27
翌朝疲労の為に遅く起きたエマーリエは訪ねてきたアラン王子と遅い昼食を取っていた。
昨夜から降り続いた雪は昼過ぎに止み、エマーリエの部屋から見える城の裏庭は雪景色が広がっている。
机の上に並んでいる軽食に目を輝かせてどれを食べようか選んでいるエマーリエにアラン王子は苦笑した。
「ただの昼食に随分な喜びようだな」
「我が家の料理は母か通いのお手伝いさんが作りますから、こんなに豪華な食事は出てこないんですよ」
迷いながら選んだサンドイッチをエマーリエは夢中で食べ始める。
「どこも同じだろう」
「そんなことないですよ。入っている食材が豪華ですし、プロのシェフが作った味付けは素人とは全く違って美味しいです」
「それだけ喜ばれると、作った人も喜ぶだろう」
美味しそうに食べているエマーリエを眺めながらアラン王子は頷く。
いつもより優しい顔をしているような気がしてエマーリエはアラン王子を眺めた。
アラン王子は見つめられて少し顔をしかめる。
「なんだ?」
「アラン様の機嫌が何だか良さそうな気がして見ていました」
「エマーリエが居るからだろうな」
アラン王子の珍しい発言にエマーリエは目を丸くする。
いつもなら言わないようなセリフをさらりと言うなんてやっぱりおかしいとエマーリエも顔をしかめた。
「何かありました?」
「俺の機嫌がよさそうだとそんなに不満か」
「違いますよ。あっ、もう私たちは死ぬから最後の晩餐みたいな感じですか」
まだまだ生きるつもりでいたがアラン王子は諦めているのかもしれないとエマーリエは思った。
「違う!・・・エマーリエが居る日々が嬉しいだけだ」
横を向いたアラン王子の顔が少し赤い気がしてエマーリエは横に回って顔を覗き込んだ。
「こんなことを言って怒らないでくださいね」
エマーリエは前置きをしてアラン王子の顔を見ながら言う。
「なんだ」
「やっぱりなんか素直すぎると言うか、アラン様らしくない言葉でやっぱりおかしい・・・」
深読みしようとするエマーリエにアラン王子はため息を付いた。
「俺が勝手にエマーリエを突き放しておいていえることではないが、お前が居ることが俺にとっては嬉しいことに気づいただけだ」
「戴冠式でお別れだからとかではないですよね」
念を押すエマーリエにアラン王子はまたため息を付いた。
「当たり前だ。俺やエマーリエが視た光景は何度も変えることができた。今回も対策をすれば何とかなるはずだ」
「そうですよね。レイモンド様やジュリエットさんが夢で同じような光景を見たから、少し不安になっていました」
ホッとして微笑むエマーリエの腕をアラン王子は掴んで引き寄せる。
強い力で引かれバランスを崩したエマーリエはアラン王子のへと倒れ込んだ。
近くなるアラン王子の距離にドキドキしながら見上げると、優しい黒い瞳と目が合った。
「レイモンド兄上とも話し合っている。信用のおける騎士で周りを固めているからもし反乱する者が現れてもすぐに抑えられるだろう」
「信用しています」
エマーリエがギュッと抱き着くと背中に回っていた腕にも力が込められた。
「退路は確認したか?」
アラン王子の言葉にエマーリエは唇を尖らせた。
お互い抱き合っていると言ういい感じの雰囲気なのに、戴冠式の話を出されると不安になってしまう。そして、退路の確認と当日の動きは何度もレイモンド達を含めて確認済みなのは知っているだろう。
「何回も確認したので大丈夫です。当日はジュリエットさんとオズワルド君達と一緒に固まってレイモンド王太子の戴冠式を見る、王冠が被せられる時が一番危ないのでいつでも逃げ出せるようにしておく事。もし、妙な動きがあればすぐに味方であろう騎士達が制圧するが、私たちもセバスの後について祭壇の向こう側にある隠し通路から外に逃げる!ですよね」
エマーリエが当日の注意事項を指を折って言うとアラン王子は頷いた。
「実際の隠し通路を見せられないのが残念だが、誰が敵か分からないとこちらも動けないからな」
「王族だけが知る隠し通路なんてドキドキしますね。他にもあるんですか?」
「城の中は隠し通路だらけだ。ほとんど使用されることは無いが」
「凄いですね。私たちは隠し通路を通って逃げると、アラン王子も一緒に逃げますよね」
エマーリエが確認するとアラン王子は頷いた。
「もちろん。訳の分からない連中に殺されるほど馬鹿ではない」
怒りの込めた瞳にエマーリエは安心してアラン王子の胸に抱き着いた。
殺されるつもりも、居残って戦うなどと思っていなことに安心する。
「俺より、兄上夫婦たちの方がよっぽど生き残ることに力を入れているから多分当日は大丈夫だとは思うが」
「敵が誰か分からないのに?」
「もしかしたら兄上はだいたいの当たりを付けている可能性はあるな」
思案する様子のアラン王子をエマーリエは見上げる。
「アラン様は誰だか分からないんですか?」
「俺はあまり政権に関わっていないからな。見当がつかない」
ため息を付くアラン王子の胸に抱き付ながらエマーリエは幸せをかみしめる。
先日までずっと会いたいと思っていたアラン王子。
やっと会って傍に居ることができ、以前より距離が近づいた気がしてエマーリエはアラン王子の胸に顔を埋めた。
「きっと、大丈夫ですよ。アラン様にこうして触れても何も視えないですから」
「そうだな、俺も今朝は夢を見なかった」
アラン王子はエマーリエを抱きしめた。
「雪が止んだな」
「そうですね。かなり降りましたね」
「こうして二人で、雪景色が見られることが奇跡だと思う。昨晩はさすがに間に合わないかと思った」
夢の中で見たというエマーリエの死を思い出し、抱きしめる腕に力を込めた。
「やっぱり離れていたらいけないんですよ、私達。すぐに危機を察知できないですから」
「そうだな」




