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第13話「魔王が、泣いた」

 魔王城の玉座の間。


 魔王ダルクは玉座に座り、腕を組んでいた。身長二メートル半、漆黒の鎧、頭部に巨大な角。魔力だけで周囲の石床にひびが入っていた。何百年も生きた存在の重みが、空気を圧迫していた。


 扉が開いた。アルトが入ってきた。後ろに四人と双子とゴードンがいた。


「来たか、勇者よ」


 ダルクが立ち上がった。玉座がきしんだ。


「貴様を倒すために、私は三百年待った。この瞬間のために——」

「あの、一つ確認していいですか?」

「何だ?」

「戦う前に、僕のパーティを止める手段はありますか?」

「……は?」

「止められないなら、逃げた方がいいです。本当に……」


 ダルクが四人を見た。セレスティアが静かに祈りを始めていた。フラムがフラスコを並べていた。リプレがアーティファクトを展開していた。ヒルダが盾を構えていた。


「……あの者たちが、お前の味方か?」

「そうです」

「……何をするつもりだ」

「僕を守るつもりです」

「ほお、それは面白い。お前は今、五体満足で傷一つなく立っているが、どこまで私の魔力に耐えられるかな!?」

「関係ないんですよ、それが……」


 ダルクが三百年の貫禄で、魔力を解放した。城全体が震えた。石柱が崩れた。窓が吹き飛んだ。漆黒のオーラが膨れ上がり、天井を焦がした。


「食らえ、滅びの一撃——」


 四人が同時に動いた。


 聖光が障壁を展開し、薬液が空中で霧状に広がり、アーティファクトが三つ同時に起動し、盾が反射角を計算して構えられた。


 轟音。閃光。城の半分が消えた。


 煙が晴れた。


 アルトは無傷だった。ステータス画面には「防御力:99999」と表示されていた。上限に達していた。


 ダルクは玉座の残骸にもたれかかっていた。鎧にひびが入っていた。三百年生きた魔王が、初めて理解できないものを見る顔をしていた。


「……今の私の一撃は届いたよね?」

「心地よかったです」 アルトが答えた。「指圧みたいな感じでした」

「指圧!?」

「肩のあたりがほぐれました」

「…………」


 ダルクの目が、じわりと潤んだ。


「三百年だぞ!」

「はい」

「三百年、この一撃のために生きてきたんだぞ!!」

「それは、本当に申し訳ないと思います」

「すべてをかけた一撃を指圧、だと1?」


 ダルクが顔を覆った。肩が震えていた。魔王が、泣いていた。


 ゴードンが玉座の間の隅で、自分の傷を干し肉で塞ぎながら呟いた。


「……俺より不幸なやつがいた」

「……いましたね」


 アルトは素直にそう思った。


◇◆◇◆◇


「魔王ダルク様、三百年間お疲れ様でした」


 ミラベルが手帳を開いた。一番古いページは、三百年前の日付だった。そこには一行だけ書いてあった。


『魔王を配置。勇者が育つまで、待機させること』


「予定通りです」


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