第14話「魔王城が、癒やしパークになった」
ダルクが泣き止むまで、十分かかった。
その間、四人はアルトに追加の処置を施していた。ブランがスケジュールを管理し、ノワールがアルトの逃走を無言で防いだ。ゴードンはダルクに干し肉を差し出した。ダルクは受け取った。
「……お前は何者だ?」
「ゴードン。元傭兵だ」
「なぜ傷だらけなんだ」
「ヒールしてもらえんのだ」
「味方にか?」
「ああ、味方にだ」
「……私より不幸かもしれん」
二人が干し肉を食いながら、遠くを見た。アルトは複雑な気持ちになった。
その時だった。
余ったバフエネルギーが、暴走し始めた。
フラムが最初に気づいた。
「……あ」
「あ、じゃないです、何ですか」
「投与量の計算を、少し間違えました」
「少し?」
「三倍ほど」
「少しじゃないです!!」
聖光が壁に染み込み始めた。薬液が床を伝って石に吸収された。アーティファクトのエネルギーが空気中に拡散した。ヒルダの盾から余剰魔力が漏れ出した。
城全体が、白く光り始めた。
石壁が柔らかくなった。床が温かくなった。崩れかけていた天井が修復され、代わりに謎の草花が生え始めた。玉座が溶けて、大きな寝椅子に変わった。拷問部屋だったと思われる一角が、気づいたら温泉になっていた。
「何が起きてるんですか?」
「回復エネルギーが城の素材と反応しています」 フラムが手帳に書き込みながら言った。「建材の質が変性して、全体が癒やし効果を持ち始めています」
「止められますか!?」
「止め方がわかりません!!」
「わかってから、安全性を確かめてから、ヒトに投与してください!」
一時間後、魔王城は原形をとどめていなかった。
外壁は白く輝き、堀だった場所に花が咲き、尖塔から温かい湯気が立ち上っていた。内部は全室が柔らかい光に包まれ、どこに座っても疲労が回復した。元拷問部屋の温泉からは、かすかに聖光の湯煙が漂っていた。
ダルクが城を見渡した。長い沈黙の後、言った。
「……私の城が」
「申し訳ありません」
「癒やしパークになっているのだが……」
「……なっています」
「……悪くない」
「よかったですね」
「よくない!」 アルトが叫んだ。「よくないですよ魔王さん! あなたの城ですよ、ここ!」
ダルクが寝椅子に深く沈みながら、目を閉じた。
「三百年ぶりに、肩が軽い」
「それは、よかったですね」 セレスティアが穏やかに微笑んだ。
「魔王城に癒やしパークを作った聖女を褒めていいのか、俺は?」 ゴードンが呟いた。
ブランが手帳に書き込んだ。ノワールが出口を塞いだ。
アルトは温泉を見た。白い湯煙を見た。花の咲いた堀を見た。
「世界、救えましたか、これ?」
「魔王が無力化されましたので、救えたと思います」 ブランが答えた。
「城が癒やしパークになったことは?」
「所詮は誤差です」
「……たぶん誤差じゃないですよ」
◇◆◇◆◇
「癒やしパークへの転用ですか、想定内ですね」
ミラベルが手帳をめくった。魔王城の設計図があった。現在の姿と、ぴたりと一致していた。
「バフエネルギーの暴走も、建材の変性も——全て、計算の内ですよ、フラム様」




