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アラン王子の体温を全身で感じていると、部屋のドアがノックされエマーリエは慌てて離れた。
「どうぞ」
エマーリエが答えると、部屋に入ってきたのはアラン王子が連れてきた騎士の一人だった。
「アラン王子、侵入者の拘束が完了し移送を開始しますがよろしいでしょうか」
敬礼をして言う騎士にアラン王子は頷いて立ち上がった。
「尋問が終わったら報告を上げてほしい」
「了解しました。王子はどうされますか?」
騎士は直立不動だがきまずそうにエマーリエに視線を送る。
「話し合いは終わった。城へ帰る」
「お一人で、ですか?」
ちらりとエマーリエをまた見て騎士が聞くとアラン王子は肩をすくめた。
「いや、エマーリエを連れて帰る」
アラン王子の言葉に騎士は口元を一瞬歪ませて敬礼をして出て行った。
「私も一緒に連れて行ってくれるんですか?」
喜ぶ心を押さえてエマーリエが言うとアラン王子は頷いた。
「家に帰しても命を狙われているとわかったからだ。ここも安全ではないようだ」
「ありがとうございます」
嬉しさのあまりアラン王子に抱き着くと、またドアがノックされて返事も聞かずにメアリーが顔を出した。
抱きついているエマーリエを見て口に手を当てて微笑んだ。
「あら、良かったわ。仲直りして」
メアリーの後ろからセバスとエインが部屋を覗き込んで目を丸くしている。
「姉さん、押しかけるようなことは止めなよ。ご迷惑だよ」
「ち、違うわよ。アラン様が戻ってもいいって言うから」
エマーリエが見上げるとアラン王子は頷く。
「騒がせして申し訳ない。エマーリエには城に戻ってもらいたいと思っているのだがよろしいだろうか」
「ありがたい事ですわ。もう、泣き声が煩くて私、耳が痛くて・・・」
顔をしかめるメアリーにエインも頷いた。
「よかったね、姉さん。僕ももう、剣の素振りに付き合わなくていいんだ」
喜びをかみしめるエインをエマーリエは指をさす。
「剣の稽古はした方がいいわよ。セバスが強いみたいだから教えてもらいなさい」
「嫌だよ。僕、向いてないよ」
「ロズベール殿にもご挨拶をしたいのだが」
アラン王子はそう言って廊下を見るが、姿が見えずエマーリエを振り返った。
「お父様は人づきあいが苦手だから隠れているわね。挨拶なんてしないでいいですよ」
「そうですよ。頼りにならないからお父様は」
エマーリエとエインの言葉にアラン王子は苦笑する。
「そういう訳にもいかないだろう」
久しぶりに見るアラン王子の笑顔にエマーリエは胸がいっぱいになる。
「やっぱり素敵」
呟いたエマーリエにメアリーとエインはため息を付いた。
「姉さん、心の声が漏れているよ」
セバスはニコニコ笑いながら窓の外を見た。
「おや、夜が明けましたな」
エマーリエの父ロズベールに挨拶を済ませ、二人は馬車で城へと戻った。
出迎えてくれたベアトリス王妃がエマーリエを見て泣いて喜んでいる。
「良かったわ。戻ってきてくれて」
「アラン様が、戻っていいと言ってくれて」
恥ずかしそうに言うエマーリエをベアトリスは抱きしめる。
「本当に良かった。言ったでしょ、絶対に戻ってくるって。それでね、疲れているところ悪いのだけれど、レイモンドとジュリエットちゃんがぜひ二人に相談したいって言っていて、いいかしら?」
一睡もしていないエマーリエだったが、緊急を要する雰囲気に頷いてアラン王子を見た。
アラン王子も首を傾げている。
「兄上も忙しいだろう。もうすぐ戴冠式だ」
「そうなの。私が今朝、エマーリエちゃんの事、口を滑らせちゃって、アランの命の危機が視えるって。そうしたらね、ぜひ話したいことがあるって。アランも」
ベアトリス王妃がアラン王子を見つめた。
「もちろん俺も行くが・・・」
「よかったわ。レイモンドたちはアランが帰ってくるのを待っているからこのまま行きましょう」
ベアトリスはエマーリエの腕を引っ張って別室へと連れていく。
途中までついてきていたアラン王子は着替えをしてくると言ってどこかへ消えてしまい、エマーリエはベアトリス王妃に手を引っ張られて城の廊下を歩いた。
ほんの少し離れていただけなのに妙に懐かしくて廊下をしみじみ見てしまう。
通り過ぎる侍女や騎士達がエマーリエの姿を見て驚いた顔をして慌てて頭を下げている。
「エマーリエちゃんが戻ってきたの。喧嘩が終わって良かったわ」
「そんなに大きな声で言わなくていいのではないですか?」
ベアトリスは侍女達と通り過ぎるときに急に大きな声を出した。
驚くエマーリエにベアトリスは囁く。
「妙な噂が出るよりは、こうして喧嘩が終わってことを知らせないとだめよ。侍女たちは噂が凄いのよ」
侍女や騎士と通り過ぎるたびにベアトリス王妃は大げさに大きな声を出すのでエマーリエは恥ずかしくなり俯いて歩いていると大きな扉の前へとたどり着いた。
「ここよ。会議室」
会議室というには立派な作りのドアにエマーリエが恐縮していると、前に立っていた騎士が王妃とエマーリエに敬礼をしてドアを開けた。
室内へと入ると、高い天井に広い部屋の中心に置かれたテーブルにレイモンドとジュリエットが座っていた。
室内には二人しかおらず、侍女の姿は見えない。
