13
翌日、エマーリエは午前中に医者の診察をして午後はフリーの時間になった。
眠い目を擦りながら診察を終えて城の廊下を歩く。
昨日の疲れは一晩寝たぐらいでは取れることもなく、体が重い。
特に問題もなく経過観察と言われて新しく巻かれた包帯を眺めた。
「エマーリエ」
後ろからアラン王子に呼び止められてエマーリエは振り返った。
城の中で偶然会うのは珍しい。
「アラン様、偶然ですね」
「お前の部屋に行く所だった。医者は何か言っていたか?」
「問題ありませんって言われました。まだ包帯は取れないけれど」
包帯の巻かれた右手を持ち上げてアラン王子に見せる。
「そうか、無理な過程で戻ってきたから心配していた。怪我に支障ないなら安心だ」
「そうですね。疲労は激しいですけれどね」
「エマーリエ、急で悪いのだが兄のレイモンドとジュリエット王太子妃が昼食を一緒にと言っているんだが。昨日から疲れているだろう、断ってもいい」
アラン王子は断ってもいいと言ってくれたが王太子と王太子妃の誘いを断る勇気はない。
会いたくは無いが、いつか合わなければならない人たちだ。
エマーリエは顔をしかめながらも頷いた。
「お受けします」
「母上を見ればわかると思うが、そんな堅苦しい人たちではない。マナーだって気にする必要も無い」
「そうは言っても右手もうまく使えないし、マナー教室では怒られてばかりだし気になりますよ」
「会えばわかる」
アラン王子に背を押されて歩きだした。
「え?今から行くのですか?」
「そうだが」
エマーリエは立ち止まろうとするがアラン王子が肩に手をまわして無理やり歩かされる。
「洋服とかメイクとか色々準備していません、王太子にお会いするのに失礼じゃないですか?」
医務室に行くだけだから気軽な恰好で来てしまった自分の姿を眺めてエマーリエは青ざめた。
「別におかしくは無いが?そんなことは誰も気にしない」
「アラン様はいつも素敵だからです!」
寝起きの姿でも変わらないであろうアラン王子の姿を想像してエマーリエは必死に抵抗するが無理やり歩かされる力は強く踏みとどまることができない。
素敵と言われてアラン王子はニヤリと笑った。
「褒めてくれてありがとう」
「そういうことじゃなくて!準備をさせてと言っているんです!」
「予定が詰まっている人だから忙しいんだ」
「そうでしょうね、王太子ですから」
必死に抵抗するも虚しく、無理やり連れられて部屋へとだとりついた。
部屋の前には騎士が二人立っており、アラン王子とエマーリエの姿を見ると敬礼をしてドアを開けた。
「兄上、お待たせしました」
心の準備もできないまま、アラン王子に背を押されて部屋に入ったエマーリエを笑って見ている男と目が合った。
オズワルドと同じふわふわの金色の髪の毛の男性はレイモンド王太子だ。
隣には赤茶色の髪の毛を綺麗に纏めた凛とした美女はジュリエット王太子妃だ。
「突然お呼びして申し訳ないね。アランの兄レイモンドだ。エマーリエちゃんの噂はかねがね聞いているよ」
「お会いできて光栄です」
エマーリエはマナー教室で学んだことを思い出しながら挨拶をする。
「固い挨拶は抜きだよ。今はプライベートだからね。エマーリエちゃんにはお礼を言わないといけないと思っていてね。アランを落ちてくる枝から守ってくれてありがとう。アランの右目は守られた、君のおかげだ」
「光栄でございます」
アラン王子の危機が視えると、ベアトリス王妃が言ったのかと思ったが違っていたらしい。
お礼を言うエマーリエにジュリエット王太子妃はエマーリエを指さした。
「固い!固いわ!公式ではないのだからリラックスして頂戴。エマーリエちゃん」
人を指さすのはマナー違反ですという先生の言葉を思い出して、エマーリエはコクコクと頷く。
「そうだよ、僕達は兄弟で、エマーリエちゃんはアランのお嫁さんになるんだから僕の妹だ。だから、本当の家族だと思って接してくれ」
そう言われても王太子に失礼なことなどできないが、エマーリエは微笑んで頷いた。
レイモンドとジュリエット夫婦の前に座ったエマーリエの隣にアラン王子も座る。
直ぐに昼食が運ばれてきた。
一口サイズに切ってある食事にエマーリエはホッと息を吐く。
「また手が痛むでしょう?可哀想にねぇ」
ジュリエットはエマーリエの右手に巻かれた包帯を見ながらパンをちぎって口に放り込んだ。王太子妃とは思えない豪快さにエマーリエが目を丸くして見ていると、歯を見せて微笑んだ。
「普段ぐらい普通に食べるわよ。公式の場ではお上品に食べるわ。エマーリエちゃんもいつも堅苦しい事していたら可笑しくなるから公式の場のパーティーとかそういう時だけマナーをちゃんとすればいいのよ」
豪快に笑うジュリエットにエマーリエは少し安心する。
マナー教室ではあれもダメこれもダメと言われて城で暮らしていくのが辛く感じていたのだ。
「アラン王子の勧めでマナー教室に通わせていただいているのですが、少し大変だったんです。でも、ジュリエット妃殿下にそう言っていただいてちょっと安心しました」
エマーリエが言うと、ジュリエットは頷いた。
「解るわー。あの先生ちょっと小煩いのよね。公式の場でちゃんとできればいいのよ」
ジュリエットの言葉にアラン王子も頷く。
「暇つぶしになればと思ったが、辛いならやめてもいいと思うが」
すかさずジュリエットが首を振った。
「ダメよ。結婚したら嫌でもあの先生のマナー教室に通わせられるから。あれは義務なのよ」
「そういうものなのか」
アラン王子は頷いた。
「エマーリエちゃんはアランの冷たい言動とか行動が気にならないの?ちょっと乱暴でしょ?僕の弟」
レイモンドも気だるそうにテーブルに肘をついてサラダをフォークで突きながら言った。
本当にマナーなど気にしない王太子夫婦にエマーリエは気分が楽になる。
「全く気になりません。耳を引っ張られるのは痛いからやめてほしいですけれど」
エマーリエが言うとレイモンドとジュリエットが声を出して笑った。
「耳を引っ張ったのはほんの数回だ」
アラン王子は不服なのかギロリとエマーリエを睨みつけた。
そんなアランとエマーリエをレイモンドは面白そうに眺めている。
「暴力は良くないよ。アランはそういうところがあるからね」
ジュリエットは頷いてエマーリエに笑みを見せる。
「困ったことがあったら私に相談してね。アラン君の相談でも恋愛相談でもなんでも気軽にしていいからね」
美女の微笑みは最強だと感じながらエマーリエは頷いた。




