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目を瞑ったエマーリエの脳裏に映像が流れる。


馬車の中のアラン王子が見える、服装からして今から少し先の映像だろう。

視える映像の中ではエマーリエはアラン王子の腕の中に居る。

自分の姿は見えず、自分の目で見えた映像が脳内で見える。


ガタガタと馬車が大きく揺れて映像の中のエマーリエはアラン王子の胸に抱き着いた。


馬車の揺れは収まらず大きく傾きひっくり返った。


とっさにアラン王子に抱え込まれてエマーリエの視界は真っ暗になる。

音は聞こえないので何が起こったのか解らず、暗くなった視界が明るくなった。

割れた馬車の窓ガラスから赤い夕陽が差し込んでいるのが見えた。


視界をさまよわせ、上を向くと自分を抱えていたアラン王子の額から血が流れているのが見えた。

顔は生気がなくエマーリエを抱えていた腕はだらりと力なく落ちている。

ひっくり返った馬車のドアが開き、護衛をしていた騎士がエマーリエに手を伸ばして外に引き出した。

どうやら崖から馬車が落ちたようだ、なんどもひっくり返った馬車は半分瞑れている。

そして、アラン王子も数人がかりで馬車から引きだした。

力なく地面に横たわるアラン王子の洋服は血まみれで特に頭と背中の怪我が深い。

すでに事切れているアラン王子にエマーリエは縋りついて何度も顔を撫でている。

アラン王子の瞳は開くこともなく、両手は力なく地面に投げ出されたままだった。



「エマーリエ?」


体を揺さぶられて視えていた映像が途切れる。


目をしばたかせてエマーリエはアラン王子を見上げた。

心配そうな黒い瞳がエマーリエの顔を覗き込んでいる。

エマーリエは手を伸ばしてアラン王子の頬を撫でた。

暖かい体温がエマーリエの指先に伝わる。


「エマーリエ?何か視たのか?」


アラン王子はそっとエマーリエの頬に触れた。

ポロポロと茶色い瞳から流れる涙を長い指がすくい取る。

泣いていたことに初めて気づいたエマーリエは自分の涙をぬぐった。


「馬車が横転してアラン王子が死んでしまうのを見ました」


エマーリエは思い出しながらそう言って、ハッとして立ち上がった。


「そうよ、馬車が転落するの!早く馬車を止めて!!」


必死に叫ぶエマーリエにアラン王子は頷いて、御者へ叫んだ。


「馬を止めろ!」


直ぐに馬車は止まり、不審に思った騎士がドアを開ける。


「いかがされました?」


「馬車の車輪から妙な音がする」


「すぐに調べましょう。ちょうど崖に差し掛かったところですので何かあったら一大事ですね」


騎士はそういうと馬車の周りを調べ始める。

アラン王子とエマーリエも馬車から外に出た。


太陽は傾き、空を赤く染めている。

馬車一台が走れるぐらいの細い山道の片側は深い崖だ。

薄暗く、底が見えない。


後ろを走っていたオズワルド達の馬車も停まった。


「兄上、なにかあったのですか?」


馬車から降りてきてオズワルドは走ってくる。


「馬車の車輪から異音がするので調べている」


騎士と一緒に馬車の下を覗き込んでいるアラン王子が答えるとオズワルドは顔をしかめた。


「それは危ないですね」


オズワルドは馬車から少し離れて立っているエマーリエの傍に寄った。


「エマーリエさん寒くないですか?」


気遣ってくれるオズワルドにエマーリエは引きった笑みを浮かべて首を振った。

先ほど見た悲惨な映像が脳裏から離れず不安で胸が押しつぶされそうだ。


「あ!車軸に亀裂が入っています」


馬車の下に潜り込んで調べていた騎士が声を上げた。

アラン王子や騎士達も覗き込む。


「本当だ!車輪後ろ二つともひびが入っていますよ。危なかったですね。この悪路を走っていたらひっくり返るところでしたよ」


「異音が気のせいでなくてよかった」


アラン王子は馬車に潜り込んでいた騎士肩を叩いてエマーリエの所に歩いてきた。


「後部車輪がどちらも亀裂が入っていたようだ。たまたまなのか、誰かがやったのかはわからないが、馬車での移動は危険だな」


