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レイモンド王太子とジュリエット王太子妃の昼食から数週間が経過した。

紅葉していた木々も葉を落とし、冷たい風が落ち葉を運んでいく。

城の廊下は寒くエマーリエは肩掛けを胸の前で押さえながら歩いていた。

すれ違う騎士や侍女たちが頭を下げるのでエマーリエも軽く頭を下げて通り過ぎる。

少し前までは注目されているような気がして緊張をしていたが、今は慣れたものだ。


「エマーリエさん」


オズワルドが前から歩いてくるエマーリエに手を振って声を掛けてきた。


「お久しぶりです。オズワルド様」


エマーリエは頭を下げて挨拶をすると、オズワルドはニッコリと微笑んだ。

金色の髪の毛は歩くたびにふわふわと揺れていて今日も可愛らしい。


「お久しぶりです。医務室の帰りですか?」


「はい、もうだいぶ良くなりました。動かすとまだ少し痛いですけれど」


すでに包帯が取れた右手をオズワルドに見せる。


「良かったです」


「オズワルド様はどちらへ行かれるのですか?」


珍しく剣を片手に持っているオズワルドにエマーリエは首を傾げた。

服装も黒いズボンと白いシャツに上着を羽織っている、彼にしては珍しく質素だ。


「騎士の訓練に少し参加するのです。僕は苦手だから行きたくないんですけれど前にアラン兄さまが妙な花嫁にナイフで襲われた件で僕も少しは護身術を身につけろと言われて」


行きたくないと顔をしかめてオズワルドはピカピカの剣をエマーリエに見せた。

一回も使われていないのではないかと思うほど真新しい剣を見て本当に訓練などしたことがないのだろうとエマーリエは思って深く頷いた。


「大変ですね」


「この剣だってアラン兄さまが選んで与えてくれたんです。恐ろしいから剣なんて使いたくないです。誰かを傷つけるなんて怖いです」


「解ります。私も運動は苦手なので騎士に交じって訓練なんて考えるだけで気分が落ち込みますね」


「そうだ、アラン兄さまも参加するから騎士の訓練見に来ませんか?」


「私などが行っても大丈夫でしょうか?」


見てみたいが邪魔になるのではと不安になるエマーリエにオズワルドは首を振った。


「マドリーヌも見に来る予定ですから大丈夫ですよ。意外と見学者が多いんです」


「それなら見に行こうかしら」


エマーリエは安心して頷くと、オズワルドと共に歩き始めた。

騎士の訓練場へは城の裏庭を通り別棟へと向かった。

石造りの塔に近づくと剣がぶつかり合う金属音が聞こえてくる。

オズワルドと共にエマーリエは室内に入った。

円形の運動場のような場所で数人の騎士達が剣を片手に打ち合いをしている。

周りを囲むように柵がしてあり数人の見物人の姿が見えた。

その中にマドリーヌを見つけてオズワルドは手を振る。

マドリーヌもオズワルドの姿に気が付いて手を振り返してくれ、オズワルドと共にエマーリエも彼女のもとへと向かった。


「エマーリエお姉さまも見学ですか?」


ピンク色のドレスを着たマドリーヌはニッコリと笑った。


可愛らしい笑顔にエマーリエも笑みを浮かべ頷く。


「はい。オズワルド様にお誘いいただきまして」


「今日はアラン王子もいらっしゃいますものね」


マドリーヌが円形の広場に視線を向けるのでエマーリエも振り返った。

騎士達の中にひときわ輝くアラン王子がエマーリエ達を見つけて近寄ってきた。


「エマーリエ、珍しいな。こんな場所に来るなんて」


「偶然オズワルド様にお会いしまして」


アラン王子は上半身だけ甲冑を身に着けいつも腰にぶら下がっている銀色の剣は使いこなされており細かい傷がついている。両手には頭を守る兜を持っている。


それをオズワルドに投げた。


「今日はオズワルドを鍛える日だ」


「やっぱり僕は向いていないのでやりたくないです」


飛んできた兜を受け止めてオズワルドは顔をしかめた。


「自分を守る手段を教え込むだけだ、戦えとは言っていない。ほら行くぞ」


