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戴冠式当日、エマーリエは朝早くから身支度をするために衣裳部屋へと向かっていた。

まだ雪が溶け切らず、冷え切った廊下を手を摩りながら歩く。

衣裳部屋では、ジュリエットとベアトリスが暗い顔をして準備に取り掛かっていた。

ジュリエットやベアトリスは自室で準備をしているだろうと思っていたエマーリエは驚いて二人を見る。


「私、お邪魔じゃないですか?」


侍女たちが忙しそうに右往左往している様子を見てエマーリエが言うとジュリエットは首を振る。


「あえてここに来たのよ。一人だと気分が落ち込むから」


侍女たちが居る手前多くは語れないが、戴冠式で襲われた場合を思ってこのことだろう。

ベアトリスも頷いて暗い顔で準備に取り掛かっている。


「よく眠れなかったわ。大丈夫かしら、上手く行くかしら」


どんよりした二人の様子にエマーリエは明るい笑顔を作って頷いた。


「大丈夫ですよ!準備してきたじゃないですか」


主に、何かあったら逃げる準備だがと心の中で付け加える。

5人で集まって立ち位置や逃げるタイミングなどをすべて詳細に話あったので大丈夫だろうとエマーリエは頷くが、二人の表情はまだ暗い。


エマーリエも支度をするべく衣装係が持ってきたドレスを見て目を丸くした。

ドレスのデザインが変わっているのだ。


「全部一から作り直してもらったのよ。あのドレスちょっと縁起悪いじゃない?大変だったのよ」


暗い顔をしたままベアトリスが渇いた笑いを浮かべる。

ジュリエットも頷いて、すでに着ているドレスを見下ろした。


「私もドレス変えたのよ。新しく用意していたドレスは気が進まないから」


ほほほっと上品に笑っているが、夢で見た悲惨な映像と少しでも変えようとしたのだろう。

エマーリエは頷いた。


「そうですね。私もこのドレスの方が嬉しいです。ジュリエットさんもお似合いですよ」


「ありがとう。ついでに言っておくと、アラン君も衣装変更したのよ。レイモンドは無理だったのよね」


「あの豪華な衣装ではないんですね」


豪華な衣装を着たアラン王子が刺される映像を思い出す。

洋服が違うだけで変わる未来であってほしいと願いながらエマーリエは準備に取り掛かった。

全ての準備が終わり、ジュリエットは浮かない顔をして立ち上がる。


「私達は先に行くわね。会場でお会いしましょう」

「はい。気を付けてください」


ジュリエットとベアトリス王妃と固い握手をして、衣裳部屋を出ていく姿を見送る。

エマーリエは鏡の中の自分の姿を見つめた。

少しだけ綺麗になった鏡の中の自分に微笑んだ。


「大丈夫、きっと何もないわ」


小さく呟くと、鏡の中に写ったアラン王子と目が合う。

驚いて振り返ると、いつの間にかアラン王子が部屋へと入ってきていた。

エマーリエが視た豪華な服ではなく、黒い騎士服姿だ。


「騎士服にしたんですか?」


「一応これでも式典用だ」


そう言って胸についている大量のメダル型の勲章を指さした。

よく見ると隊服も金の縁取りがされており、黒いベルトには金色のバックルがついている。

襟元にも金色のバッチがついてる。


「確かに、普段見る騎士服より少し豪華な気がしますね」


上から下までアラン王子の騎士服を見つめてエマーリエは頷いた。


「着る予定だった服よりは動きやすい」


そう言って左側についている剣に手を置いた。

使い古された銀色の剣はただの飾りではないことがわかる。


「そろそろ時間だ」


アラン王子はそう言って腕をエマーリエに差し出した。


「そうですね。緊張しますね」


大きく深呼吸をしてエマーリエはアラン王子の腕に手を乗せた。

緊張をしながら廊下に出ると、セバスが笑みを浮かべてエマーリエとアラン王子に頭を下げる。


「おはようございます。アラン王子、エマーリエお嬢様」


「セバス!もう来ていたの?」


驚くエマーリエにセバスはニヤリと笑う。


「お嬢様がお呼びしたのではないですか。お嬢様のためならばセバスはどこでも行きましょうぞ」


「ありがとう。でも、その恰好・・・よく着させてもらえたわね。セバスはただの執事なのに・・・」


セバスが来ているのは城の騎士服だ。

騎士にしては大きな剣を下げていて違和感を感じるが、隊服は体になじんでいる。

ちらりとアラン王子を見ると、かすかに口の端を上げている。


「俺の口添えではあるが、セバスは元傭兵ではなく、隣国の騎士だったようだぞ」


