素敵な人に
近藤先生から京へ行く許可をもらうために、先生の部屋にきていた。
「東堂くん」
その一言で背筋がぴん、と張る。
それくらい、先生にはオーラがある。
「覚悟はあるか」
春色の風が部屋の窓をすり抜けて、絶えず空気を入れ替える。
「刀を持って戦うというのは、どんなに高い志があったとしても、時には人殺しになる、汚れ仕事だ。
ましてや、君は女の子だ。
願えば結婚をして子供を産んで、安定した人生を送ることだってできるだろう。
だが、京へ行って戦うことを決めたのならはなしは別だ。
恋焦がれる気持ちさえ、隠し通さなければならなくなるかもしれない。
二度と、両親に会えないかもしれない。
それでも貫き通す覚悟はあるか?」
すぐには、答えられなかった。
想像がつかなかったのだ。
覚悟というのがどれほどのものなのか。
「しかし、やりがいのあるというのも事実だ。
これから先、時代は大きく動くだろう。
その中で、大切なものをその手で守れるのは、この世界の中で闘う者達だけ。」
守りたいと、思った。
私に居場所を与えてくれた、この場所を。
この手で、守りたいと思った。
「わたし、覚悟ができました。
正直、今ここで命を捧げろ、と言われてもできないかもしれないし、自分が死んでしまうかもしれないというのは、怖いです。
でもなによりも、自分の無力さに後悔だけはしたくないんです」
もう、二度と。
「よし、行ってきなさい」
緩やかに流れる時の中で、その一言は大きく響いた。
「最後まで自分が守り抜くと決めたものを守りなさい」
「はい」
僅かに、視界が滲む。
「そして……」
近藤先生と目が合う。
「立派な人にはならなくていい。
人のために全力を尽くせる、素敵な人になってください」
このときの、先生の力強さ、優しさ、しなやかさを、私は多分、一生忘れない。
例え、"今"を手放す時が来たとしても。




