十三泊目♪ ふわふわイチゴが見え隠れ♪
「こんなでっかいトカゲに知り合いなんている訳ないでしょ!」
でっかいトカゲさんは四階建てのアパートと同じくらいに背が高い?
「いっしっし!
こいつは飛竜の類いだな!」
いっちゃんがとっても楽しそうに含み笑いをしていたり?
鋭い牙に鋭い鉤爪。
青い鱗に覆われて、腕の付け根から手首にかけて大きな皮膜が広がっている。
なんといっても獲物を狙う眼球が恐ろしい!
だけどなんだかちょっと涙目だったり?
牙が数本折れて少ないかも!
掃き掃除をしていた玄さんを襲ったはいいけれど?
気付かないままお掃除を続けるよぼよぼ玄さんの硬い甲羅であっさりバキッと!
何度も咬みついては刺さって折れました!
「飛竜!?
なによここ!?
どこよここ!?
夢でも見てるの!?
高層ビルと小道はどこ行った!?」
旅館、九十九は高層ビルに囲まれた都心のど真ん中にあるはずだけど?
久遠ちゃんたら気にするところがいまは違くない?
「うわあ♪ とっても絶景だね!」
「いっしっし!
いきなりとんでもないとこに出たな!」
「こんな風景はどんな外国でも見たことないです〜」
世界のあれこれを見てるセレブな先生でも知らない光景が広がってる!
天にも届きそうな高嶺が連なる稜線!
大海原のようにどこまでも広がっていそうな深々とした樹海!
切り立った高い崖の上に広がる大地に足を踏み締める四人の髪を強くなびかせる激しい風!
そんな光景を前にして?
とってもほんわりふわふわにこにこ♪
みんな現実逃避してるかも?
「空にこれでもかっていうくらいに島が浮いてるわ!
島から滝が流れ落ちてる!?
水源はどこよ!?
どう考えてもおかしいでしょ!」
頭を抱えてケモみみと狼しっぽをふりふり♪
「それはともかく久遠ちゃん?
わたしは今日限りでダブル女将を引退します。
旅館、九十九をよろしく!」
「陽和!? いきなりなにを!?
わふ!?
うっきゃあああああ!?」
大絶叫な久遠ちゃんの視線の先には!
巨大な鱗脚の先に鋭く伸びる大きな鉤爪にガシッと胴体をつかまれた陽和の姿が!
「あ〜れ〜」
まるで頭のゆるいプリンセスな悲鳴!
頭のゆるいはまるでじゃない?
ばさっと羽ばたく飛竜にさらわれて!
ぐんぐんどんどん上空に垂直上昇!
行き着く先は子竜のお腹の中だったり?
「陽和ちゃんが食べられちゃいます〜」
「さすがにまじいな! たぬき鍋はうまいかもだけどよ!
いっしっし!」
「なんてこと!?
どうしたらいいの!?」
やっと目の前の現実に気がついたときにはもう遅い?
誰も手の届くことのない上空へと舞い上がってる!
「みんな〜。バイバ〜イ。隠り世で待ってるよ〜」
「オシャ〜カサマを背負ってる!?
は!? 幻を見たわ!
自らの命を差し出すような悟り顔!?
あきらめるのが早すぎないかしら!?」
「みんなが無事でよかったよ!
わたしの犠牲の上に成り立つ人生を楽しんでね〜。
死ぬまでわたしのことを引きずって生きてね〜」
ゆりゅゆりゅ手を振る陽和のポーズは悟りを開いたお釈迦さま?
「明るい悟り顔して人の人生に暗い重しをのせるな!
なんとかして逃げなさいよ!」
「なんとか?
ん〜? 無理だっぽん?」
鋭い鉤爪の生える手指を広げようと力を込めて!
ぐいぐい押したり引っ張ったり!
ぽんぽこぽんぽこ!
グーチョキパーで叩いてみたり!
牙がほとんどないたぬきの白い歯でカジカジしてみたり!
うんともすんともびくともしない!