オズワルドの首根っこを掴んでアラン王子は演習場へと向かって行った。


「オズワルド様、可愛そうですね」


運動音痴のエマーリエはオズワルドの気持ちが痛いほどわかり、無理やり剣を持たされている姿を見て同情して言った。


「でもいずれは自分の身を守るぐらいにはなってもらわないと困りますもの」


「どうしてですか?護衛が居るから大丈夫でしょう」


マドリーヌの言葉にエマーリエは首を傾げる。


「王は狙われますもの」


「王?ですが?」


益々意味が解らず首を傾げるエマーリエにマドリーヌは慌てて首を振った。


「王族ですわ。エマーリエお姉さまも王族の一員になるのですから身の回りにはお気を付けになられたほうがよろしいですわよ」


「そういうものなんですか?」


王族はドロドロしているという噂は聞いたことがあったが、実際会ったベアトリス王妃もレイモンド王太子夫婦もとても仲が悪いようには見えなかったとエマーリエはまた首を傾げる。


「一件優しく接していても、中身は分かりませんわよ。誰もが王位を狙っているのですから」


当たり前のように言うマドリーヌにエマーリエは首を振った。


「王位は全く魅力的には思えませんが。堅苦しいし、できれば王族など面倒なものが無くなればいいとは思いますけれど」


エマーリエの言葉にマドリーヌは少し驚いて目を見開く。


「王族は貴族の頂点ですわよ?エマーリエお姉さまは嬉しくないのですが?王家であるアラン様とご婚約されて」


「アラン様と婚約できたことは嬉しいですけれど。別に王族だからって考えたこともありませんでした。我が家は名だけ貴族ですから由緒はあってもそんなに裕福ではないから身分不相応なんですけれどね」


貧乏なのは内緒ですよと付け加えてエマーリエはマドリーヌに微笑む。

マドリーヌは信じられない顔をしてエマーリエを見上げた。


「そんな考えの方もいらっしゃいますのね」


呟いたマドリーヌに違和感を感じたもののエマーリエは練習場に居るアラン王子とオズワルドを見た。

気が進まない顔をしてオズワルドはアラン王子に剣の持ち方を指導されている。


「オズワルド様は剣の稽古はまったくしていないですかね?」


エマーリエが聞くとマドリーヌもオズワルドに視線を向けた。


「全くというわけではないようですけれど、向いていないから基礎だけで辞めたと言っておりましたわ」


「そうなんですね。私が言うのもなんですけれど、剣の持ち方は様になっていますね」


「まだまだですわよ」


剣を構えているオズワルドは筋力が無いからか体が傾いているのを指摘されているようだ。

アラン王子と騎士が指導する声が聞こえてくる。


「いいかオズワルド、もし攻撃してきたら殺すときは首を狙え」


「首なんて刺せません。兄上じゃあるまいし」


首を刺すところを想像したのかオズワルドは顔を青くした。


「ただ、よっぽどのことが無ければ殺すなよ。剣を持っている手を斬るんだ、できれば両手を斬れ。そして足も斬って逃げられないようにしろ」


「僕にそんなことはできません!」


オズワルドは抵抗しつつ、騎士が襲う役になってアラン王子が剣の持ち方や斬り方を丁寧に教えていた。


「そういえば、エマーリエお姉さまご存じでした?テレッサ姫が今度の城で行われるパーティーに参加されるそうですわよ」


「城で行われるパーティー?テレッサ姫?」


パーティーが行われることも知らなかったが、テレッサ姫と言う名前も聞いたことが無い。


「一か月後に開かれるパーティーですわ。お姉さまたちのお披露目も含まれておりますわ。そこになぜかテレッサ姫も来られるなんて喧嘩売りに来るのかしらね」


「誰に?なぜ喧嘩?」


首を傾げるエマーリエにマドリーヌはため息を付いて手に持っていた扇子を広げる。


「お姉さま!もっといろいろとお勉強された方がよろしいですわよ。テレッサ姫は隣国の第3子今年28歳になるきつーい感じの美女のことですわ。そのお方アラン様と結婚されたくてずっとアプローチされていたのですわよ」


