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数週間後、ドレスのことなどすっかり忘れていたエマーリエはまたベアトリス王妃に呼び出された。

衣裳部屋へと向かうべく廊下を歩く。

すでに城に来てから数か月が過ぎており大分、通り過ぎる人たちが頭を下げられるのにも慣れてきた。

エマーリエは軽く微笑みながら頭を下げてくる人たちに返しながら歩いていると後ろから声を掛けられる。


「エマーリエ」


振り返ると、アラン王子が書類を手に立っていた。

最近は忙しいという事で、数日間が開いて会いに来ることが多かったがこうして久々に会うと嬉しいものだ。


「お久しぶりです。アラン様」


会えてうれしいと顔を輝かせるエマーリエにアラン王子は目を細める。


「久しぶりだな、エマーリエ。どこへ行くんだ?」


「ベアトリス王妃に呼ばれて衣装室へ行く所です」


アラン王子は首を傾けた。


「衣装室?なぜ母上がエマーリエを呼ぶ?」


「レイモンド様の戴冠式の時に着る衣装合わせです」


「あぁ、兄上の戴冠式にエマーリエも出席するのか・・・」


今初めて思いついたと言うようにアラン王子は頷いた。

忙しすぎてエマーリエと共に出席することを忘れていたらしい。


「一応、アラン様の婚約者ですから」


ツンとして言うエマーリエにアラン王子は頷いてエマーリエの背を押して歩き出した。


「俺も一緒に行こう」


「なぜ」


「ドレスを見ておきたい。少し思い当たることがある」


目つきが鋭くなったアラン王子に背を押されてエマーリエは歩き出した。

とても着飾ったドレス姿を見たいと言う雰囲気ではないアラン王子に仕方なくエマーリエは共に衣装部屋へと向かった。


「あら、アランも来たの。珍しいわね」


二人で衣装室へと向かうと、ベアトリス王妃がアラン王子を見てニヤリと笑った。


「エマーリエちゃんのドレスが気になるのねぇ。愛ねぇ」


「そういうわけではないが・・・」


アラン王子が言うのをベアトリス王妃は手を振って止めた。


「照れないでいいのよ。見て頂戴、このドレスを。私がほぼデザインしたのよ」


「えっ、そうなんですか?」


初めて知る事実に驚くエマーリエにベアトリス王妃は満足して頷いた。


「だって、言ったら私に気を遣うでしょ。我慢できなくて言っちゃったわ」


ウフフっと笑うベアトリス王妃は二人を室内へと案内する。

エマーリエが着る予定のドレスが飾られており、ベアトリスは嬉しそうにエマーリエを手招きした。


「どう?サイズ直しの為に一回着てみてちょうだい」


「素敵です」


デザイン画の通り淡い青い色のドレス。

スカートにはフリルがふんだんに使ってあり原画通り大きく膨らんでいた。


「アラン?私のデザインしたドレスに何か不満でもあるの?」


ドレスの後ろに回ってまで眺めているアラン王子は眉間に皺を寄せてとても気に入っている風には見えず王妃は微笑みながらも睨みつける。


「俺が当日着る服は?」


何か思い当たる節でもあるのか、アラン王子はベアトリスを無視して衣装係に言った。

様子の可笑しいアラン王子にエマーリエとベアトリス王妃は顔を見合わせる。


「アラン王子、こちらが戴冠式できるご予定のお洋服でございます」


恭しく衣装係が持ってきた衣装を見てエマーリエは驚きで声を上げた。


「これ!この洋服はアラン様が斬られたときの服です」

「どういうことかしら?」


驚くベアトリス王妃にエマーリエは説明をする。


「いつか見たアラン王子が斬られる映像です。豪華な服を着たアラン様が斬られて私も斬られるという・・・」


「あぁ!あれ・・・」


ベアトリスは頷いて青ざめた顔でアラン王子を見上げる。

アラン王子は険しい顔をしてエマーリエを振り返った。


「レイモンド兄上の戴冠式は欠席しろ」


エマーリエが答えるより早くベアトリスが口を挟んだ。


「そういう訳にはいかないわよ!欠席となると不仲説が出るわ。かといって病気で欠席してもエマーリエちゃんにいい噂は出ないわよ」


「エマーリエと俺が出席すれば、どちらも命が無い。噂などどうでもいいだろう」


アラン王子の言葉にベアトリスは戸惑ったようにエマーリエを見つめた。