「痛いよ〜」
叩いた手と歯が痛くて涙がぐっすん♪
「陽和が連れていかれる!
どうにかしないと!」
ふわふわ宙に浮いてるオコジョないっちゃんとうさちゃんな夢楽ちゃん先生に振り返ってみても!
無駄飯ぐらいないっちゃんは役に立たなさそうだし?
ゆりゅゆりゅゆっさゆさ先生は癒やし担当な戦力外?
「わたしがなんとかしないと……だけど。
(わたしなら助けられる!
でも! わたしが正義の殺し屋だということがみんなにバレてしまうわ!
でもでも! 陽和を失うわけにはいかない!)
なによりもあの明るいあきらめ顔がゆるすぎて腹立つわ……
絶対に死なせないんだから!
我が手に来たれ! 魔狼銃!」
高々と青空に掲げる久遠ちゃんの手!
その手に握られたのは超々銃口の長〜いロングバレルなスナイパーライフル!
続いて宙に現れた弾丸を手にボルトアクション式の薬室にジャキンと装填!
狂風吹き荒れる中!
女子高生のプリーツスカートをはためかせて!
グリップを握りストックを肩に当て!
脇を締めてコームに頰付け!
魔導照準器に記された照準線からターゲットに視線を定めて照準合わせ!
「狙うとしたら急所。じゃないと落とせない……
だけど……」
陽和を後ろ脚の鉤爪に捕える飛竜は背中を向けて上空へと舞い上がる。
巨大な飛竜の急所となると?
心臓? 脳天? 肺?
急所を狙撃する位置関係がよろしくないかも?
でもそれでも!
久遠ちゃんの狙いは一つ!
「水平飛行に入った。
チャンスは一度きり。
一撃で仕留めるわ」
立射の姿勢で狙撃銃を構える姿が凛々しく!
ピンと伸びる狼の耳としっぽが威風堂々!
久遠ちゃんと魔狼銃が魔導の力で繋がって繊細な調整が冷たい機械のように!
瞳に多重魔法陣が構築されていく!
「弾道予測よし」
鋭く引き絞られたクールな瞳孔に!
遠く離れた飛竜への狙撃ポイントが透過するが如く輝いて!
久遠ちゃんの呼吸が深く吸い込まれて止まる息!
引き金をゆっくりと押し込むように!
そっと絞られた指先に残るトリガーの微細な反発を感じた瞬間。
ズガーンと放たれた弾丸が空を斬り裂く!
発射後も残心鋭く!
獲物を狙う狼の眼光が輝いて!
陽和のたぬき耳をかすめて!
飛竜の股の間を通り抜けた弾丸が鱗に覆われたのど元から頭蓋を貫く!
基礎的な呼吸法などの射撃技術。
風損や重力による影響に対処する技術。
狙撃には卓越した高度な技が要求されるのだ。
「排除よし。
長距離貫通弾の味はどうだったかしら?」
銃口を下ろしたときには!
絶命した飛竜の翼から力が失われて星の重力に吸い込まれていく!
「うわわわ〜!」
緩んだ鉤爪の拘束から解き放たれて放り出された陽和が宙を舞う!
「は!? 狙撃した後のことまで考えてなかった!?
去れよ!」
狙撃銃が手から消えて身軽になった久遠ちゃんが開放した獣人の脚力で疾走する!
でもそれでも!
久遠ちゃんたちがいる場所は切り立った高い崖の上。
陽和が落下する予測地点に到達できるわけはなくて!
高い上空から自由落下する陽和の髪と制服が激しく波打つ!
「陽和! 陽和!
地面に激突しちゃう!」
崖っぷちで叫ぶ久遠ちゃん。
瞳からポロポロ落ちる悲しい涙。
でもそれでも!
キラリと光るたぬきの瞳!
「あやかし変化! から傘オバケ!」
手のひらに現れた葉っぱを一枚頭にのせて!
ぼふんとくるんと宙を舞う!
「オバケ!?
ぶふっ!?
