5話
進藤先輩のことを意識したのは、中学二年の終わりの春休みだった。
キャプテンとして部を引っ張っていかなければならないというプレッシャーの中、試合には勝てない日々が続いていた。
そんなある日の練習に、卒業したばかりの三年生の先輩たちと、高校一年生になった先輩たちが顔を出してくれた。
みんなが盛り上がる中、なんだか輪の中に入れなくて、水飲み場で顔を洗った。
顔を上げた、その瞬間だった。
偶然外へ出てきた進藤先輩と目が合った。
「瀬田、久しぶりだな。今、キャプテンなんだって?」
高校生になった先輩は、すっかり大人に見えた。
顔がびしょびしょのまま、私は慌てて答える。
「あ、はい。私なんて似合わないですよね」
「え? なんで?
一年の頃から人一倍練習してたじゃん。スリーポイントシュートも、試合であれだけ決められるのはお前だけだよ。
周りもよく見えてるし、どう考えても向いてるだろ」
そう言いながらフェイスタオルを手に取り、私の前へ差し出してくれた。
その瞬間だった。
抑え込んでいた何かが、体の奥底から一気にあふれ出すように、涙がこぼれた。
慌ててタオルを受け取り、そのまま顔に押し当てる。
「……あ、ありがとうございます。が、頑張ります!」
「うん。でも頑張りすぎるなよ。
キャプテンだからって、一人で抱え込まなくていい。周りを頼っていいんだからな」
ふわりと、一瞬だけ頭の上に手が置かれた。
ほんの一瞬。
一秒にも満たない、手の温もりすら感じないほどの短い時間。
それでも、その瞬間。
私は恋に落ちてしまった。
◇ ◇ ◇
だ……だめだ。
思い返してみたら、余計にユウリには言えない!!!
「と、とにかく!
中学のときに知り合って、『かっこいいなぁ』って片思いしてて、高校で再会して、しつこく片思いしてたら、なんと卒業前に先輩が告白してくれたの!
いや、なんか、すっごいラッキーだったのよ!!」
「……それは、いわゆる両思いというものだったのか」
(もうやめて。あんまり突っ込まないでよ……)
「た、たぶんね!
けっこう私の気持ち、バレバレだったからかなぁ。
というか、私の話はどうでもいいの!!
ユウリの話でしょう!!!
選んだ人たちを好きになれそうもないなら、また別の人を考えるしかないけど」
「いや、せっかくふゆこが考えてくれたんだ。
とりあえず、明日、袴田くんのことを観察してみよう」
「観察?」
「つまり、どちらか一方が、まず相手に興味を持たないことには始まらないということだろう」
「そ、そうね」
「観察すれば、好きになる要素が見つかるかもしれない」
なんだか違う気もするが、何事も最初の一歩は必要だろう。
私はユウリの前向きな姿勢を、全面的に支持することにした。




