第9話「黒と白が来た日から、地獄が整理された」
朝、宿屋の前に二人が立っていた。
銀髪のショートボブ。揃いの無機質な瞳。一人は黒のメイド服、もう一人は白のメイド服。身長も体格も顔も、鏡で映したように同じだった。並んで立つと、人形が二体置いてあるみたいだった。顔だけ見れば、という話だが——二人とも、表情がなかった。
黒の方が一歩前に出た。無言でアルトに一枚の紙を差し出した。
ミラベルからの手紙だった。
『効率化のため、補佐を二名派遣します。ノワール(黒)とブラン(白)。ご活用ください。——ミラベル』
「……活用、って」
白の方が口を開いた。丁寧な声だった。笑顔だった。目が笑っていなかった。
「はじめまして、アルト様。ブランと申します。以後、スケジュール管理、情報整理、およびパーティの円滑な運営をお手伝いします」
「円滑な、運営?」
「ええ。今のパーティは少々……非効率ですので」
その時、背後から四人分の足音が近づいてきた。
「アルト様、朝の回復を——」
「朝の投与の時間っす——」
「朝の装備チェックを——」
「朝の護衛配置を——」
四人が同時に角を曲がってきて、互いを見た。火花が散った。
「聖女が先です」
「薬師が先っす」
「錬金術師が——」
「全員下がれ」
いつも通りの争奪戦が始まろうとした、その瞬間。
ノワールが動いた。
音もなく四人の間に割って入り、無言で両腕を広げた。それだけで、四人が止まった。圧があった。小柄な体のどこにそんなものが宿っているのか、わからなかった。
ブランが手帳を開いた。
「順番を決めます。本日の朝は、セレスティア様が回復、フラム様が投与、リプレ様が装備チェック、ヒルダ様が護衛配置。所要時間は各二分。合計八分で全工程が完了します」
「……なぜ私が最初なんですか? 錬金術師より先に——」
「昨日の戦闘データを参照しました。本日のアルト様の疲労回復優先度は魔力回復が第一です。よって聖女様が最適です」
「…………」
セレスティアが黙った。反論できなかった。
「異議は?」
四人が互いを見た。誰も口を開かなかった。
ブランが微笑んだ。目は笑っていなかった。
「では始めてください、セレスティア様。二分間、どうぞ」
アルトは助けを求めてノワールを見た。ノワールは無言でアルトの肩を押さえた。逃げるな、という意味だった。
「あの、僕の意思は?」
「スケジュールの調整要員に含まれておりません」
「含めてください!!!」
「いずれ検討します」
「今検討してください」
「予定が遅延するので後回しです!」
八分後、全工程が滞りなく完了した。アルトは椅子に座ったまま、四人分の処置を順番に受け続けた。抵抗する間もなかった。これまでより遥かに速く、遥かに正確に、全てが終わった。
ゴードンが酒場の窓から一部始終を見ていた。
「……整理されたな」
「整理されました」
「前の方がよかったか?」
「……どっちもどっちです」
アルトは遠い目をした。
◇◆◇◆◇
「ノワール、ブラン、お疲れ様です」
ミラベルが窓の外に向かって、静かに言った。誰もいなかった。一秒後、双子から念話が届いた。『配置完了です、ミラベル様』
「ありがとう。——では第二幕を、始めましょうか」




