↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SINJÜ  作者: 平乃ひら
怪獣『出目金』と遭遇すること
PR
14/23

怪獣『出目金』と遭遇すること5

 ――その生命体はこの世界の生命体とは異なる存在。生物であることに違いはないが、祖となる個体を異とする生命の螺旋に連ならないモノ。魔力による情報体だが、有機物を主とするのは同じ。疑似生命。魂魄が濁っている。心臓は無く血管もない。その目は光を捉える器官ではなく、魔力と『同族』を認識するためのもの。感情は読めない。感情はあるのか。意思も読めない。そもそも思考回路が既存生命体とまるで違う。デザインされた何か。




 ――はっと、意識を取り戻す。

 パン、と目の前で出目金が弾けていた。

「え、え、え?」

 伸ばしていた指を引っ込めて、美穂は戸惑う。何が起きたのか分からない。今自分は何かをしようとして、そして何を知ろうとしたのか。自分が取った一連の行動について自分自身で理解が及ばないのだ。そうなるともう混乱する以外にできることがない。

「美穂、大丈夫なの!」

「ほ、穂花……あ、えっと、だいじょ、ぶ……?」

 何がどうしてどうなったのかを思い出そうとするも、急ブレーキによって身体が前に押し出されて運転席の背に鼻をぶつける。

「っつあ~!」

「おっさんくさ……」

「座席下に上下逆さまになって古典的なコケ方してる穂花にだけは言われたくないんだけど」

「や、これ不可抗力だから」

「こっちも不可抗力だからね?」

「へい! 入り口に着いたぜ! あそこまで走れ走れ走れ!」

 運転手が初めてこちらに顔を見せる。

「目がめっちゃキラキラしてるごっつい日焼けのおっさんが出てきた!」

「すっげー目がキラキラしてて受ける。え、何、コンタクト? どこで売ってんの? ウケる」

「はいはい女子高生トークはいいから走って走れ! 死にたくなければな!」

 確かにあまり冗談を言っている場合ではない。

 オフィス街中心――からはだいぶ離れているようで、どちらかといえば周囲はマンションや一軒家が多い。その中で異質とも言えるオフィスビルがあり、そこの出入り口から幾人もの人が出てくる。どう見てもただの社会人然としたスーツ姿の人達だが、誰も彼もが訓練された動きで全く淀みがない。

 車を出ようとしながらもモタモタしている二人に、彼らがすかさずドアを開いて彼女達の腕を掴んで引っ張り出す。

「さぁビルの中へ!」

「あ、うん」

 腕が痛いと文句を言う隙も無い。そうしている間にも数々の出目金が沸いて出てくるのが見える。住宅の壁から、空から、果ては地面からだ。

「……!」

 微かに眩むような感覚に、美穂は頭を振る。

 走り出そうとした足下、その地面から出目金の目が覗いている。

「うおおおおおおうう!」

 踏みそうになるところを堪えてさらに足を前へ、またぐようにして触れるのを回避する。

「神回避!」

「えらいわー!」

「でしょー!」

 そして彼女達と駆け寄ってくるアマテラスの職員達が交差しようとした瞬間――美穂がたった一度の瞬きをした後、まるで景色をそっくり入れ替えたように、魔術というよりかはマジックかのような奇妙な印象を残し、景色の全てが出目金で埋まった。

「――は?」

 アマテラスという組織のビル入り口だけがぽっかりと開いているのが、まるで口の中のようで、つまり自分達は巨大な出目金達という一匹の怪物、その口の中にいるということになる。

「なんっ――」

 当たり前といえば当たり前だが、穂花すら状況が飲み込めずに混乱する。口の中。喰われるイメージ。なのに無数に見つめてくる出目金の両目。何もかもが現実的ではなく、ここは一種の地獄なのかもしれない。生物は全て喰われる可能性があり、実際のところ、ほとんどの生き物は喰われて終わる。死ぬ前にも、死した後にも、大小問わず何かしらの生物に喰われて朽ちるのが生命体であり、肉体だ。ただ、その順番が今この時回ってきたに過ぎない。

(終わった)

 さすがにこれは無理だ。

 美穂ですら理解してしまう。どうやって現れているのかも分からないのに、既に口の中にいるというのだ。ここからどうやっても逆転の一手は無い。触れると泡になるだろうか。触れるだけでは駄目だろう。理解しきれるというのだろうか。これだけの数を理解し尽くすには時間が足りない。何しろ上下の出目金達は急速に口の中を閉じようとしているのだ。

