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10 無邪気な乱暴者たち

闇に紛れる馬車の中には、奇妙な沈黙が落ちていた。

月明かりのない夜は、少し先を見通すこともできない。


「月のない日って、本当に暗殺日和だよね」


「違いねぇ。やる側ならな」


御者席でリンとガイが軽口を叩きながら馬車を走らせている。

目的地がどこなのかは明かされていないが、民間人に見つからないように、配慮はされているようだ。


ヴァレリウスは先ほどの光景を忘れることができず、目を閉じて思案している。

あれほどの「化け物」を飼いならすヴァランシエール侯爵家との付き合い方を、改めて考え直しているのだ。


「なあ、おっさん。あんたの『お客さん』って身元は割れてんのか?」


不意にかけられた声に、ヴァレリウスの思考が中断される。


「いや、心当たりが多すぎるものでな」


「なまぐさーい」


からからと軽いガイの声は、深刻さや切実さとは無縁のものだ。

こちらは命を狙われているというのに、実に気楽な調子だ。


「ふぅん。一応、生け捕るけど、それだけでいいな?」


「生け捕りできるなら、それに越したことはないな」


「あ、リン。そろそろ来るよ?」


声の調子だけがひたすら軽い。

「何が」とは口にしない。

リンが唇を舐める。


「お、意外と簡単に引っかかったな」


それだけ相手にも自信があるということだと思うのだが、リンとガイにとってはそうではないらしい。

手間が省けたとばかりに、にんまりと笑った。


「おっさん、中でちゃんと伏せとけよ、ハゲてんだから」


「頭の防御力、ゼロだからね!」


全く持って失礼な小僧どもだ。

徐々に、内心の言葉が乱暴になっていることに気が付き、ヴァレリウスは顔をしかめる。

しかし、今は後回しだ。


頭を下げて、身をかばった瞬間に馬車の上で鈍い音がした。


御者席で手綱をリンに預けたガイが、馬車の天井に駆け上がる。

音はしたが、ヴァレリウスにはそれが何だったのか分からなかった。


しばらくして、馬車がゆっくりと速度を落とし、ぴたりと止まった。


「お待たせ、終わったぜ?」


扉を開けたリンが、手を差し出した。

少し間をおいて、ヴァレリウスはその手を制した。


「…いらん」


「わぁ!さっきのを根に持ってるよ!!」


楽しそうな声のする方を見れば、ガイの足元に荒縄で数人の男たちがぐるぐる巻きにされて転がっていた。

ヴァレリウスの物騒な記憶では、このように簡単に捕まるような賊では無かったはずなのだが、言ってもしょうがない。


諦めに似たため息をつく。


「馬車の天井、トリモチ仕様にしてやったからな」


「阻害もかけたし。気付かずベッタリでさ、最高だったよ」


「命がけの任務にあたっている人たちの、尊厳を踏みにじるような悪質ないたずらはやめなさい」


どうしようもなく憐れになり、思わず心から同情してしまう。


「でたよ、聖職者の偽善!」


「もはや、高みにいる存在の傲慢さだよねぇ」


楽しみに水を差されたような顔をする二人に、もはや相手の味方をしたくなるのをぐっと堪え、捉えられた男たちを見る。


「このまま尋問してもいいんだけど、先にあんたの『お楽しみ』を片付けてぇから、ちょっと寝ててもらうぜ」


「このくらいだったら、魔法とかいらないしね」


首筋に手刀を当てて順番に気絶させていった。


「…あれだな。乱暴な振る舞いというのは『乱暴に行ってもらう』ことも大事なんだな」


思わず口にした言葉に、リンとガイが「なにいってんだ、こいつ」という顔をした。


ヴァレリウスは誰とも共有できない、おそらく一般的な気持ちを持て余すのだった。


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