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日も沈み、頭上には満月の光が照らしている。

月明りの中、騎士長を先頭に馬は山道を進んでいく。

エマーリエはアラン王子の後ろに乗って移動をしている。

また何か視えるかもしれないと、背中から抱き着くようにしっかりと掴まったが指先がしびれる感覚は無かった。


「右手は痛くないか?」


包帯が巻かれた手は落ちないように両手をアラン王子のお腹辺りにまわして掴んでいる。


「はい、薬が効いているのか良くなっているのか分からないですけれど」


「無理はしない方がいい。痛みが出るようなら俺の前に座れ」


気遣ってくれるアラン王子の体温を感じながらエマーリエは流れる景色を眺めた。

どちらの車輪も偶然亀裂が入っていることなど考えられない。

一体誰がアラン王子の命をねらっているのだろうか。

エマーリエは不安な心を落ち着かせようとアラン王子の背中に頭を摺り寄せる。

アラン王子の危機は自分が視えればいいのだ。


「私がアラン様の命を守ります」


エマーリエが呟くとアラン王子は前を向きながら笑った。


「頼りにしているが、お前が怪我をする恐れがあるから動くことはな、知らせてくれれば十分だ」


何度も言われている言葉にアラン王子の優しさを感じエマーリエは頷いた。



夜遅く城へと着くと、知らせを受けていたベアトリス王妃が出迎えてくれた。


「無事で良かったわ」


夜中なのに出迎えてくれた王妃は無事を確認するように、マドリーヌとオズワルドを順番に抱きしめた。


「ただいま帰りました、母上」


オズワルドも王妃を抱きしめ返す。

王妃はエマーリエを抱きしめて耳元で呟いた。


「ありがとう、エマーリエちゃん。貴女のおかげよ」


エマーリエも王妃を抱きしめて静かに首を振った。

そして、王妃はアラン王子の前で手を広げる。


「アランも、無事で良かったわ」


抱き着いてこようとする王妃を手で制してアラン王子は頷いた。


「お気持ちだけで結構です」


「あら、これだから息子が大きくなるとつまらないわね」


王妃は呟いて仕方なく手を降ろす。


「アランは災難だったわね。妙な女にナイフで襲われたらしいわね」


全ての報告を受けている王妃が言うと、アラン王子は顔をしかめた。


「全くだ。あの女の思い通りにならないからと言って殺そうとする判断が俺には判らない」


「町中のめぼしい男とは寝ていたらしいわよ」


今日の昼間に起きた事件なのにすでに詳細な情報を知っている王妃に驚いているエマーリエに王妃は片目をつぶって見せる。


「王室の情報を舐めてはいけないわよ。どんな田舎であった出来事でもすぐに調査をして報告が上がってくるの。エマーリエちゃんも王室の一員になるのだからどんどん使ってね」


「はぁ」


曖昧に返事をするエマーリエにアラン王子はため息を付いた。


「母上、もう夜も遅い。積もる話は明日にしよう」


「そうね。無事が確認できて良かったわ。ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます」


マドリーヌは丁寧に頭を下げると、部屋へと下がって行った。

オズワルドが慌ててあとをついて行く。


「部屋まで送るよ」


「まぁ、ありがとう。オズワルド様」


去っていく二人が部屋を出て行ったのを確認して王妃は声をひそめて言う。


「エマーリエちゃん、視えたの?」


「そうだ。あの女にナイフで襲われるのと、馬車が崖から落ちる映像を見ている」


アラン王子が頷くと、王妃はエマーリエを抱きしめた。


「ありがとう、3回もアランの命を救ってくれて」


「救えてよかったです。馬車がひっくり返るのを見たのは本当にギリギリでした」


「確かに、あと少しで車軸が折れるところだった」


アラン王子が頷くとエマーリエは崖から落ちた映像を思い出す。


「崖から落ちたアラン様は私を守るために抱きしめていてくれて。馬車から出た私は怪我は無いようでした。でも、アラン様は頭と背に大きな傷を負って血まみれで・・・もう死んでいたと思います」


「まぁ・・・。辛いものをみたわね」


「どうしてアラン王子はこんなに死にそうになるんですか?」


エマーリエは王妃を抱きしめ返しながら言うと、王妃は首を振る。


「わからないわ。最近よね、こんなに死にそうな目に合うの。アラン、どこかで誰かに恨まれているんじゃないの?」


「心当たりはないな」


「オズワルドみたいに愛想がよければこんな目には合わなかったわよ。兄弟なのに、なんでそんなに違うのかしらね」


王妃の言葉にアラン王子はため息を付いた。


「善意の塊のオズワルドこそ俺たち兄弟とは違うだろ。オズワルドだけ父親が違うとか」


真面目な顔をしていうアラン王子にベアトリス王妃が思いっきり睨みつけた。


「そんなわけないでしょう!失礼ね!これからも、アランをよろくね。エマーリエちゃん」


「できる限りお助けできればと思います」


エマーリエが言うとアラン王子は首を振った。


「お前はなにもするな、視えたものを教えてくれれば十分だ」


「そうよ。危険だから」


二人に言われてエマーリエは仕方なく頷いた。



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