第8話「結局、僕は一度も剣を抜かなかった」
魔王軍幹部・ザルガスが現れたのは、街道の真ん中だった。
三メートルを超える巨躯。黒い鎧。頭部には角が二本。魔力の圧が空気を歪めるほどで、周囲の草木が根元からなぎ倒された。どう見ても、即死級の敵だった。
「勇者アルトよ。貴様の首、もらい受ける」
低く、地を這うような声だった。アルトは剣の柄に手をかけた。
——その前に、四人が前に出た。
「アルト様は下がっていてください」
「邪魔になるっす」
「危険ですので」
「私が盾になる」
全員の意見が珍しく一致した。アルトへの扱いだけは、いつでも一致する。
ザルガスが四人を見渡した。それから、わずかに首を傾けた。
「……女ばかりか。勇者、貴様のパーティはこれだけか」
「そうです、文句ありますか」
「ない。ただ——」
ザルガスが魔力を練り上げた。黒いオーラが膨れ上がり、周囲の空気が震えた。
「死ね!!!」
放たれた漆黒の魔法が、四人へ向かった。
セレスティアが聖光の障壁を展開した。フラムが爆発性の薬液を前方に散布した。リプレが迎撃用のアーティファクトを三個同時に起動した。ヒルダが巨大な盾を構えて前に出た。
四つが、盛大に干渉した。
聖光が薬液を巻き込んで膨張し、アーティファクトの爆発がそこに重なり、ヒルダの盾が反射板になって全てを一点に収束させた。轟音。閃光。衝撃波がアルトの髪を揺らした。
煙が晴れた。
ザルガスがいた場所には、直径五メートルのクレーターがあった。鎧の破片が半径二十メートルに散らばっていた。幹部の痕跡は、それだけだった。
四人が、互いを見た。
「……障壁が薬液と反応するとは思いませんでした」
「盾が収束レンズになるとは計算外っす」
「爆発のタイミングが少し早かった。次は調整が必要ですね」
「私の盾が反射板になったのは誤算だった。改良する」
全員が反省会を始めた。アルトは剣を鞘に戻した。一度も抜いていなかった。
「あの、僕の出番は?」
「ありませんでした。不要ですから」
「次もないと思うっす」
「そうそう、危険ですので」
「あなたは後ろにいてくれ」
四人同時だった。
アルトはクレーターを見た。次にザルガスがいた場所を見た。それから空を見上げた。
「僕、勇者なんですけど!? 戦うのが仕事なんですけど!?」
誰も答えなかった。反省会が続いていた。
その時、瓦礫の影からゴードンが這い出てきた。全身に返り血を浴びていた。
「……お前ら、また俺の獲物を」
「ゴードンさん、いたんですか?」
「別の幹部を追ってたんだよ! 余波で吹き飛んだんだよ!」
ゴードンがアルトの隣に立った。二人でクレーターを眺めた。
「お前も何もしてないのか?」
「この1か月ほど、剣、一度も抜いてないです」
「俺は抜いたぞ。意味なかったけど」
二人は無言で空を見上げた。
◇◆◇◆◇
「四属性複合干渉、魔王軍幹部の消滅。——これで三十七人目ですね」
ミラベルが手帳のページをめくった。魔王軍の幹部リストがあった。三十七人の名前に、全て赤線が引かれていた。残りは魔王一人だった。
「予定より一週間早い。優秀なパーティです」