スカートが傘になった!?
イチゴに気をつけて!」
女子高生の心が首元までずり上がってふわふわイチゴが見え隠れ♪
まるで風鈴のような形にまん丸く膨らんだプリーツスカートで空をふわふわぷかぷか♪
なぜかスカートから生えているたぬきしっぽをプロペラのようにぐるぐるすると?
飛行船のようにゆっくりふわふわ帰還中!
「空を飛んでる!
ジャパニ〜ズモンスターの妖力ってそんなことできるの!?」
「うわあ♪ とってもバルーンなスカートです〜♪」
「いっしっし!
変化が得意なたぬきのあやかしだからな!
けっこうなんでもありだぜ!
飯綱の俺はいつでも飛べるけどよ!」
「ジャパニ〜ズたぬ〜きモンスター!
なかなか侮れないわね……」
「久遠。お前だって陽和のこと言えねぇよな!
鱗が硬い飛竜を遠距離射撃とはやるじゃねか!」
「そうね。いかにも硬そうだったけど、あご下の鱗は蛇と同じでそうでもなさそうだったわ。のど元から命中すれば硬い頭蓋も関係ないしね。射線に必要な角度が偶然にも良かったのよ」
真面目な内容と違って?
お顔が照れ照れもじもじ真っ赤になりながら謙遜してるけど?
実はとっても計算ずくなことだったり?
「お〜! ますます見直したぜ!
ただの豆柴じゃなかったんだな!」
「いっちゃん……
ジ〜〜〜ン!
心が感動するわ!
いっちゃんにほめてもらえてうれしいわ!
だけど誇り高い北欧の狼よ!」
「うわ! 抱きつくな!」
もふもふすりすり離しません!
「皆さん、とってもすごいです〜。
陽和ちゃんの無事を祝って先生のスイーツを食べませんか〜?」
ゆりゅゆりゅのんびり優しく拍手する夢楽ちゃんの背後に不気味な影が!
「まあちょっと待てよ。
そいつらを片付けてからな!」
「そいつらです〜?」
小首を傾げる夢楽ちゃんに迫る影!
「先生!? 逃げて!」
「心配ねぇよ」
着物の振袖から取り出した竹の筒をくるくる回しながら口元に構えるいっちゃん!
唇をそっと歌口(管楽器で息を吹き込む部分)に添えて、竹の筒に開いた六つの孔に滑らかに運ばれる指。
心にじんわり響く温かみのある音色がまるで風の音や水の流れと融け合うよう。
日本の伝統的な楽器で、神楽、国風歌舞、祭囃子などの雅楽でよく使われる。
篠笛と呼ばれる竹の筒で拵えた横笛だったり。
「綺麗な音色……」
「とっても素敵です〜」
流麗な調べと共に舞う赤いぽっくり下駄の淑やかな足運び♪
艶やかに舞う黄色地の正絹着物。施された和文様、鼬萩と千代萩の花鳥風月がとっても風雅♪
オコジョのケモみみとしっぽが音色に合わせて揺れ動く。
麗しく美しく神秘を感じるその面持ちに見惚れてしまうこと間違いなし♪
「いっちゃん……なんてかわいくて美しいの!
いますぐ抱きしめたい!」
「むはは〜! いつもの俺っ娘いっちゃんとは大違いだね! ぽん!」
大地に降り立ちながらぼふんと変化を解除してゴロゴロ!
両手を広げて着地は100点満点女子高生!
「陽和! 戻ってきたのね!」
「久遠ちゃんのおかげだよ!」
むぎゅっともふもふハグハグ♪
お返しにもきゅもきゅハグハグ♪
「もう! 心配させるんじゃないわよ!」
「えへへ〜♪」
「これでこいつらは片付いたぜ!」
「先生、大ピンチでした〜?」
ゆっさゆさ夢楽ちゃんはよく分かってなかったかも?
「いっちゃんはなにをしたの!?
あれってモンスターよね!
先生を襲うのをやめたわよ!?」




