5 チンピラの懺悔と神殿の隠し通路
王都の喧騒が、嘘のように遠のく場所がある。
貴族街の端にある古代神殿だ。千年物の石と、やけに静かな空気が張りついている。
神殿に着くとカトリーナは、入り口で年配の修道女に呼び止められた。
「カトリーナ!また、抜け出したのね。祈りの日は一日神殿にいなさいと、あれほど…」
「ごめん、シスター。こいつらがどうしても懺悔したいっていうから迎えにいってたの」
リンとガイを指差すと、シスターは二人を見つめて慈悲深く頷いた。
「あら、そうなのね。お若いゆえの後悔もあるでしょう。でも、心から悔い改めればきっと許されますよ」
「…ババァ、俺たちの顔を見るなり疑いもせずに後ろ暗い奴だと断定しやがったよ」
「ひどい話だね、俺たちこんなに善人なのに」
シスターの言葉に小声で文句を付ける二人の鳩尾を、即座にカトリーナの肘が抉る。
「…口を閉じろ!」
ぐっというこもった声で腹を押さえ、頭を垂れた二人は、シスターの目に反省に項垂れた若者のように映った。
「あらあら、大丈夫よ。そんなに畏まらないで。きちんと反省していらっしゃいな」
「ありがとう、シスター。もう行くわね」
カトリーナは二人を引きずるように、中へ入っていく。
「何なんだよ、懺悔って。他にあるだろ、言い方」
「一番、しっくり来るじゃない」
「カトリーナの中の俺たちって、なに?チンピラなの?」
小悪党設定に納得いかないリンとガイの不満を、さらりと聞き流し、カトリーナは神殿を進んでいく。
「カトリーナ、どこにいってたの?」
「また、抜け出したのね。ダメじゃないカトリーナ」
すれ違う治療士たちが親しげに笑いかける。平民もいれば、貴族もいる。
けれど、その間に壁はない。
「カトリーナの立ち位置が、悪ガキすぎるだろ」
「普段のお行儀が透けて見えるね」
「リン、ガイ。うるさいよ」
素直な感想をこぼす二人を、言葉少なに黙らせて、カトリーナは治療士たちに朗らかな笑顔で答える。
「ごめん、このチンピラどもの反省会の手伝いを頼まれてさ」
人の良さそうな治療士達は、疑うこともなく、入り口のシスターと同じような顔で、カトリーナの言葉を受け入れる。
「自らを省みて、ちゃんと反省すればやり直せるわ」
「きちんと、懺悔なされば大丈夫よ」
ここまで疑われないと逆に清々しい。
ようやくリンとガイは諦めた。
「ハンセイしまーす」
「悔い改めマース」
口々に慈愛に満ちた言葉で励まされた二人は、カトリーナに連れられて、懺悔室までたどり着く。
「治療士って、全員あんなか?」
「あんなって。何よ?」
「お人好しって感じ。聖女って言われるの、分かるよ」
カトリーナは肩をすくめた。
「人それぞれでしょ。ここはああいう子が多いけど」
狭い懺悔室に置かれた椅子にリンが腰を下ろす。
「身分差もフランクだったな」
「司教の指導ね」
一人用の狭い懺悔室だ。距離も近い。
椅子に座ったリンの背後にぴったりくっついたガイが、首をかしげた。
「意外。変態の立ち位置もよく分かんないね?」
「…だから、根はちゃんとした人なんだって」
カトリーナは黒い布で仕切られた奥に入る。
聖職者用の椅子に座る気配がした。
「顔が見えないと感情って分かりにくい…」
「俺らには見せたくねぇ顔してんだろ」
カトリーナの複雑な心境を表すような声に、リンとガイは布切れ一枚も通らないような声で囁きあった。
「で、どうすんだ? 司教説得しに行くか?」
切り替えるように、リンが布の向こうに話しかけた。
少しだけ布が揺れて、「こっち」というカトリーナの声が聞こえた。
布を捲り聖職者用の出入口を抜けると、神殿内の聖域と呼ばれる場所に繋がる廊下に出る。
「ここから先は部外者立ち入り禁止だから、見つからないようにして」
短くカトリーナが呟くと、リンとガイは黙って頷いた。
カトリーナが選ぶのは、秘密めいた通路ばかりだった。
リンが訝しげに眉を寄せた。リンのわずかな気配にガイが気付く。
「どうしたの?」
「…隠し通路か?」
「正解」
カトリーナの目が楽しそうに細められた。
「古代神殿をそのまま使ってるから、変な仕掛けが多いのよ」
「それを使って、昼寝の場所をさがしてるわけか」
「あー…。それで、司教の秘密を見ちゃったんだ」
リンとガイの推測が正しいことを示すように、カトリーナは沈黙した。
「…あれは、失敗だったわ」
「まぁ、お陰でオトモダチの被害にも気がついたわけだろ?」
「結果オーライに持ち込んで、忘れようよ。ね?」
かわいい弟分たちの適当な慰めが、妙にカトリーナの心に染みた。




