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7 司教への誘惑

その部屋は、見た目以上に小さかった。

熱意と無気力が、妙に噛み合わない空気が漂う。


諦めきった目のリンが、嫌そうに口火を切った。


「で。合意っていうのは合ってるのか?」


「合っています。私は自らの意思で動いているわ」


きっぱりと少女が言い切った。


「…よし、帰ろう」


「解決、解決」


その言葉にリンは回れ右をし、ガイはぱちぱちと拍手で幕引きを図る。

が、背後から伸ばされたカトリーナの手が、二人を引き留める。


「待てぃ」


「合意なら、二人の趣味に口を出すのはお門違いだろうが」


「そうだよ、どんな形でも受け入れて応援してあげなよ」


三人は額を付き合わせて、ひそひそと声を潜める。

カトリーナは無言でリンとガイの頭を鷲掴むと、勢いよく二人の頭を突き合わせた。


ごっ、という鈍い音と共に二人が額を押さえる。


「強制的に頭突きさせんの、やめろ!」


「マジでリン石頭なんだから、やめてよ!」


「お黙り!分かってるのに見て見ぬふりして、帰ろうとするな」


仁王立ちのカトリーナに、リンとガイは舌打ちをした。


「本人の証言を尊重してぇ」


「そうだよ。なんか変に正義感に満ちてるし、本人がそれで良いなら放っておこうよ」


全くやる気のない二人に、カトリーナのため息が落ちた。


「そのまま受け取ってないくせに…。面倒くさくなってるだけでしょうが」


「めんどくせぇもん」


「関わりたくない」


目をそらしたまま、正直に自己申告する二人に、カトリーナが首を振る。


「分かった」


「分かってくれたか!」


「この件が片付いたら『琥珀の雫亭』で、奢ってあげる」


リンとガイの目が、一瞬で輝きを取り戻した。

リンはくるりと少女に向き直り、ガイが優しく肩に手をのせた。


「あんたが、意欲的なのは分かったけど、気持ちがついていってないぜ?」


「そうだよ、涙目だったじゃん」


肩に手を置かれた少女の目が僅かに揺れた。


「余計な口出しは止めなさい」


しかし、厳かな司教が、ならず者を諭すように静かに二人を制止する。


「あんたも、そうだぜ?」


リンの目が、すっと細まった。

唇が皮肉げに持ち上がり、司教の目をまっすぐに捉える。


雰囲気の変わったリンに司教の片眉が上がる。


「あんたの好みのドストライクを紹介しに来たんだよ、俺たちは」


わざとゆっくりと聞かせるような口調だった。

隣に立つガイが、まるで聖職者のような笑みを浮かべ頷いた。


「もっと、本格的なお姉さんの方が興奮するんじゃない?」


「……ほう?」


司教の目が興味深げに細められた。

同時にそれは二人を試すような色を含んでいる。


興味を引けただけでも上出来だ。

リンとガイが畳み掛ける。


「こんな大根役者のごっこ遊びじゃなくてさ?」


「もっと高慢で、もっと容赦ない人の方がいいんじゃない?」


二人の誘惑にあからさまに食いつくような真似はしなかったが、司教は少し考える素振りを見せる。


そして、全く邪気のない清らかな笑顔を少女に向けた。


「君は、戻りなさい」


「ですが!」


「大丈夫です。君に落ち度はありませんでした」


優しく諭す司教に、少女が小さく頷く。

そして渋々とスカートの裾を持ち上げ一礼する。


「失礼します」


パタンと扉の閉まる音が響き、部屋には奇妙な緊張感を持った四人が残された。


司教がカトリーナに微笑みかけた。


「カトリーナが彼らを呼んだんだね?」


黙って頷く。


「友人想いなのが君の良いところだ。三人とも、掛けなさい」


自分の変態的な嗜好を目撃された男とは思えない完璧な聖職者が、そこにいた。


「…図太てぇな」


「何かを見間違えたのかと思っちゃうよね」


司教の隣にカトリーナが座り、向かい合うように置かれた椅子にリンとガイが腰を下ろす。


「さて、先ほどの話だが…」


「あんたが、話を戻してくれて助かるよ」


「ほんとにね。夢でも見てたのかと思っちゃったよ」


司教が切り出したことで、リンとガイが安心したように息を吐いた。


「あたしは夢であってほしかった…」


カトリーナは苦虫を噛み潰したような顔でため息をつく。


「君が呼んだんだろうに」


司教の生ぬるい目が余計にカトリーナをいたたまれなくさせた。


「で。先ほどの話だが、端的に言うと私がこの神殿を抜け出すのは難しいが、それでも紹介できるのかね?」


「理由は?」


「外出は控えていてね」


「…へぇ?」


司教の目とリンの目が同じような弧を描く。


ガイがそっと息を吐いた。


——面倒な話になった。



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