第12話「僕は魔王城へ行くことにした」
朝の第一クールが終わった。昼の第二クールが終わった。夕方の第三クールが終わった。ステータス画面の防御力が、いつの間にか五桁になっていた。
アルトは夕食の席で、スプーンを置いた。
「ゴードンさん」
「何だ?」
「魔王城、知ってますか?」
「北の山脈の向こうだろ。今更なんで?」
「行こうと思います」
「……今から?」
「はい、今から」
ゴードンが酒を一口飲んだ。
「逃げるより、突っ込む方を選んだか?」
「もはや魔王の方が怖くないので!」
「正気か!?」
「はっはっは! とっくに失いましたよ!」
ゴードンが少し考えた。
「俺も行くか?」
「おお、囮になってもらえますか!?」
「行くのやめた」
「冗談です。来てください、お願いします。ずっと戦士が欲しいんです」
出発は夜明け前だった。全員に黙って抜け出すつもりだった。完璧な計画だった。
宿屋の扉を開けたら、四人と双子が揃って立っていた。
「どちらへ?」
「魔王城ですよね?」
「では参りましょう!」
「え、みなさん、止めないんですか!?」
セレスティアが澄んだ顔で言った。
「魔王を倒すのは勇者の使命です。止める理由がありません」
「でもそこには敵がいますよ、僕が傷つくかもしれませんよ」
「傷つく前に全て消します!」
「傷つく前に全て予防します!」
「傷つく前に全部防ぐっす!」
「傷つく前に隔離する!」
四人同時だった。
アルトは空を見上げた。夜明け前の空は暗く、星が出ていた。
「……魔王より味方の方が怖いな、と思って突撃を決意したんですが」
「光栄ですわ!!」
「ほ、褒めてないですよ!」
ゴードンが隣で静かに鎧を着込んでいた。
「俺も行っていいか?」
「問題ありません。ただゴードン様のケアは我々の担当外です」ブランが手帳を見ながら言った。「ただし囮としての活躍は期待しています」
「囮かよ!!!」
一行は夜明けと共に出発した。
魔王城まで三日の道のりを、四人は交代でアルトに処置を施しながら進んだ。ノワールが逃走経路を潰し続け、ブランがスケジュールを管理した。ゴードンは道中の魔物を一人で相手にしたが、誰にもヒールしてもらえなかった。
「薬草一枚くれ」
「想定外です」
「死にかけてるんだが?」
「アルト様のケアが最優先です!」
「せめて余ったやつを——」
「そもそも余りません」
ゴードンが自前の干し肉で傷口を塞いでいた。アルトは心から申し訳ないと思った。
◇◆◇◆◇
「自ら向かいましたね。誘導の手間が省けました」
ミラベルが手帳を開いた。「第十二項:自発的進軍」というページがあった。達成条件の欄に、小さく「絶望による自暴自棄」と書いてあった。
「——では、最終章へ参りましょうか」




