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第一話「フラグ村の日常」

※ネタバレが激しすぎるRPGにインスパイアを受けて作った作品です

※作中にとてもわかりやすいネタ表現が含まれていますので、ご注意ください

※必死に矯正しようとするAIと戦いながら作っています


「いよいよショキューシャ・ダンジョンのボス戦ね」


「なぁ、ミエル。俺、この戦いが終わったら……お前に伝えたいことがあるんだ」


「えっ」


どきっ。


私は恐る恐る鑑定魔法を使った。恐れたとおりだった。オレコノーガの頭上に【死亡まであと10時間】と表示され、カウントダウンが始まっている。


「ヘシオール兄さーん!! 助けてー!!」


---


私の名前はフラグガ・ミエル。転生者だ。


2歳の頃から前世の記憶が蘇って、自分が日本のトーサンマジカ株式会社に勤めるOLだった事を思い出していた。


10代前半の彼氏がいるけど、決して犯罪ではない。私のこの体の年齢も10代前半なので、逆に40代の彼氏がいたほうが犯罪である。


コンプライアンスは守らなければならない。


そう、問題なのはコンプライアンスなのだ。


この世界ではステータス鑑定が一般的な魔法なのだけど、みんな死亡フラグや恋愛フラグが見えない。田舎には牧歌的な地域神が多く、センシティブな情報として弾いてしまうのだ。都会や帝都では事情が違うらしいが、それがこの世界の標準的なコンプライアンスだった。


私は日本人。初詣は行くけど特定の神を信じているわけじゃない。この世界のどの神の加護下にもない——つまり、翻訳フィルタの対象外。


だから私にだけ、全てのフラグが見える。


---


ダンジョンの最深部からオレコノーガを連れ帰ると、家では線の細い美少年が本を読んでいた。


「やあミエル、おかえり」


「お兄ちゃん、フラグ取ってぇー!」


「また変なフラグが立ったのかい? オレコノーガ」


「べ、別になにもしてねぇよ?」


兄——ヘシオールが鑑定魔法を発動する。兄の開くステータス画面はガラスのように薄く、整頓された印象を受けた。

鑑定魔法はMPを使うので、だいたい親とか、カップルなら男の方とかが開くものだった。私はいつも兄の魔法を横からのぞき見ている。


兄の鑑定魔法を通じて、オレコノーガのステータスを見ると、この世界の言葉に翻訳されている。


けれど、翻訳がひどかった。この世界の文化水準が低いせいか、とにかくひどい。日本語に直すとこうだ。


「フラグ:たくさん時間後に◯◯」


「たくさん時間後になにが起こるんだろうな? わくわく」


「だから死ぬんだってぇー!」


「そんな怖いフラグは見たことないよ、ミエル」


それは見たことないんじゃなくて、伏せ字になっているから読めないだけです。


フラグ村は3より大きい数を数えられない人が多かった。いまの日本じゃ考えられないけど、昔はそんな村が世界にいくつもあったのだ。そんな文化水準の村人たちにあわせて、この土地の神は翻訳する際に3より大きな数字を「たくさん」と表記している。


とにかく、私は兄に泣きついて懇願した。


兄のステータスは、私にはこう見える。


【フラグオ・ヘシオール(運命:「フラグをへし折る」ありとあらゆるフラグをへし折る)】


運命。どうやらこの情報はトップシークレットらしく、私以外の人が開いたステータスに出ているのを見たことがない。そして私の開いたステータスは完全に日本語表記なので、誰にも見せられない。見せても読めない。


「わかったよ、ミエル。折っちゃうけどいい? オレコノーガ」


「うーん、なんか釈然としないけど、いつもミエルの勘は頼りになるからなぁ。宝箱だって罠はすぐにわかるしな」


「いい彼氏だね」


ヘシオールは読みかけの本にしおりを挟んでから、ステータス画面にそっと手を伸ばした。まるで本の栞を抜くように、指で文字を軽くつく。


パキン。


ガラスが割れるような澄んだ音がした。


私もステータス画面を開いて確認する。さっきまで浮かんでいたカウントダウンは消えていた。


【オレコノーガ・オ・ワッタラ(運命:「俺この〜が終わったら」というセリフを隙あらば使う。そのたびに死亡フラグを立てる)】


情けないが、これが私の彼氏のステータスだ。


「はい、おしまい。今日はどこまで行ったの?」


「それがさー、とうとうボス部屋直前まで行ったんだよ。なのに毎回こういう時に限って急に俺のフラグが立ってさー。フラグ立たないよう気をつけてるはずなんだけどなー。なんでなんだろうなー、あれ」