「そんな姫様が居たんですね!」


驚くエマーリエにマドリーヌはまたため息を付いた。


「アラン様はかなり人気が高いですわよ。お姉さまが見染められたパーティーだってかなりの女性達が参加されていましたでしょ?」


「参加はしていたけれど、直ぐにみんな冷たいアラン様から心が離れていましたけれどね」


マドリーヌは素早く扇子を畳んでエマーリエに突き付けた。


「そう、そうですのよ。ほとんどのご令嬢はあの冷たくて乱暴なアラン様から心が離れていくのですが、テレッサ姫は違ったのですわ。何年もアプローチをして正式に婚約の申し込みもしておりましたがお断りしていたみたいですわね」


「そんな人がパーティーに来るなんてちょっと怖いですね。私恨まれてません?」


怖いと言うより恐ろしいと身震いするエマーリエにマドリーヌは頷く。


「人気がある方と婚約すると大変ですわね」


「私も、護衛術を教えてもらおうかしら」


アラン王子に指導してもらっているオズワルドを眺めて言うエマーリエにマドリーヌは首を振った。


「止めておいたほうがよろしいかと、オズワルド様も剣の訓練をされても実践まで活かせないようですし」


練習場ではオズワルドが剣を振るっているがアラン王子達にあしらわれて転んでいるのが見えた。

疲労のためか、鎧が重すぎるのか立ち上がれないオズワルドにアラン王子が手を貸して立ち上がらせている。


「そうね、人には向き不向きがあるわね」


オズワルドの姿を見て、諦めたエマーリエにマドリーヌは苦笑している。


「パーティーではアラン様か私達から離れないようにしていれば大丈夫ですわよ。隣国の姫でも危害を加えることは無いと思いたいですわね。それでも自分のお国でも好き放題していてかなりお荷物になっているらしいですわよ」


「恐ろしいことを言わないでくださいよー」


情けない顔をするエマーリエにマドリーヌはまたクスクスと声を出して笑いだした。


汗を拭きながら戻ってきたアラン王子と疲れ切った顔をして足を引きずっているズワルドにマドリーヌが駆け寄った。


「まぁ、オズワルド様。お怪我をされましたの?」


「怪我というか、今さっき足を捻っただけだよ」


疲れているのにオズワルドはマドリーヌを安心させるように微笑んでいる。


「お疲れさまでした」


エマーリエが見上げて言うとアラン王子は微かにうなずいた。

額に光る汗をタオルで拭っている姿にキュンとする。

キュンとしつつも言わなければならいことはある。

エマーリエは両手を腰に当ててアラン王子を見上げた。


「アラン様、パーティーがあるって私は知らなかったのですが」


「・・・言っていなかったか?」


少し考えてアラン王子はエマーリエを見つめた。


「知りませんでした。しかもそこにアラン様と結婚したいというテレッサ姫がいらっしゃるとか!」

「結婚は断っているが」


「そんな人パーティーに来るのは少し怖いです」


顔を曇らせたエマーリエの背中に手を置いて何度か叩いてアラン王子は微かに微笑む。


「何をそんなに心配しているのかわからないが、実際婚約したのはお前だし、あの女とは挨拶ぐらいしか会話したことはない。パーティー当日も俺の傍に居れば問題ないだろう」


「そうですかね・・・」


それだけで乗り切れるだろうかとエマーリエは頷きつつため息を付いた。




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