「誰が命をねらっているのかしら。それもレイモンドの戴冠式に・・・」


「レイモンド兄上を王位につかせたくない誰かだろうな」


「そんな人、調査に上がっていないわよね。ちょっと待って、あなた達の命も危ないけれどレイモンド達も危ないのではないかしら」


益々顔が青くなるベアトリスにアラン王子は頷いた。


「そんな場所にエマーリエを置いておけない」


「そうね・・・。私も欠席したいぐらいだわ」


自分は欠席することになりそうな雰囲気にエマーリエは手を上げる。


「あの、私は欠席したくありません」


「なぜだ」


アラン王子に怒りのこもった目で見られてエマーリエは首をすくめる。


「だって、私が居ればアラン様の危機を救えるかもしれません。もしかしたら起こらないかもしれないですし、別の何かが起こるかもしれません。その時に視えるのは私だけですし。私だけが助けることができるからです」


勇気を振り絞って言うエマーリエにアラン王子は首を振った。


「お前の気持ちは嬉しいが、危険すぎる。多数の人間が俺たちの命を狙っているんだ。王位が絡むと厄介だ」


「でも、欠席はしたくないです」


数人の人に剣で刺されている光景を思い出して目を瞑る。

たとえ自分も斬られても何かアラン王子を助けることができるかもしれない。


「そうねぇ。警備を完璧にすれば大丈夫じゃないかしら」


ベアトリスもなんとかエマーリエの意志を尊重できるように言ってくれるがアラン王子は首を振る。


「俺が死ぬのは仕方ないがエマーリエは巻き込まれただけだ。俺と関わらなければ剣で斬られることも無い」


「そんな、私はアラン様を守りたいだけなのです」


もし、死んでしまってもその時に傍に居たいとエマーリエは固く決心をする。

そんな思いが伝わったのかアラン王子はため息を一つついた。


「お前の気持ちは判った」


出席を許してくれたのかとエマーリエとベアトリスは顔を見合わせて微笑んだ。


「婚約は無かったことにする」


「えっ」


アラン王子の言葉にエマーリエは固まった。

目を見開いて固まってしまったエマーリエの背中を撫でながらベアトリスは精いっぱい優しい声を出す。


「アラン?お母さんの聞き間違えかしら・・・・。もう一回言ってくれる?」


「婚約を破棄すると言ったんだ。エマーリエと俺はもう無関係だ」


「・・・そんな・・・」


今にも泣きだしそうなエマーリエを見つめるアラン王子は無表情だ。


「俺と無関係になれば式典にも出席しなくていい。王位を狙っている敵にも命を狙われることは無いだろう」


部屋を出て行こうとするアラン王子をベアトリスは呼び止める。


「待って。ドレスを変えてアランの衣装を変えれば、殺される可能性が無くなるかもしれないわよ」


「無理だ。たとえ、エマーリエを欠席させたとしても王位を狙うものが居ればいつか狙われるだろう。それに今気づいた」


「今って・・・・」


ベアトリス王妃は呟いてエマーリエの顔を見る。

目を見開いたままショックで動かないエマーリエの両目からポロポロと涙が溢れ落ちていく。


「すぐに荷物をまとめて出て行ってくれ」


冷たく言うとアラン王子は衣裳部屋を出て行ってしまった。

残されたエマーリエの背中をベアトリス王妃は必死に撫でる。


「大丈夫よ。少し時間が経てばアランも婚約破棄なんて言葉訂正してくれるわ」


「無理だと思います」


エマーリエは涙を流しながら首を振った。

あの映像を見たからこそわかる。

アラン王子は自分が死ぬことよりもエマーリエが死ぬことを避けたいのだろうと。

納得は行かないがアラン王子の意志の固さをエマーリエは感じた。


「もう、だめかもしれないです」


泣きながら言うエマーリエにベアトリス王妃は首を振る。


「大丈夫よ。婚約破棄なんて言葉は内輪の身で留めておくわ。ちょっと、いろいろ相談をするから、エマーリエちゃんはアランの言う通り実家で少しゆっくりしていて」


「ベアトリス王妃様、お世話になりました」


大泣きしながらしがみついてくるエマーリエを抱きしめる。


「大丈夫よ、エマーリエちゃんは絶対にここに帰ってくるから」


エマーリエはベアトリスの胸の中で声を上げて泣いた。


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