「……」


この世界の田舎の人々に、死亡フラグという概念を理解させるのは至難の業だ。


そこへ、ドアをどんどんと叩く音がした。


---


勇者パーティーがやってきた。


「よーう! タテルはいるかー!?」


ずかずかと家に上がり込んできたリーダーの男を鑑定する。


【オイダ・シータ(運命:「追い出した」重要なキーパーソンに限って役立たずに見えてしまい、パーティーから追放してしまう)】


「タテル兄さんはいないよ」


ヘシオール兄さんが律儀に答えていた。タテル兄さんはたびたび旅に出かけ、しょっちゅう家を空けている。


この男は、タテル兄さんをパーティーから追放した張本人だ。家まで押しかけてくるなんて、何事だろう。


「居ないなら伝えとけ、悪い話じゃない。あいつはアイテムストレージも8個までしかない雑魚だったけどよー。それでもいるのと居ないのとでは大違いだったわけよ」


シータは勝手に椅子に座った。この人いつまでいるんだろう。


「8個……! なんか凄そう……!」


オレコノーガは目を輝かせていた。8個はそんな大した数じゃないぞ。彼氏なんだからもうちょっとちゃんとしてほしい。


都会の冒険者は10まで数えられる人が多い。ギルドの受付で鑑定魔法をちょっと見させてもらった感じだと、表示するステータスも1から100までなら正確に原文どおり表示されるらしかった。翻訳する神が違うのだ。フラグ村とは違って、都会ではそれが最低限度の教育水準なのだろう。


「だからこのパーティーでもう一度拾ってやろうと思ってんだ。あいつもアイテムストレージ8個しかなかったら、まともな仕事に就けないだろー?」


心配してくれているのかもしれない。この人は単にバカなだけなのかもしれない。


無理もないのだ。タテル兄さんは典型的なフラグ村育ちだ。数字は1、2、3、たくさん。私が生まれる前は3人きょうだいの家族だったから、それで十分だった。


私が生まれてから「1、2、3、4、たくさん」まで数えられるようになったそうだ。都会で生活していくにはまだ足りないだろうけれど、お土産を持って帰る数だけはなんとか数えようと努力する、愛すべき兄である。


しかし、問題はタテル兄さんがこの勇者パーティーに復帰したところで、はたして幸せだろうか、ということだ。


私は、勇者パーティーの他のメンバーを見た。


魔法使いを鑑定する。


【ミンナミン・ナシヌンダ(運命:「みんなみんな死ぬんだ」ピンチになるとすぐパニックになり、「みんな、みんな死ぬんだぁぁ!!」と叫んでMPが空になるまで魔法を撃ちまくる。タテルがなぜかいくつも持っているMP回復薬が生命線)】


……明らかな地雷。死亡フラグ持ち。

しかし、勇者にはこれが「追い詰められると覚醒して連続魔法を放てる!すごい!」とうつるらしい。


シーフを鑑定する。


【ドーセマタ・ウラギール(運命:「どうせまた裏切る」一度は勇者パーティーを裏切り、アイテムを独り占めして逃げた前科がある。タテルの説得により改心してパーティーに復帰したが、どうせまた裏切る)】


……これ仲間にしていいの?

ウラギールは何度も勇者たちを裏切り、そのたびに改心して戻ってくる。勇者には「見上げた忠信だ!えらい!」となるらしい。本当の忠信は最初から裏切らない。


エルフの弓兵を鑑定する。


【アッシマッタ(運命:「あっ、しまった」エルフの弓兵。3キロ先の標的に精密射撃を行う。寡黙な彼女の口から漏れる言葉は「あっ、しまった」。何を射たのか、射らなかったのか。誰にも見えない、誰にも言わない。視力のいいタテルが「ワイバーンの群れに撃っちゃったな。逃げよう」と言わなければ、このパーティーは壊滅していた)】


……ほうれん草ができないのはダメだ。

けど勇者にとっては「たまに誤射するけどそれがなんだってんだ!すげーパワーだろ!」となるらしいのだ。


どうしてこうなった。きっとオイダ・シータが重要なキーパーソンを追い出しちゃう運命の人だから、こんな香ばしいフラグだらけの人しか残らなかったんだろう。


タテル兄さんがこんなパーティーに戻っても、きっとろくなことがない。ここは表面上、「まあ、兄もきっと喜びますわ」と言って事情を何も知らない妹を演じつつ、兄が戻ってきたら断固反対すべきだろう。タテル兄さんは情に流されやすいからなー。


そんなことを考えていたら、玄関の扉が開いた。


---


タテル兄さんだった。


キラッキラの貴族の服を着て、すんごい身なりが良くなっている。


「おおー! 懐かしい奴らがいるなー!」


「タテル……!? お前、タテルなのか!?」


隣にはすんごい美女を連れている。一同が驚いていたが、私には予想のできた事だった。


【フラグオ・タテル(運命:「フラグを立てる」あらゆる場面でフラグを立ててゆく物語の主人公気質) スキル:アイテムストレージ∞】


そう、この世界にはまだ∞(無限)のような高度な数学的概念は普及していない。田舎の神はおろか、都会のどの神も、翻訳する際に∞を8と読み違え、誤訳しているのだ。


タテル兄さんは勇者パーティーから追放されたあと、気ままに世界各地をめぐって、行商しながらのんびりスローライフを送っている。無限にアイテムを収納できる兄が、行商の分野で成功しない理由がなかった。


