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「完璧よ。エマーリエちゃん」


婚約お披露目パーティー当日、エマーリエは薄赤色のドレス身を包んで緊張で顔をこわばらせていた。

ベアトリス王妃が褒めしてくれるが、とても自分がアラン王子の隣に並ぶぐらい美しくなったと思えずなんども自分の恰好を鏡で確かめる。


「凄く可愛く仕上がっているのに、何が不安なのかしら?」


王妃は可愛く仕上がっていると言ってくれるが、鏡の中の自分はいつもと大して変化が無い。


「いつもの私と変わりなくて、招待されたお客様をガッカリさせてしまうのではないかと思って」


アラン王子が一目惚れしたと言う噂が流れてどんな美女なのだろうかと隣国では噂になっているらしい。

国内であるならエマーリエの顔を知っているものがいるので緊張はしないが、隣国か来るというテレッサ姫の存在が気がかりなのだ。


「大丈夫、可愛いから!」


王妃は親指を立ててエマーリエを励まそうとするが、エマーリエはますます不安になる。


「テレッサ姫がいらっしゃっているんですよね」


「あー、あの子ねぇ・・・・」


ベアトリス王妃は顔をしかめて手に持っていた扇子を握りしめた。


「王妃もご存じなのですか?」


「知っているわよ。アランに一目惚れしてしつこく近づいてきたプライドの高い嫌な感じの姫なのよ。あんな子にウチの息子を近づけるのも嫌よね」


ベアトリス王妃にそこまで言われるテレッサ姫が怖くなる。


「それだけアラン様の事をお慕いしていた姫様がいらっしゃって、私は大丈夫でしょうか」


マドリーヌからも忠告されていることを思い出してエマーリエは両手を握りしめた。

右手の怪我はほとんど完治しており、手袋をしていれば傷口も見えない。


「大丈夫よ!アランが選んだのはエマーリエちゃんなんだから、しっかり自信を持ってちょうだい。私の城で変なことはさせませんからね」


ベアトリス王妃が必死に慰めていると、アラン王子が衣裳部屋へとやってきた。

婚約発表の小規模なパーティーということだが、黒い騎士服という簡素な服装だ。

騎士の訓練施設で見た騎士姿にベアトリス王妃は顔を引きつらせる。


「アラン?あなたその恰好で出席するのかしら?」


「騎士服で式典の出席は可能だったはずだ」


「自分の婚約披露パーティーにそんな恰好でいいと思っているの?洋服がないわけではないのだから着替えて頂戴!エマーリエちゃんなんて朝から準備して可愛く美しくしているのよ」


