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3 主を得た無情の喜びを

精霊達side

きりきりと身体のあちらこちらが痛んだ。実体のない身なれど、それでも痛覚は他の種族同様にある。


〈見つかったか?〉


「いや。【インダリスス】には居らんのかもしれん〉


〈【ピリカルエ】にも姿は無かったわ〉


〈そうか……〉


〈【ミンリール】はどうだった?〉


〈見たがいないようだった〉


彼らは【イナーシュ】に戻っては情報を交わし、暫しの休息を取るとまた痛む身を押して【イナーシュ】を抜け出る。男声が3色に女声1色。声の主4体も分かってはいる。自力で己の世界から他の世界へ渡ることが精神的にも身体的にも負担になることを。【イナーシュ】とその他の世界。その間を行き来するには創造神たる男神のいる「神の間」を通らねばならず、本来生きとし生けるものが存在することが叶わないその「神の間」に身を存在させるには死亡するしかない。彼らが「神の間」を通ることが出来ているのは、ひとえに【イナーシュ】での彼らの種族において、その膨大という言葉では表せない程に身に宿している魔力の多さ、そしてそれを犠牲にしているからである。

【イナーシュ】から「神の間」に出て来る度に、精神と身体には重圧が掛かり、それこそゲームによく見るHPゲージが減るように高い体力と魔力が減っていく。【イナーシュ】に戻れば回復していく為、彼らは体力と魔力を8割を失っては自分達の世界へと戻ることを繰り返していた。






〈居た……居た、見つけた……っ!〉


その歓喜を口にしたのは、男声のどの声だったか。自分達の主君を探し始めて数千年。その世界は彼らが優先して探していた魔力ある世界とは程遠い、魔力が全く存在しない世界。魔力そのものともいえる彼らの種族は、魔力が全く無いその世界に立ち入ることは出来ない。それ故にずっと捜索を後回しにしてきた世界だった。


第32の世界、【地球】。


それがその世界の名称。魔力魔法の類は一切なく、科学と呼ばれる技術が発展した世界。職種に娯楽も多種多様に存在し、【地球】や他の世界を探してきた彼らの種族は空想のものとして存在し、その他【イナーシュ】に存在るドラゴンを始めとする竜種、龍人、獣人、帝国に王国といった君主制度も架空のものでしかない。エルフや魔族といった長命種も然りだ。精々100年ほどしか生きられないその【地球】に、彼らが唯一と希う主君の姿を見つけた彼は、歓喜の声を上げ他の3人を呼んだ。そうしてそれから数えるのも億劫になる程の、主君を希う嘆願を創造神へと願うことになる。






「せめて、彼女が【地球】での人生を全うするまで待て」


そんな男神の苦言に彼らは切々とした心情をぶちまける。待てない、待てるはずがない。彼らは魔力を糧に生き、自らの力とする。魔力さえあれば消滅(死亡)することはない。もちろん魔力を全て奪われでもすれば消滅するが、現時点での彼らの魔力量は楽に奪い切れるような柔なものではない。彼らは【イナーシュ】で既に数千年の時を生きているのだ。【地球】は時間経過の速度が実に良く似ていた。1年360日、1日24時間。呼び方こそ違えど【イナーシュ】も同じ時間が流れる。長い長い時を経て、そうして【地球】で伊織が誕生した日。彼らは確かに感じたのだ、自らの全てを捧げ忠誠を尽くすに相応しい主君(伊織)が生を受けたことを。それから更に20年余。漸く見つけた主君を目の前に、諦めることなど爪の欠片程もなかった彼らは億、兆もの懇願嘆願を男神にこいねがい……そして神を折れさせた。




「余命有る彼女の【地球】での生を奪い【イナーシュ】へ招く……その願いの代償をお前達は受けねばならぬ。真摯に受け止め、然るべきその時が来るまで(ごう)を背負え」


【イナーシュ】に強制送還され、同時に頭に直接届いた男神の艱苦の声音。代償。ごう。その単語の意味を理解した瞬間、彼らは自らの力が強制的に失われていく脱力感に襲われた。そして長年掛けて成長してきた姿への、手足への違和感。


〈ああ、そんな〉


〈これが対価だというのか……〉


大人の、壮年の形容だった彼らの容姿は、青少年と称される15、16歳ほどまで退化していた。手足の違和感はその歳相応の長さまで縮む最中の感覚だったのだ。半ば茫然しながらもステータスを確認すれば、全ての値が半減、もしくは半減に近い数値まで下がっていた上、『状態異常』の欄には『代償/ステータス値半減』と表記されているではないか。

まあ、それでも彼らのステータスが平均しても総じて高いのは、その種族において彼らが最上位に席を置いているからだ。下位、中位、上位、最上位とある中でステータスが半減しても、彼らは中位でも上に存在していた。


そんな打ち拉がれた空気は次の瞬間霧散する。4人一様にばっと顔をある方角一方へ向けると、人の形から球体へ戻り音速もかくやという速さで飛んで行った。



***



彼らがその音速を止めたのは、彼らがいた場所から国境を越えた辺境の地。イグリラの街の近くに在る浅い森だった。人族を始めとする冒険者達には初心者向けといわれているこの森はイードルと呼ばれているらしい。が、そんなことは彼らにはどうでもいい。主君の気配がこの森にある、それだけがこのイードルの森に滞在する唯一の理由なのだから。


そんな初心者向けといわれる浅い森ゆえに、彼らが自分達の主君にと希う伊織を見つけるのも早かった。


〈ああっ!ああ、主様っ〉


〈漸くお会いできた……!〉


〈なんて可愛らしい〉


〈もはや片時も離れませぬ、我らが主よ〉


幾星霜の年月をかけて漸く自分達の元へ来た主人と認める幼子、伊織に次々に声をかける。そうしてその場に留まり、すやすやと深い眠りについている伊織が寒くないよう風を操り、魔物がーーとはいってもゴブリンやスライム程度だがーー来れば倒し消滅させていた。


退化させられていても四大精霊の彼らである。スライム程度の魔物が敵となるはずもなく、いかに自分達の主が心地良く眠れるかだけを考え動いていた。

もしここに精霊を見ることができるエルフがいたなら、さぞかし驚いていただろう。本来四大精霊は同じ場所に集まることとどころか、姿を見せないことで有名なのだから。




伊織がイードルの森に現れたのは早朝。そして、養い親となるAランク冒険者ハリスと伊織が出会うのは真昼を2、3時間過ぎた頃となる。


彼の登場により目を覚ました伊織の無垢な笑顔に、自分達は元よりハリスも陥落。自分達だけでは伊織を養えないと理解していることもあり、精霊達はイグリラへ帰るハリスと腕に抱かれている主に着いていったのだった。

数え易くするため、一部変更。


1年365日→360日


1ヶ月30日固定に変更、1年12ヶ月です

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