「エマーリエちゃん!帰ってきて良かったわ。仲直りしたのね」
ジュリエットが大げさに喜んでエマーリエと王妃を迎え入れた。
「お騒がせしておりました。アラン様の許可が出ましたので本日よりまたお世話になります」
「堅苦しい!いいのよ、普通にしていて」
ジュリエットはエマーリエを指さして言うと、レイモンドが立ち上がった。
「疲れているところ悪いね。緊急に確認したいことがあって、アランは?」
エマーリエとベアトリスを交互に見てレイモンドが聞いた。
「着替えてくるって言っていたわ」
ベアトリスは答えるとエマーリエに椅子を勧めて自らも座った。
机を挟んでレイモンドとジュリエットも座る。
「アラン抜きだけど少し確認したいことがあってね。エマーリエちゃんはアランの命の危機が視えるって本当?」
答えていいものかとエマーリエは戸惑いながらも頷いた。
「それって、どういう風に見えるのかしら?」
真剣な顔をしたジュリエットが近づいてくる。
「初めて見たのは、アラン様に触れた時です。指先が痺れた感覚になって、瞼の裏というか脳裏に映像が見えました」
「枝が落ちてくるところか!ほかにも見えたの?」
レイモンドが納得したように言うとエマーリエは頷いた。
「花嫁にナイフで首を斬られるところを見ました。あとは、パーティーで毒を飲んで倒れるところも・・・」
「それは、アランに触れると見えるって感じ?」
「はい。触れると、指先が痺れて見えます」
エマーリエが答えるとレイモンドとジュリエットは見つめ合って頷いている。
本当に言っても良かったのだろうかと不安に思っていると、ジュリエットがエマーリエを見つめて口を開いた。
「実は、私たちもお互いの命の危機が視えるのよ」
「ええぇ!」
衝撃的な言葉にエマーリエはのけ反って驚いた。
自分たちだけではなかったのだと言う驚きに目を丸くしているエマーリエにジュリエットとレイモンドは頷く。
「僕達も誰にも言っていなかった。ジュリエットに会う前は王家にそういう伝説があるって言うのは知っていたけれど、ただの伝説だろうと思っていたんだ。だが、ある日ジュリエットが転んで頭を打って死ぬところを夢で見た。ただの夢だろうと思っていたが、すぐに同じような場面に出くわしてね。僕は夢を思い出してジュリエットが転ぶのを防いだんだ」
ジュリエットも頷く。
「私も夢で見たの、レイモンドが公務中に民衆の中から出てきた一人の男に刺されて死ぬところを。朝起きてすぐにレイモンドに伝えたわ。そうしたら夢と同じように一人の男がナイフ片手にレイモンドを襲ったの」
「僕は事前に知っていたからね。ナイフを持った男は取り押さえることができたんだ」
「なるほど、でもどうして誰にも言わなかったのですか?」
驚きながらもエマーリエが聞くとレイモンドはニヤリと笑った。
「王太子ともなると、命を狙われることもあるかもしれないからね。暗殺されることを事前に察知できるって知ったらどうなる?ジュリエットを殺すだろう?」
「確かに!」
そこまで考えていなかったとエマーリエは頷いた。
レイモンドは椅子の背もたれに深く腰を掛けて天井を見上げる。
「それで、僕は思い出したんだ。幼い時、まだアランが可愛い坊やだった時によく夢を見て泣いて起きていたんだ」
「アラン様が夢を見て泣く?」
いつも無表情のアラン王子が泣くところなど想像もつかずエマーリエも天井を見上げた。
幼少期のアラン王子など想像もできないが、きっと可愛かったのだろう。
ベアトリスも思い出したように微笑んで頷いている。
「そうだったわね。あの頃はアランも可愛かったわね。お母さま、また夢を見たと言って泣いていて。あの頃に戻ってほしいわ。今はちっとも可愛くないわよね」
過去を思い出しているベアトリスを横目で見てレイモンドは話を続けた。
「アランは毎回言っていたよ。大人になった僕が剣で刺されて死んでしまう、僕のお嫁さんも僕を助けようとして剣で斬られて死んじゃうんだ、ってね。顔は見たのか?って聞くと顔は見えないと。でも、僕のお嫁さんなんだと意味が分からないことを言うんだ」
「僕のお嫁さん・・・」
エマーリエが呟くとベアトリス王妃は思い出しながら頷いている。
「そうだったわね。僕のお嫁さんが死んじゃうから僕は結婚しないとか言っていたわ。その子と結婚するの?顔も見えないのに?って聞いたら、声は分かるからって。可愛かったわね」
そう言って、ベアトリスはエマーリエをニコニコしながら見つめている。
「え?私の事ですか?」
「そうよ。あの声の子以外とは結婚しないって言っていてね、エマーリエちゃんが現れた時は本当に居たんだって驚いたもの。あれがアランの初恋だったのね」
「そして、僕はすっかりそんなことを忘れていたんだ。母上は知っていたようだけれど、まさかアラン達も命の危機が視える者同士だとは思わないだろう」
「そうですね」
お互い、そんな特殊な能力を持った者同士だとは想像もしないだろう。
エマーリエが頷くとドアが開き、着替え終わったアラン王子が入室してきた。
顔を赤くしているエマーリエとニヤニヤしているレイモンド達にアラン王子は眉をひそめた。
「なにか?」
「いや、かなり込み入った話をしていた」
レイモンドが言うと、アラン王子は首を傾げながらエマーリエの隣に腰を降ろした。