王妃の言葉にアラン王子はドレス姿のエマーリエを見て目を細めた。


「良く似合っている」


「ありがとうございます」


お礼を言うエマーリエにアラン王子は手を差し出した。


「さぁ、会場へ行こう。少し顔を出せば十分だ」


手を重ねたエマーリエを連れて歩き出したアラン王子の背中にベアトリス王妃は声を荒げる。


「そんなわけないでしょ!あなた達は主役なのよ!そしてアラン貴方は王子なの。騎士ではないのよ。着替えなさい」


「あの女に着飾った姿など見せるのが嫌なので断ります」


「あの女ってテレッサ姫の事ですか?」


エマーリエが聞くとアラン王子は頷いた。


「着飾った俺が好きだとか前に言っていたから、あえて質素で野蛮な騎士服で行く」


テレッサ姫を思い出したのかアラン王子は眉間に皺を寄せた。

ベアトリス王妃はすでに疲れた様子で後ろを歩きながらため息を付いた。


「そういえば言っていたわね。アランがいつか黒い騎士服で居た時に、野蛮な騎士の恰好なんて似合わないとかなんとか・・・」


「母上、あんな女に着飾った俺を見せて喜ばせる必要など無いでしょう」


「そんなに嫌なら来ないでくださいって言えばよかったわね」


溜息をついて言う王妃にアラン王子は肩をすくめた。


「国同士の付き合いがあるからそうもいかない。面倒だな。俺の婚約パーティーにわざわざ来るとは思わなかった。兄妹が多いのだから誰かが来ると思っていたがな」


「そうね、とりあえずエマーリエちゃんは何もしないでアランの傍に居なさいね」


「はい・・・」


お祝いムードと言う雰囲気ではないアラン王子の殺伐としたオーラにエマーリエはビクビクしつつ頷いた。



会場になっている大広間へと向かうと、立っていた騎士が恭しくドアを開ける。

アラン王子にエスコートされながらエマーリエは会場へと足を踏み入れた。

ムッとする熱気の中、生演奏をしている音楽に合わせて踊っている人や立食式の食事を手に談笑している人たちで溢れかえっている。

壇上にはすでにレイモンドとジュリエット王太子夫婦が座っているのが見えて、アラン王子に連れられてエマーリエも向かった。


「やぁ、本日はおめでとう」


アラン王子とエマーリエがやってくるとレイモンドは余所行きの笑みを浮かべて手に持っていたワイングラスを持ち上げる。


隣に座るジュリエットも余所行きの笑みを浮かべてエマーリエに微笑んだ。


「ありがとうございます」


憮然とした態度で礼をいうアラン王子にレイモンドは笑みを浮かべたまま声をひそめた。


「こんな日に質素な騎士服を着るとか頭おかしいの?式典用の騎士服だってあるでしょ」


「あの女に着飾った姿を見せるのが癪だから」


「あぁ、テレッサ姫ね」


納得したように頷くレイモンドに、横に座っているジュリエットも微笑んだまま頷いて扇子を広げて口元を隠した。


「来てるわよー。あの女。凄い目をしてアラン君とエマーリエちゃんを見ているわよ」


「えっ」


思わず振り返りそうになるエマーリエをアラン王子が止めた。


「見るな」


「相手にしないのが一番よ。とりあえず笑みを作って適当にうなずいていればいいのよ」


ジュリエットに言われてエマーリエは慌てて余所行きの笑みを浮かべた。


「マナー教室で訓練したの。王子様の婚約者みたいですか?」


多少ぎこちないものの、作り笑いをしているエマーリエにアラン王子は片眉を上げる。


「俺にはできない芸当だな」


「ニッコリともできないアランにはマナー教室の教師も匙を投げたからな」


作り笑いを浮かべたままレイモンドは言うと立ち上がる。


「さて、挨拶をすまして、あとは適当に過ごそう」


「この挨拶が面倒だから手短にお願いね」


ジュリエットも優雅に立ち上がると、ワイングラスを手持った。

後ろから給仕がワイングラスの乗ったお盆を差し出されアラン王子は二つ手に持つとエマーリエに差し出す。

エマーリエが受け取ったのを確認して、レイモンドは集まっている人たちを見まわし声を上げた。


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」


レイモンドの挨拶を聞きながらエマーリエは隣に立っているアラン王子の腕に手を置いた。

指先が痺れたような感覚に脳裏に映像が見え始める。


あの感覚だ。


エマーリエはよく見ようと、目を細めて脳裏の映像に集中する。

集まっている招待客に挨拶をして回っているアラン王子にエマーリエも傍で一緒に居るようだ。

笑みを浮かべている招待客。

ふと横を見るとアラン王子はシャンパンのような飲み物を手に持っている。

薄く黄色い色が付いた飲み物は炭酸が入っているのか気泡がグラスから見える。


アラン王子が一口飲む。

場面が切り替わり、まだパーティー中のようだ。

隣に立っているアラン王子の息が荒くなり、口元に手を当ててフラフラと歩いている。

エマーリエは寄り添いながら会場を後にするが廊下に出たとたんに倒れるアラン王子。

集まった騎士達の手により、別室へと運ばれていくが既に意識が無いようでぐったりとしている。



「エマーリエ?」



アラン王子に背中を軽く叩かれてエマーリエは見えていた映像が途切れた。

すでにレイモンド王太子の挨拶は終わっており、乾杯の場面だ。

エマーリエは慌ててグラスを持ち上げ乾杯の仕草をした。


「アラン様、飲み物に気を付けてください」


隣に立っているアラン王子にエマーリエは作り笑いを浮かべたまま小声で伝えた。


「何か視たのか?」


鋭い瞳で見られてエマーリエは頷いた。


「アラン様の飲み物に毒がいれられているかもしれないです。シャンパンです」


今、アラン王子が手に持っているのはワインだ。


顔をしかめて手に持っていたワインを眺めた。


「一口飲んでしまったが、違和感はなかったな」


「少し時間が経ってから具合が悪くなっているようでした」

「なるほど、少し席を外す。エマーリエはここから離れるなよ」


アラン王子はそう言って、ワインを給仕に渡して下がってしまった。

エマーリエも手に持っていたワインに口を付ける気も起きず、給仕に預けてジュリエットの傍へと向かった。


「アラン様は少し席を外されましたのでこちらで休ませてください」


「忙しい子ね。お母さまとオズワルド君達はちゃんとあいさつに回っているわよ」


ジュリエットは優雅に微笑み招待客の中で挨拶をして回っているオズワルドとマドリーヌに視線を向けた。

エマーリエも見ると、マドリーヌはエマーリエと合わせたデザインのドレス姿だ。


「可愛いわねぇ、マドリーヌちゃん。健気でオズワルド君が大好きってオーラが出ているわよね」


「そうですね」


まだ若いのに、礼儀作法が完璧だ。

かなり勉強をしているのだろう。

オズワルドとマドリーヌを見ているとエマーリエの腕をジュリエットが叩いた。



「あの女が来たわ。テレッサ姫よ」


扇で口元を隠しながらジュリエットが声をひそめて囁いてきた。




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