「そうですね。馬車が事故にあう前でよかったです」


ホッと息を吐きながらエマーリエは頷いた。


自分が視たものがこうしてアラン王子の命を救う事が出来ている。

今回も救うことができて良かったと空を見上げた。

傾いていた太陽は山の陰に隠れており、あたりは薄暗くなってきている。

山から吹く風が冷たく、エマーリエは身震いした。


「オズワルド達が乗る馬車も調べろ」


アラン王子は馬車からエマーリエのケープを取り出しながら騎士に命令をする。

騎士達は走ってオズワルドが乗っていた馬車の車輪を調べ始めた。


「僕達が乗っていた馬車も亀裂があったら意図的ですね」


顔を青くして言うオズワルドにアラン王子は頷く。


「誰かが俺達を狙っている可能性があるな」


青い色のケープコートをエマーリエに掛けて抱き寄せた。

アラン王子の体温を感じたくてエマーリエも胸にすり寄った。


「あっ、こっちの馬車も亀裂が入っていますね」


オズワルドが乗っていた馬車を調べていた騎士が声を上げた。


「兄上・・・」


助けを求めるように青い顔をしたオズワルドにアラン王子は頷いた。


「馬車は危険だな。ここに置いて後から回収させよう」


「僕達はどうやって帰るんですか?」


「馬で帰るしかあるまい。お前、乗馬は得意だっただろ?」


「こんな山の中で馬を操れるほど得意ではありません!知ってて言っているでしょう!」


頬を膨らませて怒るオズワルドは年相応な態度で可愛く見えてエマーリエは微笑んだ。


「すまなかった」


アラン王子は軽く笑ってオズワルドの頭を撫でる。


「女騎士も数名いるからマドリーヌ嬢はその馬に乗せて、お前も護衛騎士長の馬に乗れ」


「はい」


オズワルドはエマーリエ達に頭を下げて、マドリーヌが乗る馬車へと説明をしに走っていった。


「エマーリエはどうする?女性騎士の後ろに乗るか俺の後ろか」

「アラン王子の後ろがいいです。何かあったらすぐにわかるかもしれません」


アラン王子の命の危機が視えればすぐに知らせて回避することができる。

ギュッと抱き着いて服を離さないエマーリエの手を握ってアラン王子は頷いた。


馬車から降りたマドリーヌは赤いケープコートの帽子をかぶってエマーリエ達に近づいてきた。


「大変なことになりましたわね。馬車が壊れるなんて」


「事故になる可能性があるから、申し訳ないが馬で移動してもらう」


アラン王子が言うと、マドリーヌは頷いた。


「伺っております。城までは跡半分ほどですもの少し寒いですけれど頑張りましょう、エマーリエお姉さま」


ニッコリと微笑まれてエマーリエは頷いた。

美少女を夜の寒さの中馬で移動させるのは気が引けるが命には代えられない。


「マドリーヌお嬢様は馬に慣れています?」


気を紛らわせようと出立の準備をするアラン王子達を眺めながらエマーリエはマドリーヌに聞いた。


「お嬢様なんて他人行儀ですわよ。マドリーヌでいいですわ」


流石に呼び捨ては気が引ける。


「マドリーヌちゃんでいいかしら」


「ふふっ、姉妹になる予定ですものいつか呼び捨てにされることを楽しみに待ちますわね。私、乗馬は得意ですわ。運動全般得意ですの。エマーリエお姉さまは?」


「私は運動が苦手で、大きい動物も好きではないの」


顔をしかめるエマーリエにマドリーヌはクスクスと笑う。


「大丈夫ですわ。アラン王子は護衛騎士長にも負けず劣らずの剣の腕と乗馬の腕らしいから安心して後ろに乗っていればいいですわ」


「そうなんですか?そんなにお強いとは知りませんでした」


エマーリエの中ではいつも悲惨な死に方をしている映像を見ているので、騎士長に匹敵するほどの腕前だとは意外で驚いて声を上げる。


「オズワルド様は運動音痴ですけれど、それでも優しいから私は大好きですわ」


「僕の話はどうでもいいよ」


話を聞いていたオズワルドが真っ赤になって口を挟んできた。

可愛らしいやり取りにエマーリエはだいぶ緊張が解けてきて微笑んだ。



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