まさに主人公。


「ほいミエル、お土産なー! なんか妖精を助けたら妖精女王のドレスとか言うのくれた! 女の子だからおしゃれしないとなー!」


「タテル兄さん! また知らない所でフラグを立ててきたんだ……!」


このドレス、市場に出たらゼロの数がやばいくらいの値がつくみたいだけど、デザインが気に入ったので、その後、私の標準装備になる。


「聖剣エクスカリバーとかいうのも貰ったぞ! ヘシオールは男の子だから、こういうの欲しいだろー!」


「……別に、いらない」


ヘシオール兄さん、安定のフラグ破壊力。タテル兄さんしょんぼりしてしまった。かわいそう。


「というか、その隣の女の人誰?」


そうだ、謎の美女。私の鑑定でも、名前は表示されなかった。戦闘力がずば抜けて高いのは分かるのだけど。


【名称:なし。種族:フェンリル。戦闘力:590。魔力耐性:340。素早さ:280】


数値が軒並み100を超えている。都会の冒険者にもカンストして「99」としか認識できないはずだ。


どこでこんな人と会ったんです?


「ふっふっふ、聞いて驚け。兄ちゃん、数字が5まで数えられるようになったぞ!」


片手を開いて、得意げに言うタテル兄さん。


この人は、自分のストレージに一体いくらのアイテムが入っているのか数えられない。けれど、お土産を買って帰る大切な家族の人数だけはちゃんと数えられるのだ。

ということは、この女の人は――。


「妖精の森で会ったんだ! そうだ名前を決めてなかったな、名前は……」


うーん、と悩む兄さん。やがて言った。


「オレノ・ヨメというのはどうだ?」


「ヨメです」


気に入ったらしい。フェンリルのステータスが更新された。


【オレノ・ヨメ(運命:「俺の嫁」タテルのお嫁さんになる運命)】


さすがタテル兄さん、抜群のフラグ形成力。私は腹が捩れそうになった。


「タテル……どうしてアイテムストレージ8のお前が、そんな……」


ぽかんとしている勇者パーティー。


しまった。本当に忘れてた。タテル兄さんを彼らのパーティーに復帰させることは、断固拒否しないと。


「まー、ゆっくりしてけ! 今にうまい飯にありつけるからな! というかお前らボロボロだな、またナシヌンダが自爆魔法でもぶっ放したのか?」


「……!」


屈辱に顔をゆがめるシータ。


---


そんなとき、長女のタッタ姉さんが帰ってきた。


「ただいまー! あれ!? 大所帯じゃない!」


「聞いてくれタッタ! 兄ちゃんとうとう5まで数を数えられるようになったぞ!」


「すごいじゃない!」


【フラグガ・タッタ(運命:「フラグが立った」自分のフラグは立たないが、周りの人のフラグが次々と立つ)】


『自分のフラグは立たないが』——。

なんて悲しい運命だろう。


タッタ姉さんの勤め先は、なぜかこの世界にゲートが開いた異世界レストランだ。OL時代にめっちゃ通っていた馴染みの店でもある。なんでゲートが開いたのかは不思議だったけど、姉さんが持って帰ってくるまかない料理は、私にとっては地球でしか味わえないはずの味だった。しかも毎日タダ。


もしもお姉ちゃんが結婚して退職なんてされたら、タダで味わえなくなる。ごめんね、お姉ちゃん。そのままが一番だと思うよ。


とにかく人数が増えて料理が足りなくなったので、タテル兄さんがストレージから食材を出しまくり、タッタ姉さんが異世界レストランで覚えたまかない料理を作った。次々と料理が並んでいく。私にとっては懐かしい地球の料理。勇者パーティーの面々は、見たこともないご馳走に思わずがっついてしまった。


それを見て、ヨメが怒り心頭に発した。


「おのれ、主様より先に食事に手をつけるとは何事か!」


ヨメの目が金色に光った次の瞬間、勇者パーティー4人がまとめて壁を突き破って吹き飛んでいた。壁に空いた人型の穴から、冬の風が吹き込んでくる。


「ひいい!逃げろ…!」


慌てて逃げていく勇者パーティーの背中を見送りながら、タテル兄さんはのんきに笑った。


「あらら、もう帰っちゃったのか、あいつら」


「お腹が空いたらまた来るわよ」


「それもそうだな」


---


一家の和やかな食事が始まった。


タテル兄さんの向かいに、嬉しそうに座るヨメ。その隣でオレコノーガが恐る恐る箸を伸ばし、ヘシオール兄さんは本を片手に静かにスープを飲んでいる。タッタ姉さんは全員の皿に目を配りながら、取り分けを仕切っていた。


これが私の生まれたフラグ家の日常だった。

鑑定魔法の使える世界で、本当のステータスが読めてしまう私は、読めない家族たちとちょっとずつ幸せを積み上げていた。


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