表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

16

テレッサ姫の姿を探そうとエマーリエは視線をさまよわせると、壇上へと一直線に歩いてくる女性が目に入ってきた。

細い体を見せつけるような魅惑的なドレスは金色の刺繍で模様がしてあり、黒い髪の毛は頂点で結ばれている。

片方だけ流している長い前髪をかき上げて壇上へと登ってきた。

傍にはお付きの侍女が視線をさまよわせながら後ろを付いてくる。


「本日はお招きありがとうございます。レイモンド王太子、ジュリエット王太子妃」


軽く腰を下げて挨拶をするテレッサ姫は真っ赤な口紅を付けた唇が印象的な美女だ。

目の周りを真っ黒なアイシャドウで囲んでいるお化粧を施し、黒く輝く瞳がエマーリエを睨みつけた。


「こちらがアラン様と結婚されるご予定のお嬢様かしら?」


笑みを浮かべながら睨みつける瞳が恐ろしかったが、エマーリエは平静を装って軽く腰を下げた。


「お初にお目にかかります、エマーリエ・ベェツダーと申します」


「平凡ね。アラン様はどこがいいのかしら。こんな女が好みだったら私に振り向かないはずだわね」


他の客にも聞こえるぐらい大きな声で言うテレッサ姫に、ジュリエットは扇で口元を隠しながらエマーリエに囁いた。


「見た目より、性格が最悪なのよね」


テレッサ姫に聞こえるのではないかと、冷や冷やしながらエマーリエは作り笑いを浮かべてやり過ごそうと適当に頷いておいた。


「アラン様はどちらへ?」


アラン王子の姿が見えないのが不満らしく、テレッサ姫は会場を見回した。


「席を外しておりますわ」


エマーリエの代りに、ジュリエットが答える。


「ご挨拶がしたいのに。まぁいいわ、癪だけれどお祝いをと思って駆けつけましたのよ」


「それはありがとうございます」


エマーリエとテレッサの間に立ってジュリエットが答える。

ムッとした表情を浮かべつつテレッサは給仕が運んできたワインを手に持ってエマーリエに渡し自らも手に持った。


「乾杯でもしましょう」


挑戦的なテレッサの瞳に、思わずエマーリエは頷いてしまった。


「え、えぇ」


「おめでとう、婚約者になれて」


「ありがとうございます」


とても祝っているという雰囲気ではないがエマーリエは頷いてお互いワイングラスを持ち上げた。

テレッサ姫が一口飲み、エマーリエを見つめた。


「あなたも、飲みなさいよ。私のお祝いが受け取れないのかしら」


「とんでもございません」


テレッサ姫は隣国の王族だ、何かあったら国際問題になるとエマーリエはワイングラスに口を付ける。

一口飲み込むと、テレッサは上機嫌になった。


「アラン様との結婚は諦めたわけではないのよ。覚えておきなさい」


上機嫌の割に口は悪い。


曖昧に微笑んでエマーリエはテレッサ姫に合わせてワインを飲む。

何も食べていないので酔いが早くなりそうだと思っていると、テレッサ姫の目が輝いた。


「アラン様。お待ちしておりましたわ」


後ろから壇上へと上がってきたアラン王子はエマーリエの横に立つと、無表情にテレッサ姫に頷く。


「お祝いありがとうございました」


冷たく言うアラン王子に気にした様子もなくテレッサは心から笑みを向ける。


「きっとアラン様は私と結婚してくださるとこの娘に伝えたのですわ」


「残念ながら、私はエマーリエ以外とは結婚することはありませんので諦めてください」


無表情に言うアラン王子の言葉にエマーリエは胸がときめいてしまう。

出来ればこんな場面ではなく、二人きりの時に言ってほしかった。


「私は信じておりますわ。最後は私を選ぶと」


その自信はどこからくるのだろうかとエマーリエとジュリエットは顔を見合わせてしまう。

テレッサはアラン王子をうっとりと見つめながらワインを飲み干した。

アラン王子はなぜか顔をしかめて、エマーリエの手に持っているワイングラスを見て目を見開いた。


「それを飲んだのか?」


「え?えぇ」


すでに空になっているエマーリエの手のグラスを乱暴に奪い取り、我関せずと席に座ってシャンパンを飲んでいたレイモンド王太子にグラスを渡す。


「このグラスを調べてくれ」


