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エマーリエは机を挟んで前に座っているアラン王子をじっと見つめた。
最後に会った日から全く変わっていない。
アラン王子は単身できたわけではなく数人の騎士を連れてきており、部屋の外では盗賊対応で騒めいている。
別室に二人きりで机を挟んでお互い座っているが、何を話していいか分からずエマーリエはお茶を一口飲んだ。
暖かいお茶が混乱している気分を落ち着かせてくれるようでエマーリエは大きく息を吐いた。
沈黙に耐えかねたのか、アラン王子が口を開いた。
「元気そうだな」
「お陰様で・・・」
「なんでも、俺に決闘を申し込むために素振りを始めたとか・・・」
目を逸らしながら言うアラン王子にエマーリエは首を振った。
「違います!戴冠式でアラン様を救うために強くなろうと思って」
エマーリエが言うとアラン王子は軽く目を見開く。
「そんな少し素振りした程度で、どうにかなるとは思えないが」
至極まっとうなことを言うアラン王子にエマーリエはムッとする。
「だって、アラン様を救う方法が他に思い浮かばないから、婚約破棄と言われてどれだけ辛かったか分かりますか!」
「すまなかった」
「それで、どうして我が家に助けに来てくれたのですか?助けも呼ぶ暇なんてなかったのに」
「それは・・・そうだな。すべて言おう」
口元に手を当てて小さく呟いてアラン王子はエマーリエに向き直った。
深刻な雰囲気にエマーリエは黙ってうなずく。
「エマーリエが俺の命の危機が視えるように、俺もエマーリエの命の危機が視えるんだ」
「えっ?」
衝撃的な言葉にエマーリエはのけ反って驚いた。
ソファーごとひっくり返りそうになるエマーリエの体を慌ててアラン王子は支える。
体を支えながら隣に座り、アラン王子はエマーリエの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「驚きすぎて大丈夫じゃないです。どういうことですか?どうやって見えるんですか?私みたいに、アラン様に触ると指先が痺れて見える感じですか?と、いうか何が見えているんですか?私の命が危ないことがあったという事?」
捲し立てて言うエマーリエの背中をさすりながらアラン王子はまた少し考えるそぶりを見せる。
「そうだな、視えたのはエマーリエよりはるか昔の話だ」
「はぁ?昔ってなんですか?」
「幼少期に、夢を見た。城の大聖堂で何か式典が行われている夢だ。そこで、顔の見えない女性が俺に向かって危ないと叫んでいるんだ。灰色に近い青いドレス姿の女性は俺に向かって叫び、後ろから斬られ倒れた。それでも俺に手を伸ばすが、俺も刺されて倒れてしまう。そんな夢を何度も見た」
「何度も・・・アラン様視点から見た、戴冠式の映像だったんですね」
驚きながらもエマーリエは自分が以前見たアラン王子が剣で刺されて倒れる映像を思い出しながら頷いた。
「戴冠式だと気付いたのはエマーリエのドレスが出来上がってからだ。それまでは俺の着ている服と大聖堂と言う場所を考えると結婚式の出来事だと思っていた」
「なるほど、だから結婚式はしないと言っていたのですね。ん?顔が見えない女性は私ではない可能性がありませんか?」
「それは無い、声がエマーリエだったからだ。ずっと夢の中に出てくる女性の顔はなぜか見えなかったが声は聞こえていた。それで俺はお前に初めて会った日に驚いたのだ。お前だったのかと・・・」
「あぁ!アラン様は確かに、私に驚いていましたよね。だから枝から身を守れなかったんですか?」
アラン王子は視線を逸らす。
「ずっと顔の見えない相手を探していたから驚いた」
「ということは、今回も視えたという事ですか?」
驚きの連続でエマーリエは目を見開いたままアラン王子を見上げる。
黒く輝く瞳がエマーリエを見下ろし伏せられた。
「俺はエマーリエほどではないが、夢で見るタイプらしい。数日前に、雪の降る中エマーリエの死体を確認している自分の姿を夢で見た」
「えっ、私、死ぬところだったんですね。セバスが強いって嘘だったの?」
「未来というか俺が見た映像ではセバスはこの館には居なかったようだ。一家で殺されてエマーリエ達の死体を俺が眺めている映像だった」
「危なかった・・・。助けに来てくれて本当にありがとうございます」
頭を下げるエマーリエにアラン王子は首を振る。
「いや、少し未来が変わりセバスはこの家に残った。予想外に強くて俺達が居なくても大丈夫だったようだ」
「セバスがそんなに頼りになる存在だったなんて驚きです」
「そうだな。雪が降ってきたので慌ててこの館へと来た。夢の中ではエマーリエの死体を確認し始めたところで雪が降り始めていた」
「時間のずれがあるのか、雪が早めに降ったんですかね。他にも私は死にそうになったことがあるんですか?」
そんな覚えはないとエマーリエは考える。
「妙な花嫁が居た結婚式で、エマーリエは川で溺れて死んでいる」
「えっ?だから川に近づくなって言っていたんですね。私が夜に川に行くとは思えないのですが」
見知らぬ地、それも一人で川に行くことなど考えられないとエマーリエは首を傾げる。
「どうして死んだのかは分からない。俺が夢で見たのは川の中から引き上げられるエマーリエの死体だった。それも夜中に」
「怖い。そんな死に方しなくて良かったです。あ、それでワインの毒を見抜いたのですか?」
「見抜いたわけではない。毒で死んだエマーリエの夢をみたのだ。それがあの日だと気付いたのはエマーリエがワインを飲んだ後だったが・・・」
「毒で死んだってわかるんですか?」
「エマーリエに会ってからは、普通の夢のような状態で見るようになった。夢の中で医者がエマーリエは毒で死んだと診断をしていた」
エマーリエはまた首を傾ける。
「私は夢ではなくて脳裏に映像が見えるのですが、声は聞こえないんです。見え方は人それぞれみたいですね」
アラン王子は頷いた。
「一応聞くが、命を狙われる心当たりはあるか?父親含めて」
「あるはずないです!父は本当に無口で、存在感は無いし」
「そうなると、やはり俺が関係しているということかもしれない」
自分の両手を握ってエマーリエはアラン王子を見上げた。
「だからって、婚約破棄は酷いと思います!もし、私の事を嫌いになっていたら仕方ないですけれど・・・。それでも私は、アラン様が好きだから傍に居たいし、もし命の危機があるのならお知らせして救いたいです!知らないところで死んでしまったら私は生きている意味がありません」
涙を溜めながら言うエマーリエの茶色い瞳を見つめてアラン王子はため息を付いた。
「生きている意味がないとは大げさな・・・と、言いたいところだが俺も同じだ」
「えっ?」
驚くエマーリエをアラン王子は引き寄せ抱きしめた。
暖かいアラン王子の体温を感じてエマーリエは目を瞑る。
「何度エマーリエの死体を夢で見たか。そのたびに絶望をする。俺の傍に居れば死なずに済んだのかと」
「どうして婚約破棄なんて言ったんですか」
抱き付ながらエマーリエが言うと、アラン王子もエマーリエを抱きしめる手に力を込めた。
「戴冠式にエマーリエが出なければ死なないと思ったからだ。どうにかして回避したかった」
「酷いです。凄く泣いたんですからね」
「すまなかった。お前の死体を見るのは嫌だったんだ」
「そんなの私だって同じです!だから一緒に居て、回避しましょう」
ギュッと抱きしめてくるエマーリエにアラン王子は頷いた。
「そうだな。二人で回避しよう」
「はい」
エマーリエはアラン王子に抱き着きながら大きな声で頷いた。




