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第10話「地獄に、秩序が生まれた」

 問題は、三日後に起きた。


 正確には、問題が起きなくなったことが、問題だった。


 ブランがスケジュールを組んだ。ノワールが執行した。セレスティア、フラム、リプレ、ヒルダが、決められた順番で、決められた時間に、決められた処置をアルトに施した。誰も喧嘩しなかった。誰も割り込まなかった。全員が粛々と、自分の担当を果たした。


 その結果、アルトに注がれる過剰バフの総量が、これまでの三倍になった。


「ちょっと待ってください」


 朝の第一クールが終わった直後、アルトは口を開いた。椅子に座ったまま、全身が微妙に光っていた。ステータス画面に数値が溢れかえっていた。


「前より量、増えてませんか?」

「増えました」ブランが手帳を見ながら答えた。「以前は皆様が干渉し合って、バフの三割が相殺されていました。今は一切の無駄なくアルト様に届いています」

「無駄だった三割、必要だったんですが……」

「非効率は排除しました!!」

「非効率が最後の防波堤だったんですよ!」


 ブランが微笑んだ。目は笑っていなかった。


 昼の第二クールが始まった。フラムが薬液を三本、正確に投与した。リプレがアーティファクトを二個、所定の位置に装着した。ノワールがアルトの逃走経路を、音もなく塞いだ。


「逃げようとしてないですよ」

 ノワールが無言でアルトを見た。

「……逃げようとしてました、すみません」


 夕方の第三クール。ヒルダが鎧の中にアルトを収め、セレスティアが最後の回復魔法をかけた。ステータス画面の数値がまた跳ね上がった。防御力の欄が、四桁になっていた。


「防御力が九千超えてるんですが……」

「それは良好です」

「もはや人間の数値じゃないんですが?」

「問題ありません」

「いやいや問題しかないんですが……」


 ゴードンが夕食の席でアルトの隣に座った。アルトのステータス画面を横から覗いて、黙った。しばらく黙った。


「……俺の防御力、十二だぞ」

「それは辛いですね」

「辛い。いまだに薬草一枚もらえんしな」

「もらってくださいよ、普通に……。俺の分分けてあげたいです……」


 ゴードンが遠くを見た。フラムの方を見た。フラムは手帳に数値を書き込んでいて、ゴードンの視線に気づいた。目が合った。フラムが手帳を閉じた。


「練習台なら後でいくらでも!!」

「いらん!」


 食堂に、束の間の平和が流れた。


 アルトはスプーンを置いた。


「ブラン」

「はい?」

「このシステム、誰が考えたんですか?」

「ミラベル様ですよ」

「……やっぱり」

「三ヶ月前から設計されていたそうです」

「三ヶ月前って、僕が勇者になる前じゃないですか!?」

「ええ、その通りですわ」

「……」

「何かほかにご質問は?」

「……。もう何も聞きたくないです、教えてもらえないんでしょ?」

「はい、守秘義務がありますので」


 ブランが手帳に何かを書き込んだ。静かに、丁寧に。


◇◆◇◆◇


「ふふふ、三ヶ月前の設計通りです」


 ミラベルが手帳を閉じた。表紙に書かれた日付は、アルトが勇者に認定される、四ヶ月前だった。


「アルト様がギルドに来る前から——全て、決まっていましたよ」


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