「えぇぇぇ?そうなの?」


驚くエマーリエにセバスは遠い目をした。


「色々ございまして、パルサ国からこちらに参りました。運よくロズベール様に拾ってもらいましてお仕えしております」


「驚きの過去ね」


もっとセバスの過去について聞いてみたいと思ったが今は時間が無い。

アラン王子が歩き出したのでエマーリエもエスコートをされながら歩き出した。

後ろからセバスが付いてくる。

戴冠式が行われる大聖堂に付くと、重厚な扉の前に立っていた騎士が頭を下げて扉を開けた。

この中にはエマーリエ達を殺すかもしれない敵がいるのだ。


緊張と不安でカチコチになっているエマーリエを見下ろしてアラン王子はエマーリエの耳元で囁く。


「できる対策はしたつもりだ。エマーリエはもしもの時に走れるようにしていろ」


「運動音痴だけれど、走るのは得意なの。準備運動もしてきたから大丈夫」


謎の自信に満ちているエマーリエに微かに笑ってアラン王子達は大聖堂へと足を踏み入れた。

大聖堂の天井は大きくドーム型になっており、神や天使の天井画が描かれている。

初めて大聖堂を訪れたエマーリエはあまりにも素晴らしい天井絵にじっくりと見てみたいものだと思いながら天井を見上げる。

後ろからセバスが咳払いをして囁いてくる。


「お嬢様。正面を向いてください。注目されておりますよ」


セバスに注意されてエマーリエは慌てて前を向く。

大聖堂の中には戴冠式を見守る役目でもある貴族たちすでに集まってお木製のベンチ型の椅子に座ってエマーリエ達が入ってくるのを見つめていた。

大聖堂の壁際にはぎっしりと甲冑姿の騎士が立っているのが見えてエマーリエは足が震える。

見えた映像ではあの騎士達に刺されるのだ。

甲冑姿の騎士は正式な場だからなのか頭まで覆われており表情が見えないことが余計恐怖を感じさせる。

アラン王子に連れられて、所定の場所へ着くとすでにオズワルドとマドリーヌが用意されていた椅子に座っており、エマーリエを見ると手を振って挨拶をしてきた。


「おはようございます。兄上、エマーリエさん」


「おはようございます」


アラン王子は相変わらず頷くのみなので、エマーリエは笑顔で挨拶を返した。


「アラン兄さまと仲直りしたようで良かったです。心配していたのですよ」


天使のようなオズワルドの微笑みに、エマーリエは癒されながら頷いた。


「お陰様で。こうしてアラン様と戴冠式に出ることが出来ます」


「お母さまはただの喧嘩だから心配するなと言っていましたが、本当に良かったです」


心底安心したというオズワルドの横でマドリーヌがエマーリエの後ろに立っている騎士服姿のセバスをじっと見つめている。


「エマーリエお姉さま、ドレスを変更されたのですか?」


マドリーヌが首を傾げて聞いてくるのでエマーリエは頷く。


「えぇ。少し不具合がありまして」


「まぁ、そうなのですね。そちらもお似合いですわ。それより、後ろの方はエマーリエお姉さまの家の執事でしたわよね。なぜここに・・・?」


エマーリエの家の執事だと思っていたのに、城の騎士服を着て現れたら驚くのも無理はない。

なんて説明したらいいのかとエマーリエが悩んでいるとアラン王子が口を開いた。


「エマーリエ専属の騎士だ」


「でもその方、執事ですわよね」


マドリーヌの疑問はもっともなのでエマーリエが頷きそうになるとまたアラン王子が口を開く。


「エマーリエの我儘だ。戴冠式が不安なので家の者に傍についていてほしいそうだ」


「えぇ、まぁ。そう言う事です」


我儘娘のように言われて嫌な気分になったが、エマーリエは仕方なく頷いた。

後ろではセバスが満足げに頷いている。

マドリーヌは納得していないようだが、頷いている。


「マドリーヌちゃん、不審に思っていますよ」


並んで立っているアラン王子にエマーリエが囁くと、アラン王子も小声で返してきた。


「ちなみに、エマーリエの我儘で戴冠式の護衛の騎士は信頼しているセバスにしたいということにしてある」


「何ですって!私がこの国の騎士を信用していないってことになって、敵意が私に向きません?」


睨みつけるエマーリエだったが、アラン王子は素知らぬ顔をしている。


「信じられない」


エマーリエが呟いた時に、ファンファーレが大聖堂に鳴り響いた。

戴冠式が始まった。




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