1話
「い……今なんて言った?!」
「だから、男女交際をしてみようと思う、と言った」
梅雨が明け、真夏の太陽が照りつける中、背筋を伝う汗が嫌に冷たく感じた。
「ユウリ、好きな子いたの? ……え? もしかして、告白された?」
「いない。告白もされていない」
表情ひとつ変えずに答える親友を見て、いつも通りのユウリであることを確信した。
「ふゆこはそういうことに詳しいだろう。どうやって作れば良いと思う?」
「作ればって、か……彼氏のこと……だよね?」
隣を歩く横顔は、これといって変わらない。
「男でなくても良いのかもしれないが、私は恋愛をしたことがないから、対象が男が良いのか女が良いのかわからない。
とりあえず、無難に男から始めようと思っている」
「いやいやいや、大丈夫?!
ユウリらしくないよね、どうした?!」
「……」
珍しいなんて言葉では片付けられそうもない。
ユウリの前に回り込み、理由を聞くまではテコでも動かないという顔で見つめた。
「……夢を見たんだ」
「あれは、たぶん小学生の頃の記憶だ。
その夢の相手の顔は見えなかったが、その人に言われたんだ。
『感情がないロボットには、自分の気持ちはわからない』……と」
ユウリにしては珍しく、その瞳はどこか寂しげだった。
彼女は他人の意見など気にも留めない、唯我独尊の人間だ。
それが夢の中の人物――あるいは過去の記憶――に影響されたなんてことがあるのだろうか。
「それで……なんで彼氏を作ることに?」
「ダニエルに、ロボットみたいじゃなくなるにはどうすれば良いのか聞いてみたんだ」
「ダニエルが言うには、人生において最も美しく、感情豊かになれるのは愛だそうだ。
恋をして人を愛するようになれば、自然と開花すると言っていた」
「……相変わらずだね、あんたのお父さんは」
(なんだよ、開花って……)
「たしかにダニエルは、いつも母に愛を語っているからな」
「お父さんに聞くより、お母さんに聞いたほうがよかったんじゃない?」
「残念ながら、母は三か月海外出張で不在だ」
「タイミング悪っ……」
空を見上げ、小さくため息をついた。
ユウリが恋をする……いや、できるのか?
何度想像してみても、彼女の隣に立つ男だけは思い浮かばない。
でも――。
「……よし、乗った! 彼氏……作ろう!!」
どうやらこの夏は、とてつもなく面白くなりそうだ。




