第3話「休息とは何か、僕は知らない」
宿屋の一室。冒険を終えたアルトが椅子に座った瞬間だった。
「お疲れ様です、アルト様。回復を」
「回復薬、用意してある」
「疲労回復アーティファクト、装着するっす」
三人が同時に動いた。
「無傷なんで大丈夫です!」
誰も止まらなかった。
「聖女が癒やします」
「薬師が癒やします」
「錬金術師が癒やすっす」
「全員癒やさなくていいです!」
セレスティアがリプレの手を払った。
「機械で癒やすなど、神への冒涜です」
「効率が悪いっす、どいてください」
「二人とも下がりなさい。私が——」
「あなたの薬、先週アルト様の胃を三回溶かしましたよね」
「あれは想定の範囲内ですわ」
「そんな想定するな!!」
三人の視線が交差した。火花が散った。
「じゃあ順番で」
「却下。データが連続していないと意味がない」
「神の癒やしに順番などありません」
アルトは静かに立ち上がり、出口へ向かった。
「逃げるんですか、アルト様」
「逃げません、散歩です」
「嘘ですね」
セレスティアに腕を掴まれた。フラムが反対側から肩を押さえた。リプレが後ろから工具ベルトを引っ張った。
「では同時に」
「「「異議なし」」」
三人の意見が初めて一致した瞬間だった。
セレスティアが右手からアルトの肩に触れた。聖光が流れ込んできた。
「まず関節を」
「関節は大丈夫です」
「ほぐします」
「ほぐさないでください」
ほぐされた。骨が鳴った。回復魔法が走った。
フラムが左腕に薬液を塗り込んだ。
「代謝を上げると回復が早くなります」
「回復するものがないんですが」
「これから作ります」
「作らないでください」
作られた。腕がじんじんした。回復魔法がまた走った。
リプレが背中にアーティファクトを貼り付けた。
「自動回復の補助っす」
「補助するものがないと言いましたよね」
「さっきフラムが作ったっす」
「連携しないでください!」
三人の手が、交互にアルトを行き来した。ほぐされるたびに回復し、回復するとまたほぐされた。骨が軋む音と聖光の音が交互に響いた。アルトの悲鳴だけが一定のリズムを刻んでいた。
十五分後、三人が満足そうに手を止めた。
気づいたらベッドに寝かされていた。体は軽い。尊厳は重い。
「よく眠れそうですね」
「データ良好っす」
「次は精神的疲労にもアプローチしましょう」
「それが一番の原因なんだよなぁ……」
呟きは誰にも届かなかった。
◇◆◇◆◇
「骨折と再生の同時進行、十七回。記録通りですね」
ミラベルは窓の外から手帳に書き込んだ。宿屋の部屋番号、処置の順番、所要時間——全て、事前に書かれた予定と一秒も違わなかった。
「次の段階へ、移りましょうか」