 巻き込まれたアマテラスの職員達、その中には魔術師もいるし、先ほどのドライバーもいる。全員が混乱する中で魔術を使って強引に穴を開けようとするが、しかしすぐにその穴は別の出目金が冗談染みたようにポンと現れて埋めてしまうのだ。

 それでも魔術師達は理性を失っていない。彼らは基本的にどの条件下であろうとまず理性を、考えを止めることはない。幼少より家族からそうやって教えられており、魔術師という世界中でも希少な存在が生き残る術の一つだったのだろう。

 だから彼らは魔術を唱える。もう終わりだと理解しながら、その理解を乗り越えて、それでも考える。魔術を合わせればどうにかなる。全員が一つの魔術を使えばより巨大な穴を開けることができる。一瞬だが、閉じる瞬間を狙えば出目金の出現する速度を明らかに上回り、そして全員がその穴から脱出できる。

 ――そこまでは考えていた。

 問題は一つ。ただただ時間が足りないということだ。

 ただ魔術を構成するだけならそこまで時間は要らないが、この場にいる数名の意識を共有し一つの魔術を構築、さらに息を合わせて魔術を使うというのは非常に難易度が高い。せめて数分の時間があればどうにでもなるかもしれないが、あと数秒の時間も無い。

「……!」

 美穂が前に出て、とにかく上から迫ってくる出目金の一匹を掴もうとする。少しでも消すには触れて瞬時に理解すべきだ。潰れてくる速度を超えて理解し、泡にすれば生き残れるかもしれない。

「美穂!」

「……やるしかないじゃん!」

 潰されそうになる前に、美穂の指が出目金に触れる。

 パン、という音と共にその出目金が破裂し、泡となった。

 数名の魔術師の内、二人ぐらいが美穂に目を向ける。

 美穂は次々と出目金に触れ、理解し、理解し尽くされたその異様な生命体は泡となっていく。凄まじい速度による処理を科せられた脳味噌は瞬時にヒートアップするが、それでも彼女は止めなかった。

 鼻血が噴き出す。それでも止めない。腕と足が鈍い音を立てて激痛が走る。それでも理解する。目が充血する。構うものか。ここで止まったら全員が死ぬ。死ぬぐらいなら抵抗し尽くしてみせる。死にたくないなんて当たり前だ。だから必死に生き残ってやる!

 小此木美穂がその存在全てを使って『解析』することに全神経を使う。体力も何もかも燃やして出目金達を泡へと変えていく。

 それでも、それでもだ。絶望的なことにそれでも。

 僅かにだが、出目金が沸いてくる速度のほうが早かった。

 そのことすらも美穂はすぐに理解していた。こうして抵抗している時間は余りにも無駄で、ただ迫る死を僅かに回避しているに過ぎない。

「でもぉ!」

 単に殺されるほうが――死ぬ方が――

 ――死ぬ?

 なぜ死ぬのが嫌だと思う? どうして死を嫌だと知っている?

(……? 何、なんか、変な……あっ、やばっ……)

 一瞬、意識が途切れそうになった。

 単純にもう限界なのだ。彼女の脳は焼き切れる寸前で、彼女が解析に使う『魔力』もほとんど残っていない。

 つまり予定調和通りに死がやってくる。


「なに? 急にハードモードじゃ~ん!」


 ガン、と鼓膜を破りそうな程に強烈な電撃が出目金達全体に奔り抜けていった。

「……なっ……」

 ドライバーの男が唖然として口を開く。

 それもそうだ。

 今まで美穂だけが抵抗し、他の人間は軒並み出目金に押し潰されようとしていた寸前だったというのに、その出目金が全て焼かれて朽ちているのだから。

「な、ん……?」

 何が起こったのか。

 美穂による『解析』によって泡と化したのでは無い。これはもっと巨大な、途方もなく強大な力による一撃で全てが燃やされたのだ。

「はーん、こんなヘンテコなのに苦労してたの~? アマテラスって精鋭揃いって聞いてたんだけどぉ~」

「やめなさいって、夜夢。そもそもこういう事態を見越して私達が来たんですよ」

 二人の、それこそ美穂と穂花、二人と同世代と思しき少女達が灰となって散りゆく出目金の残骸の中をゆっくりと歩いてくる。

「うっそだろ……マジかよ……」

 ドライバーがぼやく。

「うっそだろ魔術協会! あンの連中め、A級を送ってきやがった! 浪木夜夢……! マジモンの怪物だ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。