表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3 聖女と司教と個人の趣味

手元のグラスで、氷がからりと音を立てる。

賑やかな店のなかで、そこだけが静かだった。


「あたしら治療魔法士にとっての神殿って、単純に魔力を充電するだけの場所なんだよね」


「それ、俺たちが聞いていいやつか?」


カトリーナは意味深に笑う。


「どうかな?」


「…わぁ。聞いちゃったよ」


巻き込む気満々のカトリーナの目が楽しげに細められる。


「正直、あの場所にいるだけで良いの」


リンが、面倒くさそうに相槌をうつ。


「つまり?」


「別に祈りなんて必要ないってこと。あたし、いつも昼寝してるし」


二人は無言でグラスに口をつけた。


「…『神殿のパフォーマンス』ってそういうことか」


「そ。聖女達は祈りで神から祝福を受けてるっていう、『設定』ね」


「聞きたくなかったなぁ」


カトリーナは肩をすくめた。


「大体『神聖』なものって、そんなもんよ」


「でも、別に嫌なものってソレじゃねぇんだろ?」


カトリーナは、淡々と続けた。


「まあね。それは大したことじゃないの…」


「…言いにくいんだ?珍しいね」


細い指先がグラスの縁をなぞる。

基本的に何でもはっきりする質のカトリーナが迷っている。ガイは、その珍しさにきょんと首をかしげる。


「言うようになったじゃない?」


残ったグラスの水を飲み干して、カトリーナは小さいがはっきりとした声で告げた。


「神殿の隠し扉の向こうで、司教が聖女に頭を踏まれて喜んでたんだよね」


店は、相変わらず賑やかだ。

アリーとベスは繁盛する店のなかを忙しく動き回っている。


リンとガイの手が止まった。


「…だれの何が?」

「司教の頭が」


「…何をされて?」

「聖女に踏みつけられて」


「…どうしてたって?」

「…喜んでた」


情報が脳に到達したとたん、リンとガイがテーブルに突っ伏した。


「…マジで、勘弁してくれよ」


「聖なるお姉さんのイメージが!!」


カトリーナに明かされた事実の受け入れを、心が全力で拒絶する。


「あたしも、どうしたもんかと思ってさぁ」


「クビにしちまえ、そんな変態」


「もう、それで解決じゃん」


二人の投げやりな解決案にカトリーナがゆるゆると首を振った。


「だけど、信仰にはあの人が必要なの」


「変態が?」


「まぁ…そこは置いといて、信仰の構造を作るのがうまいの」


空になったグラスを手のなかで弄びながら、カトリーナが真剣な声で呟く。


「少なくとも、あの人の作った『神殿の聖女』を必要とする人が沢山いる。…それが偽りでも、よ」


カトリーナは嫌なものと言ったが、それは「嫌なもの」というより「困ったもの」なのだろう。


「あー。変な性癖のイイ人ってわけか」


「その辺、個人の趣味の範囲だもんね」


カトリーナは天井を見上げて、ため息をついた。


「でもさ。戸惑いながらハゲ頭を踏まされてる聖女も可哀想でさぁ」


「合意がねぇなら、セクハラだ」


「聖女って真面目だね」


三者三様にため息をついた。


「で? それ、俺たちにどうしろって話?」


「ちょっと、手伝ってほしいのよね」


「今日、俺たちオフ」


「レオンの酒、飲んだことチクるよ?」


「…汚ねぇ」


「カトリーナが言い出したのに!」


——こうして、二人のオフはあっさり潰された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