第5話「最強の盾は、僕を閉じ込めた」
翌朝、宿屋の前に一人の女が立っていた。
銀髪のポニーテール。全身を覆う重厚なフルプレートアーマー。身長はアルトより頭一つ高く、その体躯は鎧の上からでも明らかに鍛え抜かれていた。顔だけ見れば、凜とした美人だ。騎士物語から抜け出してきたような、そういう顔をしていた。
「聖騎士ヒルダ・ローゼンクロイツ。本日よりパーティに加わる」
低く、静かな声だった。アルトは少しだけ安堵した。まともそうだ、と思った。
「よろしくお願いします。えっと、得意なことは?」
「守ること」
「頼もしいですね」
「あなたを傷つけるものは全て排除する。敵も、味方も」
間があった。
「……味方も?」
「癒やす手間をかけさせない。それが私の流儀だ」
ヒルダが懐から取り出したのは、人が一人すっぽり入るサイズの金属製の箱——もとい、展開式のフルカバーシールドだった。
「入れ!」
「い、嫌です!」
「入れ!!」
「絶対嫌です!!!」
セレスティアが前に出た。
「何をするつもりですか?」
「アルトを守る」
「それは私の役目ですわ!」
「あなたでは守れていない。昨日、骨を何回折りましたか?」
「回復しました。問題ないでしょう?」
「いや、折った事実は消えない」
セレスティアの眉が、わずかに動いた。
フラムが横から口を挟んだ。
「箱に入れたらデータが取れない!」
「データなど知らん」
「知って!!」
「嫌だ!!」
リプレが箱を覗き込んだ。
「内部容積、一・二立方メートルっす。アーティファクト、四個は仕込めるっす」
「触るな」
「もう設計図書いたっす」
「すぐに消せ」
ヒルダがアルトを一瞥した。
「貴様、逃げ足だけは速いな」
「生存本能です」
「感心する。だが無駄だぞ」
「なぜですか?」
「私は騎士だ。騎士は守る対象を見失わない」
「守る対象が嫌がってても?」
「嫌がっているのは一時的なものだ。守られれば慣れるものだぞ!」
「慣れません!」
セレスティアがヒルダを横目で見た。
「守ることしか考えていない騎士は視野が狭いですね」
「癒やすことしか考えていない聖女よりはましだ」
「聖女の癒やしは完全です!」
「完全な癒やしが骨を十七回折るのか?」
「折ったのは私ではありません、折れたんです」
「詭弁だ!」
フラムが二人の間で手帳をめくった。
「骨折と再生の繰り返しで骨密度が三倍になっています。どちらの功績でもあります」
「「それは黙っていてください」」
セレスティアとヒルダが、初めて声を揃えた。
四人が睨み合った。アルトは全員から等距離の位置で、静かに後退を始めた。
「動くな、アルト」
「動くな、アルト様」
「動かないで、先輩」
「逃げないでください、アルト様」
四方を囲まれた。
ヒルダが箱を開いた。三人が同時にアルトへ手を伸ばした。争奪戦の結果、アルトは箱の中に三人分の手が届く絶妙な角度で押し込まれた。
隔離のつもりが、密度が上がっただけだった。
「これ、前より酷くないですか!?」
箱の中から声がした。四人は答えなかった。
◇◆◇◆◇
「専有面積の争奪、第一段階完了です」
ミラベルは窓口の引き出しから別の手帳を取り出した。表紙に「ヒルダ・ローゼンクロイツ」と書いてあった。中身はすでに、今後三ヶ月分の行動予測で埋まっていた。
「四人が揃いましたね。——ようやく、本番です」