小声で言うと、エマーリエの傍に来て両肩を掴んで顔を覗き込んだ。

アラン王子の近すぎる美しい顔にエマーリエの顔が赤くなる。


「なんですか?」


「顔色は悪くないな・・・」


しっかりとエマーリエの顔を見てアラン王子は呟いた。


「失礼ね、私が毒を入れたとでもいうのかしら?」


ツンとして言うテレッサ姫にアラン王子は冷たい視線を向ける。


「エマーリエはお酒に弱いもので心配しただけです」


お酒には弱くは無いが、エマーリエは微笑んで頷こうとしたが足元が落ちるような感覚にアラン王子の腕を掴んだ。


「どうした?」


心配そうなアラン王子の声が遠くに聞こえるような気がして両手で強く王子の腕を握った。

心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒くなる。

立っているのも辛くなり、倒れそうになるエマーリエをアラン王子が抱え上げた。


「兄上、テレッサ姫の身体検査をしてください。その豊満な胸のあたりを調べれば何か出てくるかもしれません」


レイモンドは顔をしかめながらも頷いた。


「なによ?私が何かその小娘に一服盛ったとでも?私はパルサ国の姫なのよ。分かっているわよね」


圧を掛けるようにレイモンドとアラン王子を睨みつけるテレッサ姫。

レイモンドは至極面倒な表情を浮かべて後ろに控えている騎士を振り返った。


「アランが言うならそうだろうな。テレッサ姫の身体検査をお願い。女性騎士数人でやってくれ」

「はっ」


騎士が頭を下げるのを見てテレッサ姫は唇を噛んでアラン王子の腕の中に居るエマーリエを睨みつける。


荒い呼吸を繰り返しながらエマーリエは必死に嘔吐しそうになるのを堪えて口を押えた。


アラン王子は歩きながらエマーリエの手をどける。


「吐けるなら吐け」


歩きながらそれもアラン王子の腕の中で吐けるはずもないと回る景色の中でエマーリエは微かに首を振った。

用意された別室へと向かうと、アラン王子はエマーリエを連れてバスルームへと向かった。


戸惑う侍女たちが後を付いてくる。

その一人にアラン王子は命じた。


「水を持ってこい」


「はい」


控えていた侍女が差し出した水差しをコップに移すことなくエマーリエに飲ませた。

勢いよく水を飲み込んでむせるエマーリエの背中に手をまわして締め付けていたドレスのひもを緩めた。

慌てて止める侍女たちを下がらせアラン王子はエマーリエの口に手を突っ込む。


「飲んだワインを全部吐き出させる」

「うえぇ」


自分の意図しない吐き気に襲われてエマーリエは胃の中身を吐き出した。

それでも執拗にアラン王子の手がエマーリエの口の中に入れられる。

吐き気と、眩暈に意識が遠のきながらもう吐けないとエマーリエは小声で言うとやっと口の中に入れていた手が無くなった。


後ろで控えていた医者が、進み出てきてエマーリエの脈を確認した。


「大分吐かせたので危機は無いでしょが、油断はできませんな。薬を投与しましよう。ベッドへ」


眩暈と続く吐き気に襲われて一人で立つこともできないエマーリエは再びアラン王子に抱えられてベッドへと向かう。

半分脱がされているエマーリエの服をアラン王子は抱えたまま脱がせて傍にいる侍女に手渡した。

侍女は戸惑いながらも受け取り、エマーリエの寝巻を手に持って着させようとする。


「俺がやった方が早い」


アラン王子は侍女から寝巻を奪い取ると器用に抱えながらエマーリエに着させた。

侍女がエマーリエの顔をぬぐおうとしていた暖かいタオルも奪い取ってエマーリエお顔を優しくぬぐった。


荒い呼吸を繰り返すエマーリエは意識朦朧としながらもアラン王子に着替えをさせて恥ずかしいと思いながらも抵抗する力もなくされるがままだ。


アラン王子が着替え終えたエマーリエをベッドへと寝かせた。


すかさず医師が脈と血圧を測り薬を投与する。


「先ほどワイングラスに残っていた毒の種類が判明しまして、この薬を飲ませて経過観察をしましょう。王子の応急処置も早かったのが良かったですね」


医師とアラン王子が話している声を聴きながらエマーリエは眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