のパターンがあり、男性は体内のナノマシンを操作し、受け手側の特性に反した星力にする事で、より減衰させたエネルギー伝達を行う事ができる。
になる。
ここで重要になる事実を2つ開示すると、
共鳴で発生する属性は、受け手側の属性になる
受け手側の特性は、生涯、変化させる事が不可能である
という2点だ…
これを俺とシロトに当てはめる、
前提は、
シロトは男性と共鳴し合い、相互に増幅し合うやり取りをする
シロトが受け手側として発生させる共鳴には、シロトが生まれ持つ特性が乗る
では、この前提に、俺を追加する、
俺は受け手側として、シロトとは反対の特性を生まれ持っている
図にしてみよう
俺★→☆シロ☆→★俺★→☆シロ
こうなる訳だ
つまり、俺とシロトは共鳴し合うが、
相性が反対同士なので、
星力のやり取りに、
ひたすら、減衰というデバフが付くのだ。
だから、暴走せずに星力のやり取りができる。
そもそも、男性の受け手側の特性を把握する方法はない、
普通は受け手側になれないからだ。
だが、
この減衰したやり取りを、考えついた俺の提案により、
俺達男子は事故の後、シスター達に頼み込み、彼女達の監修の元で、
シロトにほんの砂粒一つ程度の、決して暴走が起きない量で、星力を使用し、共鳴し合い、彼と自分達の特性を調べた、
その結果、俺とシロトの相性の悪さが判明したが、非常に理不尽な事に、俺の他にはいない事も判明した。
「ヤマトくんとなら、ヤマトくんだけとなら!!シロト兄さんはエクスカリバーで、ヤマトくんを通して世界と繋がれる!!」
そう、
星力を使用するエクスカリバーの相互リンクによる、超大量密度の相互間の情報のやり取り
それがあの事故の後、シロトを助けたくて、ナガレを救ってやりたくて、俺が考えついた、苦肉の策だった。
星力がやり取り出来ない以上、男性が、他の男性の使用するエクスカリバーを認識する事は出来ない。
自己申告か、リンクした女性の報告のみが、男性側から見た確認方法だ
だが、シロトだけは違う。彼は、男性と星力のやり取りができる男性だ、他の男性が使うエクスカリバーを、認識できる可能性が十分にあった。
ならば、安全面を考慮し、星力を使うエクスカリバーをリンクさせても、暴走の危険がない俺と繋がれば、
彼は互いのエクスカリバーを通して、世界を感じる事ができるのではないかと俺は考えた。
さらなる、安全対策として、エクスカリバーの展開者は必ず俺であり、シロトは絶対にリンクの要請者になる事を、シスター達と罰則ありの誓約を交わす事で、
なんとか、一回目の実験にこぎ着け、
そして、実際、それは成功することができ、以降どうにか続けて来れた。
だけど、ああ、だけど、
「カイ…あいつな…シロトの奴な…エクスカリバーをずっと展開してるんだ…」
「…え?」
「何度止めろって言っても…死にたいのかって言っても…約束の時間になったら、必ずリンクするからって言っても…お願いだから止めてくれって言っても…」
「ああぁ…ああぁ…」
「あいつ…ずっと…俺を待ってるんだよ…」
「あああああ!」
カイが、がむしゃらに俺の頭を掻き抱く、強く強く、抱きしめながら、叫ぶように泣く…
いつの間にか俺の口からも、同じ様な声がでる。
「「あああああ!!」」
月の下で、吠えるように、泣くことしか、俺達にはできなかった。
ーシスター・アサとの補習後すぐー
「やあ、待ってたよ、ワタシのヤマト」
「…今すぐ、エクスカリバーの展開を止めろ」
「ははっ、いきなりかい?キミのことが大好きなワタシに、笑顔くらいは見せてくれないか?」
「教室全体に展開するなんて、何考えてんだ!!星力の使用がお前にとってどれだけ危険か、分かってるだろうが!!」
「目蓋も眼球も動かせないから、無光」
「は?」
「鼓膜の機能も衰えて、無音」
「何を言って…」
「舌も、喉も、動かせないから、無味」
「話を…」
「鼻は、呼吸ができないから、無臭」
「………」
「体なんて1ミリも動かないから、無痛」
「わかった、リンクの回数を増やすから…まず…」
「生命維持にナノマシンの大部分を使用されて、無回線」
「お願いだから…なあ…シロト…」
「ワタシは自分に出来る唯一の事をしているだけさ」
「シスター達との誓約を破っているんだぞ…」
「大好きな君を待つっていうね」
「お前!死にたいのか!!!」
「ははっ」
笑う、白い髪をした彼は笑う、
「はははっ」
笑う、白い肌をした彼は笑う、
「はははっははっ」
笑う、赤い瞳を潤ませた彼は笑う、
「ははっ!ああ、やっぱり大好きだよ!ワタシのヤマト!!はははっ」
笑う、もはや存在しないそれらもなく、ただのデータとして、彼は笑う
「キミのことが、また愛しくなったよ!はははっ!」
笑う、食べても食べても満たされない、兎のように
彼は笑う
「ああ、確かに、それもワタシに出来ることだ!!」
先人達の偉大さを痛感する日々です。どうしよう…とりあえず、ぼちぼちやってみます




